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推理げえむ 1話~20話

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「数か月前の話だそうですが、この建設現場は作業員の食事を、あるお弁当工場から取り寄せていたそうです。で、そのお弁当工場は自家製豆腐が一番の自慢だったんですって。そしたらある日、小松さんが豆腐に当たってお腹を壊したと言い出したんだそうです。それを聞いた工事の責任者の方が作業員に食中毒者が出ては堪らないと別のお弁当工場に発注することに決めたとか。でも、同じものを食べたはずの他の作業員達は皆平気だったんですよ。これには豆腐嫌いの小松さんが、ほぼ毎日何かしら豆腐を使ってあるメニューに腹を立てウソを吐いたのでは、というウワサがあります」
「ふむう。なら、それに恨みを持ったそのお弁当工場の工場長辺りが……」
「それが、亡くなっています」
「へっ?」
「大口のお客を失った原因が豆腐だったのが余程ショックだったのか、倒れてしまわれてそのまま……元々、体の強い方ではなかったようです」
「そう……それは気の毒に……」
「はい、しかも話はそれだけではないんです。実は、亡くなった工場長さんの息子さんが、この建設現場で工事作業員として働いています」
「だから、それを先に言え」
「ええと、出川さんといいます。勿論、すぐに話を訊きに行きました。そしたらですよ、小松さんが殺害された夜、出川さんはA県で営まれていた葬儀に参列していました。確認も取れています」
「お通夜かい? しかももう確認取れてるんだ? 随分手回しがいいね」
「はい、それが、出川さんの方からどうぞ調べて下さいと進んで話をしてくれまして。すぐA県警に協力を要請して調べて貰ったんですよ。出川さんの話によると友人の訃報を知り、慌てて家を飛び出したそうなんですが、それが全くの勘違いで、アカの他人の葬儀だったとか。出した香典を引っ込める訳にもいかず、記帳だけして帰って来たそうです。当然、その葬儀で知り合いと出会うワケも無く、出川さんが葬儀に参列していたことを証言してくれる人物はいないんですが、受付に置かれていた芳名帳には出川さんの名前と住所がしっかり記入してありました。A県で夜、葬儀に参列していたとすると、いかなる交通手段を使ったとしてもここで小松さんを殺害することは不可能だと分かりました」
「そう……」
「後、殺害された小松さんの同僚にも話を聴けました。小松さんは死亡推定時刻の数時間前、昼勤の警備員と引き継ぎを行っています。その時、小松さんが機嫌良さそうにしていたので、同僚が何故かと訊ねたところ、小松さんはビル内の巡回が楽しみだと答えたそうです。更に何故かと訊ねたところ、それを言ったら俺の取り分が減る、と言って笑い、それ以上は教えてくれなかったそうです」
「取り分……。他には? 他には何かない?」
「ええと、あ、出川さんは血を見ると気絶するタチらしいです」
「出川さんが?」
「はい。今日出川さんから話をお聞きしていたときの事なんですが、ボクは不意に鼻孔の奥に違和感を覚え、指先で違和感の正体を探っていたところ、粘膜を傷つけてしまい、出血してしまったんです」
「要するに鼻ほじったら血が出たわけね。てか、参考人の前で鼻ほじんなよ」
「そしたら、かるく掌が紅に染まるくらい出血しまして、それを見た出川さんは気を失ってしまったらしくて」
「らしくて?」
「ええ、どうやら気を失うのはボクの方が一瞬早かったようですね」
「刑事が自分の鼻血見て気絶してんぢゃない! 全く……」
 春日は溜息を一つ吐くと腕を組み、頭の中で話を整理し始めた。春日が考えている間、秋山はすることも無いので辺りをぶらぶらと歩き回った。コツン、コツンと足音だけが響き渡る。
「あ…………」
 春日は小さく声を上げると振り向いた。その眼は秋山の足下に向けられている。
「どうかしました?」
「ああ……!」
 と今度は弾かれたように頭上を仰ぐ。
「ど、どうしたんですか?」
「……秋山君……ちょっと行ってきてくれるかな?」
「え? どこへですか?」
 春日は指を一本立てて上空を指した。

『……こちら……三十階の……秋山です……』
 電話の向こうのその息遣いは、荒い。
「ご苦労さま。随分掛ったね? どうだい?」
『ガクがヒザヒザします……』
「うんうん、わかるけど、そうじゃなくて。そこに何か無いかい? ていうか、今どの辺にいるの? 合図して」
 春日が見上げた遥か上空でライトがチカチカと光った。
「OK確認した、僕は分かる?」
 フロアに立つ春日は空に向けてライトを振った。
『あ、見えます。うわ遠、豆粒ですよ』
「うん。じゃあちょうどその辺りに何か無い?」
『何かと言われましても……別に何も無いですよ?』
「そっかぁ……じゃあ悪いけど、今度は二十九階に下りて―」
『あ、ちょっと待って下さい。使用済みの布テープが落ちてました。あ、よく見たら手摺にもくっ付いてます。…………何かが手摺に貼り付けてあったのかな? ベタベタします』
「そう…………。秋山君、もういいよ、ありがとう」
『え、何か解りましたか?』
「うん、解った。実に単純だ、しかし、しっかり工夫もしてある」
『えっ、何、どういうことですか?』
「それは、後で説明する。出川さんをここへ呼んで貰えるかな?」

※春日は今回の事件の犯人を出川だと考えているようである。出川はどのようにして小松を殺害したのだろうか?

「出川さん、急にお呼び立てして、申し訳ありません」
「はぁ、どうも……」
 秋山が頭を下げると、呼び出しに応じて現れた、中肉中背の男が会釈を返した。まだ三十代らしいが、仕事の疲れでも出ているのか随分と老け込んで見えた。
「一体、何なんでしょうか?」
 平静を装ってはいるが、その眼には警戒の色が浮かんでいる。
「それはこちらから……」
「こんばんは、私捜査に協力をしております、春日と申します。えー、邪推かもしれませんが、小耳に挟んだところ、亡くなった小松さんとは因縁浅からぬ関係だとか。なら、出川さんもこの事件に興味があるんじゃないかと思いましてね」
「……興味無いですね」
「あ、そういうもんですか? でもまあ、話だけでも聞いて下さい」
「…………」
「今回の事件ですね、凶器はズバリ『豆腐』です」
「あれっ!? 豆腐でいいんですか!? 凍ってはいなかったんですよね? 犯人が何らかの鈍器を手に小松さんを背後から襲ったんじゃないんですか?」
 秋山が横合いから口を挟んだ。
「犯人はスパイクを履いていた。いくら気を付けてもカチャカチャと足音が立つ。背後を獲るのはムリだよ」
「な、なら一体どうやったら豆腐なんかで……」
「犯人はこのビルの構造を利用したんだよ。地上三十階から豆腐を落下させ、小松さんの頭に命中させたんだ。豆腐一丁の重さは300グラムから400グラム。重力加速度を付けた豆腐の威力は相当なものになる」
 春日の言葉に秋山はしばし絶句した。
「……い、いや、そんなサラッと。い、言うのは簡単ですけど、無理ですよそんなの」
「そうかな? 無風、無回転の場合、物体は重力によって垂直に落下する。上手く狙えば可能だよ」
「狙うったって……」
「まず、床のタイルを見てごらん。碁盤のように格子状になっているだろう? そして次に三十階の手摺。何があった?」