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推理げえむ 1話~20話

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「ちんすこうーーーーーーーー!!!」
 行き場の無い想いは雄叫びとなって、夜の魔天楼に響き渡った。
 
 
 
   第二十話 レム

 その日、彼等の眼前には、全焼を果たし、後は崩れ去るのを待つばかりの家屋があった。炎によって黒く染め抜かれた壁や柱は、本来どのような色合いをしていたのかさえ最早判らない。屋根は崩れ落ち、窓ガラスはそのことごとくが割れていた。空から降り注ぐ強い日差しが、焼け跡の空虚さを更に際立たせている。
 家と家との間隔が数十メートル離れているのが当たり前のような片田舎での火事であったため、隣家に火が燃え移ることは無かった。
「消防の鑑識によりますと―」
 制服姿の秋山が手帳に眼を落しながら告げた。
「放火で間違いないそうです。出火時刻は昨夜十一時、出火場所は玄関、とのことです。すぐ近くに燃料用アルコールのビンとライターが落ちていました。焼け跡からは、この家で独り暮らしをしていた桑野さんという男性が遺体で発見されています。死因は一酸化炭素中毒と火傷によるもので、出火当時、桑野さんは就寝中だったため、逃げ遅れたものと思われます。しかし、たとえ火事に気が付いたとしても、玄関を炎で塞がれていたため、脱出は困難だったかもしれません……」
「…………酷い話だ」
 春日は鼻にシワを寄せた。
「まさかボクがこの村の駐在警官として着任早々、こんな凶悪犯罪が行われようとは……」
 秋山は拳を震わせた。
「不審者の目撃情報は?」
「それが……この辺りの住民は夜に外を出歩くことがない上に、就寝も早いため、有力な情報を得ることはできませんでした」
「そう……。通報者からは何か話が聞けた?」
「いえ、特に。家を出たところ、偶然火の手が上がっているのを見付けたみたいで、それで通報を。消防への入電は午後十一時十分です。友人を訪ねるつもりだったそうです」
「そう……。しかしその通報者さん、そんな時刻に友人のところへ?」
「はい。ええと、その方の話によりますと、在宅中、携帯の方へ友人から電話が掛ってきたそうです。それが午後十時三十分。しばらく会話していると、その友人に、渡したい物があるから取りに来い、と言われたので携帯を片手に会話を続けながら家を出た直後、遠くで火の手が上がっているのを見付け、友人との会話を切り上げ、消防へ通報した、とのことです」
「ああ、そういうことか」
「はい。後、念のため、会話の相手を確認させて頂いたんですけど、そしたらですね、あそこ、あの家の住人と電話していたと仰るんです」
 秋山が腕を伸ばし、火事の現場から百メートル程離れたところに建つ一件の民家を指差した。
「へえ?」
 春日が眉を動かした。
「勿論、直ぐに行って、あの家の住人に話を伺いました。田尾さんという方です。確かに、田尾さんの方から電話を掛けたそうです。カーテンを降ろしていたし、電話に夢中で、不審者はおろか、火事にも全く気が付かなかったそうです」
「……ふうむ……」
「何か気になるところがありますか?」
「……あるね。……一つ大きく気になることがある……」
「な、なんですか!?」
「君は一体どんな失敗をやらかして、こんな田舎まで飛ばされたの?」
「うぐっ……!」
 秋山が胸を押さえて大きくよろめいた。
「……せ、先輩。先に断っておきますが、ボク個人としては、落ち度は無かったと思っています」
「ほう、ではなぜ?」
「……それは、今を遡ること数週間前、本庁からお偉いさんが視察に来る、ということでボクが接待役を仰せつかったんです。それで、その方が体を動かすのがお好きだと伺ったので」
「ああそう、まあ接待ゴルフとかは基本だよね。それで?」
「いえ、ご用意したのは接待アメフトです」
「お偉いさんにどんだけハードなスポーツやらせてんだよ」
「ちょっと趣向を変えてみたんですよ! ゴルフもアメフトも同じ球技じゃないですか! たいして違わないですよ!」
「片や最も危険な球技じゃねーか」
「ちょっと○ャンプに掲載されていたマンガに触発されただけなんです! 先方にケガを負わせたのは相手選手なんです! ボクは悪くないんです!」
「いや君が悪い。君が全部悪い。飛ばされて当然。自明の理ってやつだ」
「そ、そんなぁ……。先輩までそんなこと言うんですかぁ? もう……じゃあ百歩譲って、ボクにも非があるってことでもいいですから、とにかく助けて下さい。ガンガンポイント稼いで、転属願いを受理して貰うんですから!」
「もういいじゃないか。一生田舎勤務でも」
「嫌ですよ! こんな娯楽のないとこ!」
「それならほら、ポイント稼ぎだけが転属のチャンスではないだろう? 出世したらある程度我は通るよ。昇進試験の勉強したまえ」
「何言ってんですか先輩。そんなの嫌に決まってるじゃないですか」
「………………」
「あーあ。一カ月毎に、市街地と田舎とを交互に勤務ならベストなんだけどなぁ」
「こ、この男は…………。はぁー……わかったわかった、やるよ。事件の捜査、手伝ってあげる」
「本当ですか! ありがとうございます! 先輩は本当にいいひとだなあ!」
「よせよ、照れるじゃないか。……おっと、しまった、もうこんな時間か。ちょっと失礼するよ」
「どうしたんですか?」
「いやね、今ブログで恋愛相談室をやっているのだけれど、今日は電話相談の予約が幾つか入っているんだ。悪いけど、少しの間静かにしててね」
「了解です! 流石先輩、誰からも頼りにされているんだなあ!」
 ややあって、春日の携帯が着信音を鳴らした。
『……もしもし、あのう……』
 受話部から若い女の声が流れ出た。
「もしもし、恋でお悩みですね? 今日はどんなご相談ですか?」
 春日が爽やかに応対した。
『あのう、ワタシ、今付き合っている人がいて……もう3年くらい付き合っているんですけど……それで彼、すごく明るくて、一緒にいるとすごく楽しい人なんですけど……時々、本当にワタシの事好きなのかなって不安になる事があって……。彼、一緒にテレビを観ている時とか、街を歩いている時とか、綺麗な人を見掛けると、「今の人、可愛いかったね?」って普通に聞いてきたりするんです。ワタシもその時はそうだねって言うんですけど……自分で言っててすごく寂しくて……。ワタシは可愛いなんて言われた事無いので……。それで……たまに心配になるんです……3年も付き合っているのにプロポーズもしてくれなくて……。あのう……ワタシ、どうしたらいいと思いますか?』
「別れなさい」
『…………………………』
 それじゃ、お電話アリガトウ、と言って春日は電話を切った。しばらくすると、また電話が鳴った。
『……もしもし、よろしくお願いします』
 先程とは別の女の声が流れ出た。
「はい、こちらこそ。今日はどんなご相談ですか?」
『はい……。今付き合っている彼氏の話なんですけど。少し前、彼が会社の同期の人の送別会をやるって言ってたんです。それで、男の人だけの集まりだって聞いていたんですけど、彼のデジカメを見たら、女の人もいっぱい来てたみたいで……肩寄せて写ってる写真とかもいっぱいあって……』
「あらあ……」