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香水(コスモス4)

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 面倒くさいと云いたくなったが、静香の前でそれを云うことはやめておいた。静香は、タカやんの自殺に相当ショックを受けていたようだった。少し前まで、いつも心ここにあらずといった様子で、どこか浮かない顔をしていたものだ。長年の付き合いだったなら、仕方のないことだと思う。
「今日、終わったらカラオケ行こうよ」
 ミーコが、私たちに声を掛けてきた。「行く行く」とすぐに誘いにのった私とは逆に、静香は控えめな声で「ごめん、今日はパスするわ」と云った。
「今日は可菜子と約束があるから」
 たぶん、それはタカやん関連であることは、聞かなくてもわかった。可菜子は、どうやらタカやんのことが好きだったらしい。毎日毎日タカやんの机の上に飾られたコスモスの水換えを欠かさずしている。私はそれ以上何も聞かず、「オッケイ、また行こう」とだけ云って、話題を別のものに移した。


 カラオケを出たとき、時刻はすでに夜の九時半を回っていた。繁華街は夜の街と化していて、キャッチやホスト、客引きをするおホステスらで溢れかえっていた。制服姿の私たちは、明らかに浮いている。ときどき、いかにも軽そうな男らが声を掛けてきた。こういうことも外で遊ぶとしょっちゅうのことなので、声を掛けられたら絶対に振り向かずに無視を貫こうという暗黙の了解が、私たちの中でできている。
「もうこのまま帰るでしょ?」と、ミーコが皐月と私に向かって聞いた。皐月は「もっち」と答えたけれど、私は「寄ってくとこあるから」と答えた。
「何〜彼氏ん家?」
「まぁね」
「彼氏持ちはいいなぁ」
 皐月とミーコが意地悪い笑みを浮かべながら云った。駅近くのマクドナルドまで一緒に行って、私だけそこで別れた。
 駅とは逆方向の、繁華街の方へ再び歩き始める。制服姿で歩いているとお巡りさんに出くわすことがあるので、注意しながら歩く。一人で歩いていると、三人で歩いているときよりも色々な人に声を掛けられた。それはキャッチであったり、明らかに援助交際目的のオヤジであったり、軽そうなナンパ男であったりした。私は歩調を緩めることなく、繁華街を歩いた。
作品名:香水(コスモス4) 作家名:紅月一花