香水(コスモス4)
予鈴ギリギリの教室は、すでに人でいっぱいだった。教室に入ると、静香が「おはよう、綾香」と声を掛けてきた。いつもはストンと下に下ろしている髪が、今日はポニーテールだった。
「おはよ。静香、今日どうしたの?」
そう云って、髪の毛を指差した。
「あぁ、朝早く起きたからちょっとくくってみたの」
そう云って、笑った。髪の毛を束ねても、静香には大人の色気がある。自分のばっちりと施した化粧と違い、ファンデーションとチークを塗っただけの顔が、とてもキレイだと思った。
「朝、メールありがとねぇ」
「あぁ、全然いいよ。どうせ本当に忘れてたでしょ」
「ご名答」
二人で目を見合わせて笑う。ミーコと皐月が向こうからやってきて、「何笑ってんの?」と話に入ってきた。大抵、この四人でいつも行動を共にしている。ミーコはカジュアル系で、皐月は私と同じくオネエ系だ。静香は、たぶんどちらかといえばオネエ系だけれど、もっと大人な服が似合うと思う。
一番前の窓側の席に、人がたくさん集まっていた。ピンクのコスモスが三本飾られた机の上には、お菓子やらジュースやらがいっぱい並んでいた。静香に「もう置いた?」と聞いた。
「うん、キットカット置いといた」
私も、鞄から朝ローソンで買ったダースを取り出して、机を囲む円陣を割って端っこに置いた。
タカやんが自殺をしてから、すでに一ヶ月が経ったのか。本当にあっという間だったように思う。今でも、タカやんはこのクラスにいるような気がする。私自身、直接的によく接していたわけではないけれど、静香がよくタカやんのことを口にしていた。静香はタカやんと可菜子と同じ中学校から上がってきたということは、クラスが一緒になった当初に聞いた。いつも何が楽しいのかわからないけれど笑顔で、あれほど楽観的な人間でいられたらどんなに楽かと、よく彼を見て思った。人というのは、本当にわからないものだ。結局、遺書も見つからなくて、タカやんの自殺の原因はわからずじまいになっている。
「今日のロングホームルーム早く終わんないかな」
私がそう云うと、静香が手を横に振った。
「無理無理。今日は全校集会あるって云ってたじゃん」
「え、何で?」
「今日、タカやんの追悼式があるって云ってたじゃん」