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推理げえむ 1話~20話

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「ああどうもすみません湧川さん、私春日と申します。ちょっとお話しがありまして……」
「……なんですか……? もう言うことは全部言いましたし、疲れてますので、手短にお願いしますよ」
「ああ、申し訳ありません。……では、率直にお聞きします。……湧川さん、あなたは照屋さんと口論となり、ついカッとなって彼をベランダから突き落とした。そうじゃありませんか?」
「なっ……! ……は? いきなり、なんですか……?」
「そしてそれは偶然、誰にも目撃されずに済んだ。しかし、このまま逃走しても後で容疑者の一人に数えられるのは間違いない。この部屋である物を見付け、それを利用する方法を思い付いたあなたは、照屋さんの死体をまたこの部屋まで運んできた」
「ちがっ……! 知らない、何の話しだ……!」
「付近の住民が毛布をクッションにして照屋さんを受けとめようと持ち掛けたとき、それを止めたそうですね、なぜですか? それは照屋さんにそう言われたからではなく、ベランダが暗いとはいえ近付かれ過ぎると彼が既に死んでいるとばれる恐れが有り、毛布で受けとめられようものならそれこそ都合が悪い。そうでしょう?」
「…………」
「じ、じゃあ、死後硬直が通常よりも早く始まったわけではなかったんですね」
 秋山が横から訊ねた。
「そう、下に人が集まったときにはもう、照屋さんは亡くなっていたんだ。そして湧川さんはある方法を使って照屋さんの死体を動かし、落下させた。いや死体が動いた、と言った方が良いのかな?」
「え? 死体が動いた? な、なんですかそれ?」
「EMSマシン、電気的筋肉刺激装置って知ってるかい? 筋肉は電流を流されると収縮するという性質を持っていて、それを利用した医療機具や筋力トレーニング装置があるんだけど」
「え、あれですか? 低周波治療器とか、通販とかの」
「そうそうそれ。それの、電極パッドが粘着式になっているものだね。このマシンを使うと意志とは全く関係なく筋肉が動くんだ。死体だって動く」
「そ、そうなんですか? あ! それって、理科の実験で蛙の足に電極刺してピクピクってあれですか?」
「ああ、まさにそれ。さっきちょっと説明したけど、筋肉にはATPという物質が含まれていて、生き物が生命活動を停止するとこのATPはどんどん失われてゆく。筋肉を動かすことができるのはATPが残っている間だけ。だから例えば、家の冷蔵庫にあるスーパーから買ってきた肉に電流を流しても、もうピクピクしない」
「な、なるほど……」
「したがって、死体の死後硬直が進んでしまったらこのEMSマシンを使ったトリックは絶対に失敗する。湧川さんは大急ぎで準備に取り掛った……」
「…………」
「まず、照屋さんの死体をベランダまで運んだら上着を脱がせ、そして手摺の上、もう少し動いたら落ちてしまう、というところに横たわらせる。次に照屋さんが所持していたフィットネス用のEMSマシンを用意し、電極パッドを死体の腹部に貼り付ける。そしたら今度は、ベランダの物干竿に2リットル入りのペットボトルを糸で吊るす。そのペットボトルの真下に作動スイッチがくるようにEMSマシンを置く。最後に、物干竿から垂れ下がる糸の適当なところに火が付いた煙草を別の短い糸で結び付けたら準備OK。急いで下まで降り、大声を出して付近の住民が集まるよう演技する。火が付いた煙草はやがて糸を焼き切りボトルは落下。次にその下にあったEMSマシンのスイッチが入り死体に電流が流れる。死体は体を折るように動き、バランスを崩して手摺から落下する。その拍子に電極パッドは剥がれ手摺に残るってわけさ」
「そ、そんな仕掛けが……ボトルって、冷蔵庫に入っていたボトルですか? じゃあ付いていた灰って煙草の灰だったんですね」
「そう。このようにして、照屋さんは湧川さんによって手摺から二回落とされたんだ」
「二回……。下の芝生に窪みが二つ在ったのはそのためだったんですね」
「うん。僕は下の窪みの傍で真新しい吸殻を見付けた。そこで、照屋さんはベランダの手摺にもたれて煙草を吸っているときに一度突き落とされたのではないかと考えた。そしてベランダに置かれた灰皿の中に同じ銘柄の吸殻が入っているのを見て、その考えが強まった。下で拾った吸殻から照屋さんの唾液が検出されることは請け合いだ」
「…………」
「二度目の落下の後、湧川さんが照屋さんに駆け寄った本当の理由は電極パッドがお腹に貼り付いたまま残っていないか確認するためだろう」
「そうか、あのお腹のベタつきは電極パッドに使われている粘着剤が肌に残っていたのか……!」
「そう。そして湧川さんは照屋さんの家族に連絡を取ると称してこの部屋に入り、証拠の隠滅を図った。物干竿から垂れ下がる糸とペットボトルに結んである糸を外し、糸を焼き切るために使った煙草と一緒に灰皿へ捨てる。ペットボトルは台所へ持ってゆき、冷蔵庫の中へ戻した。そして、一番肝心なEMSマシンですが…………どこに隠しましたか?」
「…………!」
「あなたに遠くまで捨てに行く暇は無かったはずです。どうか正直に答えてはくれませんか? しらを切るなら探すまでです。きっと簡単に見付かると思いますよ」
 春日の言葉に湧川は折れた。
「…………三階の……消火栓の扉の裏に隠した……」
「……そうですか……ありがとうございます……」
 春日は頷いた。その横から秋山が湧川に訊ねた。
「湧川さん、どうしてこんなことを? 下にいる女性が関係しているんですか? あなたはあの女性を愛していて、そのことで照屋さんと口論になったんですか?」
「…………違うよ」
 答えたのは湧川ではなく、春日だった。
「多分違う」
「違うって、何がですか?」
「照屋さんはここへ越してきたばかりだというのに、湧川さんは既に合い鍵を持っていた。仲が良い兄弟にしたって仲が良過ぎる。おそらく彼等はより親しい関係―つまり湧川さんは本当に、照屋さんの『アニキ』だったんだよ……」
「え、ええっ!? そ、それって、わ、湧川さんと照屋さんが……アレで……ナニして……それで、湧川さんがアニキっ!?」
「この部屋に有るトレーニング器具には埃が積もっていない。これは、照屋さんが日頃からトレーニングに励んでいたということ。そして、EMSマシンも身体作りのために持っていたんだろう。そんな照屋さんをも手摺に抱え上げられる『パワフル』さ……湧川さんがアニキだよ……!」
「ででで、でも! 照屋さん、奥さん、子供……」
「あいつはバイセクシャルだった……」
 湧川が言った。
「……俺は生粋のBLだがな……」
「…………」
「…………」
「あいつは、自分がバイであることをあの女にばれるのを最も恐れていた……あいつは……子供ができたから、俺との関係は終わりにしたいと言った……俺はその言葉に頭に血が昇った……気が付いたら……俺は……」
「そうでしたか……」
「刑事さん、頼みがある……あの女には照屋がバイだったってこと、秘密にしておいてくれないか……」
「………………わかりました。黙っておきます」
 秋山は真摯に頷いた。
「………………」