小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

推理げえむ 1話~20話

INDEX|8ページ/67ページ|

次のページ前のページ
 

「寺田さんが制服を着ていたのは朝、出社するため部屋を出たばかりのところを襲われたからだろう。首筋にできていたという火傷から考えて、犯人はスタンガンを使って彼女を気絶させたんだろうね……。そして犯人は、元々寺田さんの部屋にあった剃刀を使ったか、または自分で用意した剃刀で、寺田さんの手首を傷付けた後、彼女に剃刀を握らせるかした。だから当然剃刀には寺田さんの指紋が付いている」
「は、はい……」
「問題はその後、部屋を出る時だ……。犯人は部屋を密室にするために加工しておいたあの氷をここで使う。サムターンにT字型の氷を取り付けるんだ。サムターン型の窪みに合わせてピッタリとね……。そして氷が外れないように気を付けながら外に出て、静かにドアを閉める。そして最後にもう一つのアレを使う……。アレ、というのはアイロンだ」
「ア、アイロン!?」
「そう。ええと、……ちょっとこっちきて」
 春日は寺田の部屋の前まで移動し、ドアのシリンダーの上辺りを指差した。
「ここ、ちょっと塗装が剥がれているところがあるでしょ。この辺りにアイロンを当てたんだ。そうすると……」
 春日はドアを開くとドアの裏側を見せ、今度はサムターンを指差した。
「ドアの内側に取り付けられたT字の氷の、右上部分が溶ける。スチール製のドアは熱が伝わり易いからね。そして、溶けた氷はバランスを崩し左に倒れる。そしたら、一緒にサムターンも回転する……」
 春日がサムターンを捻った。ドアからデッドボルトが突き出す。
「おおっ……!」
「こうやって、部屋を密室にしたんだ……。ドアの塗装が剥げているのはアイロンの熱のせいだったんだよ。そして鍵を掛けた後、氷は溶け落ちてたたきに水溜りを作る……」
「な、なるほど……。あ、しかしですね、その方法なら、誰にでも犯行は可能なのでは? サムターンの形なんて調べれば……」
「まあ、話しだけ聞いたら簡単そうに思えるかもしれないけど、実際やろうと思ったらまず失敗すると思うよ……。犯人は自室のドアで何度も何度も実験して、氷の厚さを調節しながらやっと鍵が掛けられるようになったんだ……。そして、実験を繰り返す内にドアの塗料がボロボロに剥がれちゃったんだよ。だから、それを隠すためには塗装し直すしかなかった……」
「あっ……!」
 秋山は振り返って四〇二号室のドアを見た。管理人も眼を丸くしている。
 そして春日は、
「じゃあ僕帰る」
 と言い残し…………本当に帰った。

 
 四〇二号室の住人に依頼され、ドアの塗装業者を呼んでいたのは管理人の老人であった。そのため、塗装を請け負った業者にはすぐに連絡がとれ、塗装を施す前のドアの状態も確認がとれた。春日が予想した通り、塗装はボロボロだったそうだ。
 また、何度も氷を配達した氷業者も見付かった。
 四〇二号室の住人が犯人であるという疑いを強めた警察が部屋を捜査したところ、ドアの塗料が付着したアイロンを発見したのでその住人を追及すると、容疑を認めた。
 こうして、春日は犯人の顔も、名前も、動機も知らぬまま、事件の幕は閉じた。
 
 
 
   第六話 ガスバス大爆発殺人事件

 季節は秋。山の木々は恥じらう乙女のように紅く染まり、それを見た虫達がクスクスと笑い声をたてている。うららかな午後の陽射しの下、しっとりとした草の香が鼻孔をくすぐり、風が頬ずりしながら流れてゆく中、オレンジ色の炎を上げて、バスが大爆発した。
 その音は春日達のところにも届いた。現在、春日と秋山を含むバスツアー参加者達はさして高くもない山の中腹にいた。最初、音がどこからしたのか解らず、誰もが不安そうに辺りを見回した。すると、木々の切れ間から見上げた空に黒煙が立ち昇っていた。
 春日と秋山が同時に動いた。春日は警察と消防への通報を始め、秋山は、木に登り始めた。
 秋山は手足を器用に使いスルスルとてっぺん近くまで登ると、次は滑るように一気に降りてきた。
「結構離れてます、駐車場の辺りっぽいですね。この風向きなら、ここが煙や炎に巻かれることはないかと!」
「OK。島尻さん、皆さんを連れて、落ち付いて下山して下さい! 秋山君、行くよ!」
「はい!」
 二人が見事なスタートを切った。そして、立ち尽くすバスガイドの視界からあっと言う間に消えて行った。
 二人は観光客用に舗装された歩道を逸れ、木の葉を蹴散らし、木の根を踏み越え、最短距離で山を駆け下りる。
 麓に近付くにつれ、化学素材が燃えるにおいが強くなり、口の中にはいやな苦さが広がる。そして辿り着いた山の麓の大きな駐車場で、二人は驚くべき光景を見た。なんと先程まで春日達を乗せて走っていたバスが炎に包まれていたのだ。
「まさか……運転手さん中にいたんじゃ……」
 肩で大きく息をしながら秋山が言った。
 なんとか中を窺おうとするが、熱風が二人を押し返し、煙が更に引きさがらせた。
 数分後、駆け付けた消防隊の消火活動により、ほどなく炎は消し止められ……車内から運転手の池谷が焼死体で発見された。

「どうやら、爆発の原因はガスみたいです」
 春日と秋山は通報者として警察の事情聴取を受け、その後秋山が同業者としていろいろな情報を仕入れて来た。春日が眉を持ち上げる。
「ガスだって? ああいったバスはディーゼルエンジンで燃料は軽油でしょ? どっからガスが出てきたの?」
「それは……」
 秋山が口を開きかけると、春日の傍に立っていたバスガイドの島尻が代わりに答えた。
「この後予定していた、食事会のために用意していたものだと思います……」
 バスガイドの制服が良く似合う美人で、その形の良い唇から言葉が流れ出た。
 島尻が言うには、ツアー参加者一行で山の散策を行った後、近くの広場で紅葉を愛でつつ、地鶏と酒を味わえるという、一風変わった強制イベントが用意されていたらしい。地鶏を料理する際は、灰や火の粉が飛ぶため炭は使わず、扱いが簡単なガスボンベを使用する予定だったそうだ。
「なるほどねえ……先にガスボンベが爆発して、バスの燃料が誘爆を起こしたわけか……ボンベからガスが漏れて、それに引火したのかな……」
「それについては今調べてるところですけど、バスの側面にトランクが設けられていて、そこに収納されていた二本のボンベの内、どちらかに問題があったようです」
「ふむ、どんなガスボンベだったの?」
「ええと、一斗缶ぐらいの大きさで、寸胴鍋みたいな形した、てっぺんに取っ手と開閉バルブがついてるヤツです。ほら、ネズミ色したよく見掛けるヤツですよ。……と言ってもさっきチラっと見たら二本とも爆発でボコボコになってましたけど……。ああっ! 島尻さん、足怪我してるじゃないですか!」
 スカートから伸びた白い足の、両膝の上辺りに水膨れが出来、その周りが黒に近い紫に変色していた。
「火傷したんですか!? 治療しましょう! すぐしましょう! 救急車来てるんで!」
 現在駐車場にはパトカー、消防車、救急車が詰め掛けていた。炭と化したバスとは離れた場所に一般利用客の車もちらほら停めてあるが、どの車も破片を被る程度で済んでおり、今回の爆発で犠牲になったのは池谷だけであった。
「だ、大丈夫ですよ、こんなの。……ちょっと失礼しますね」