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推理げえむ 1話~20話

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『私、頭にきて、彼に訊いたら、自分も女が来るとは聞いていなかった、とか言ってトボけてて。私、もうホント頭にきて、別れるって言ったんです。そしたら、ゴメンって謝ってくれて。もう誘われても絶対に行かないって約束してくれたんです』
「なるほどねぇ」
『ちょっと考えたんですけど、今度だけは許してあげて、一からやり直そうかと思うんですけど、どう思いますか?』
「別れなさい」
『……………………』
 それじゃ、ご相談があるときはまた。と言って春日は電話を切った。
「………………。ほ、本当に、せ、先輩は頼りになるなあ……ははは……」
「よしてくれよ。……よし、一仕事終えたところで、ぼちぼち捜査を開始していこうか」
「は、はい……」
「えっと、あの家に住んでる人、田尾さんだっけ? どんな人なの?」
「はい。山林を所有していて、そこで林業を営んでらっしゃるとか。それで、ですね、これは村の住人に聞いた話なんですけど、実は、田尾さんと桑野さんの間で問題が起きていたらしくて」
「へえ?」
「桑野さんはかなりご高齢なんですが、身寄りが無く、犬を一匹飼っていて、その犬を子供のように可愛がっていたそうです。高齢といっても、多少耳が遠いくらいで、矍鑠とした方だったみたいですね。そして、田尾さんなんですが、仕事柄、木が病気にならないように農薬を扱うこともあるらしいんですけど、桑野さんの飼い犬が農薬付きの木の実を食べて死んでしまったんですよ。田尾さんの山で犬の死体が見付かったそうです」
「あらあ……」
「獣医さんの話では、農薬を口にして数分で死んでしまっただろう、とのことです。桑野さんは、それは悲しみ、田尾さんに対して訴えを起こして、慰謝料を請求したんです。ですが、田尾さんは『犬は可哀相だが、自分に責任は無い』と言って裁判所の出頭命令を無視し続けたんです。気持ちも解りますがそれがいけなかった。判決当日、法廷に現れなかった田尾さんの敗訴が決まったんです」
「欠席即敗訴、ってやつか」
 春日はポリポリと頭を掻いた。
「田尾さんに裁判所から慰謝料の支払い命令が出たんですが、田尾さんにそんな蓄えは無く、もし支払えなかった場合は、所有する山林を売却して、それを支払いに回さなければならなかったんです」
「うわあ、それだけ拗れたらもう、立派な動機になるなぁ……。山を奪われそうになっている田尾さんが桑野さんに殺意を……」
「はい。ですが……」
「うん、わかってる。出火時刻は午後十一時。十一時十分まで自宅で友人と電話していた田尾さんに放火は無理、ってことだね」
「はい……」
「時限式や遠隔操作式の発火装置は?」
「いえ、一切使用された痕跡がありません」
「ふむ……。田尾さんの家からここまで、ちょうど百メートルってところか……会話をしているフリをして、友人に独りで喋らせておき、その隙にダッシュで火を付けに行って、ダッシュで戻って来たのでは?」
「いえ、どちらかと言うと、会話の主導権は田尾さんが握っていたようです」
「なら、田尾さんがベラベラと独りで喋っていたとか?」
「録音したテープを再生していた可能性ですね? それも無いようです。ちゃんと議論を交わし合い、変に長い間が空いたり、話が噛み合わなくなったりすることは無かったようです」
「そう。なら思い浮かぶのはコードレス電話、または家から掛けていると見せ掛けて実は携帯電話で会話していた、ってところだけど」
「はい。調べたところ、田尾さん宅の固定電話の番号から掛けられているのは間違いありませんでした。後、コードレス電話ですが、電話機の製造メーカーに問い合わせたところ、どの会社の製品でも、送信機からの有効半径は八十メートルくらいが限界だそうです。子機でも同じです。会話出来たとしても、ノイズが酷くなり、何かの拍子で信号が途切れようものなら、それっきり通話も切れてしまうそうです」
「そう……そんなにシビアじゃあ、とてもアリバイ作りには利用できないな……。ねえ、田尾さんの電話機、調べさせて貰った?」
「ええ。本体と受話機がクルクルコードで繋がっている、プッシュボタン式の電話機で、どこにでもある全く普通の物でしたよ」
「そう……。ええと、確か田尾さんと会話していた友人は、田尾さんに呼び出されて自宅を出たって話だったよね。どんな話の流れでそうなったのかな」
「はい、友人さんの話によると、そのとき、プロ野球の話をしていたそうなんですが、田尾さんが、O選手のサインボールを譲っても良いって言い出したらしいです。ボクにはよく分からなかったんですけど、何かの記念ボールらしくて、その友人さんはそれがノドから手が出るほど欲しくて、何度も譲ってくれるよう頼み込んでいたんだそうです。それが急に譲って貰えることになって、喜んで家を出たところ火事と遭遇、ってことらしいです。今までどんなに頼んでも首を縦に振らなかったのに、どうして急に、ってところには不思議そうにしてましたね」
「そう……。ふむ、そんじゃぼちぼち、田尾さんの家の方にも行ってみようか」
 二人はアスファルトで舗装された道を並んで歩いた。ほどなく田尾の家の前に辿り着く。
 ごく平凡な平屋であった。家の横には荷台にテールリフトが付いたトラックが停めてある。トラックの荷台を見ると、ちょっと揺すれば崩れてしまいそうな程、薪が積み上げられていた。
「あれは?」
「シーズンの間だけ、近くのキャンプ場に薪を卸しているそうです。今朝僕がお話を伺いにここへ来たときも田尾さんは薪を割ってらっしゃいました」
「ふーん……。ん? これは?」
 春日が地面に眼を落した。踏み均された地面に、おそらく田尾のであろう足跡が付いていた。足跡自体は何の変哲も無いのだが、少し妙なのはその足跡の両側に溝が走っていることであった。足跡は玄関から道路に向って続いている。
「手押し台車でも押したような痕だな……なんだろ?」
 春日が首を捻っていると、ふいに引き戸が音を立てて開いた。中から年季の入った作業服を着て、頭を白髪で染めた男が出てきた。
「なんだね? 警察が、まだ用があるのかね?」
 男がジロリと睨む。虚を突かれた二人はまごついた。
「あ、どうも。え、えっと。先輩、あちらが田尾さんです」
「そ、そう。えと、こんにちは。あ……ああそう、あれ、あの薪、すごい量ですね! 荷台に積むだけでも大変じゃないですか?」
「はあ? …………後ろにリフトが付いとるだろう。積むこと自体はそれ程苦労せんよ」
「そうですよね! えと、ところで、積んである薪ですけど、キャンプ場に卸してらっしゃると伺ったんですが、毎日あれだけの量をキャンプ場まで運ぶんですか?」
「違う。三日に一回だ。薪を割るのもこの歳になると結構重労働でな。数日に分けて仕事をしている」
「三日間に分けて? 一番最近、薪を配達したのはいつですか?」
「一昨日だが?」
「そうですか。いつも、薪を割るのは午前、キャンプ場に配達するのは午後のことですか?」
「そうだ」
「今日の分の薪は、もう割り終わって、積んであるわけですよね?」
「そうだが?」
「そうですか。どうもありがとうございました」
「話はそれだけかね?」