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香水(コスモス4)

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 アツシがいつもキャッチをしているのは、駅から五分ほど歩いたところにある大きな交差点のはずだった。交差点のところまで来て、足を止めてあたりをぐるりと見回した。会社帰りのOL、酔っ払ったサラリーマン、すごく短いスカートを履いた山姥メイクのギャル、本当にたくさんの人が途切れることなく交差点を行き交う。その人の流れに酔いそうになりながらも、アツシの姿を探した。黒のスーツに、それほど身長が高いわけでもない、金髪で色黒なアツシの姿を。
「綾香」と、背後で声がした。咄嗟に振り返ると、そこには見慣れたアツシがいた。
 私はそのままアツシに抱きついた。通り過ぎる人が変な目で私たちを見たけれど、私は気にしなかった。アツシは「やめろよ、かっこわりぃ」と嫌そうな顔をしていた。
「おまえの、その匂いしたからまさかとは思ったけど」
 アツシが呆れたような顔で云う。「あと少しで交代だし、そこのマクドで待ってろよ」アツシにそう云われて、「わかった」と私は前のマクドナルドへ向かった。
 ウーロン茶のMを頼んで、二階の二人席に座った。プリクラ帳と鋏、そして今日撮ったプリクラを取り出した。去年の夏に変えたばかりのプリクラ帳が、もういっぱいになりそうだった。丁寧にプリクラをフレームごとに切り取って、ノートに貼り付けた。楽しいわけではないけれど、ずっとやっているし周りのみんなもやっているから、やらなくてはならないという脅迫観念に襲われる。
 これまでのプリクラをパラパラと見直してみると、サムライウーマンのピンクのパッケージを二枚見つけた。購入するたびに、その箱のメイン部分のみを切り取ってノートに貼り付けている。夏からすでに二回も買っているのかと、あらためて気付いた。
 魚にとって水がなくてはならないもので、人間にとって空気がなくてはならないものであるように、サムライウーマンの香水は私にとってなくてはならない、命の源だ。息ができなくなった私に、それを与えてくれたのはアツシだった。
 しばらくして、ハンバーガーを載せたトレイを持って、アツシがやって来た。「めっちゃだりぃ」と云いながら、足を投げ出すように椅子に座った。
 ハンバーガーの包みをがむしゃらに開けて、中身にがぶつく。その様子を、私は黙って眺めた。
「今日も帰らねぇつもり?」
 半分ほどになったハンバーガーから口を離して、アツシが云った。
作品名:香水(コスモス4) 作家名:紅月一花