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推理げえむ 1話~20話

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 そんな中、突如として一人のライダーの首がヘルメットごと吹っ飛んだ。一瞬の後、肝心な部分を失った胴体からは血が噴水のように噴き上がり、バイクはしばらく走った後、バランスを崩して横転した。
 カラカラと回るタイヤの音だけがしばし続いた後、あたりから次々と悲鳴があがった。

 その日、秋山に呼び出された春日は、某所にあるモトクロスパークへと姿を現した。
「せんぱーい! こっちでーす!」
 秋山が手を振って合図すると、Tシャツ姿の春日がそれに手を挙げて答えた。
 そのTシャツの胸には、大きく『車派』と書かれている。
 春日はこのような場所に来るのは初めてなのか、停めてある泥だらけのバイクやカラフルなツナギで身を包んだライダー達をしげしげと眺めながら歩いて来た。
「やあ、秋山君。並んでいるオートバイだけどさ、サイドミラーは取り外しが利くとしても、ライトも方向指示機もナンバーも無いオートバイがあるね?」
「ああはい。それはええと、コンペティションっていうモデルですね。レース場やこういった練習場専用のバイクで、二輪免許が無くても乗れるんですけど、公道では一切走れません」
「おっ、物知りだねえ」
「えへへ。ボクもさっき聞いたんです。それより先輩! モトクロスのトライアルって見たことあります? 先輩を待ってる間、参考までに見せて貰ったんですけど、もうすごいんですよ! ジャンプ台からバイクがポーンって飛ぶんですよ! ポーンって! 聞けば、飛んでる間にバイクの上で逆立ちしたり、一度完全にバイクと体が離れたりする技もあるらしいんですよ!」
「マジでか! そこまでいったらもう乗りこなしてるとかそういうレベルじゃないじゃん! 乗ってないじゃん!」
「そうなんですよ! びっくりですよね! 後で絶対見に行きましょうね! ……で、亡くなったのはこの練習場を利用していた瑞穂さんという男性です。死因は頸部切断によるもので即死でした。こちらへ来て下さい」
 秋山は少し歩くと、コースの傍に立つ一本のポールへ近付いた。
「このポールと、コースを挟んで反対側に立っているポールの間に、鉄製の細いワイヤーが張ってありました。瑞穂さんはこのワイヤーに気付かずに、かなりのスピードで突っ込んだ模様です」
 春日は眼を細め、さっきまでそこに在ったであろう、血の滴る鋼鉄の糸を想像した。
「首の位置にワイヤーがあったわけだ……でも、他のライダーさん達は平気だったわけでしょ? なんで瑞穂さんだけ? 瑞穂さんだけメッチャ座高が高かったの?」
「いえ。見ての通りこのコースのこの区間は長い直線になっています。普通、加速するときは空気抵抗を減らすために皆さん姿勢を前傾にするらしいんですけど、そのときなぜか瑞穂さんだけはずっと立ち乗りしてたみたいで。立ち乗りってのは、道の凹凸が激しいとき、膝のクッションを効かせてショックを和らげるためにするそうです」
 春日は地面に眼を落した。
「激しいデコボコなんて無いねぇ……。それが彼のスタイルだとか、立ち乗りするクセでもあったとか?」
「いえ、そんなことはないそうです」
「そう……。じゃあ偶然にも、瑞穂さんが立ち乗りしてしまったが故に、運悪く犠牲になったってこと?」
「ええ。瑞穂さんが、先に来て練習を始めていた他のライダーさん達と合流して、走り出した、その後すぐのことだったらしいです」
「ふうん……」
「鑑識も聞き取りももう終わっています。別の場所に同様の罠が仕掛けられていることはありませんでしたが、このコースはしばらく使用禁止です。こんな事態になってここのオーナーはかなり狼狽してましたよ」
「まあ、そうだろうね。あ、どうでもいいけど、こういうところのトイレって、公園の公衆便所みたいにもっとこう……ワイルドな感じかと思ったけど、意外と綺麗だし、シャワートイレ完備なんだね。さっき入ってきたんだけど」
「ああはい。なんでも、ボコボコの道を行くバイクに跨ってると、肛門への負担が尋常ではないらしく、ライダーにとって、シャワートイレは必須アイテムらしいですよ。ここのライダーさん達それぞれの自宅にも、100パー設置されているそうです。それと、ライディング後のひとシャワーはハンパ無く快感らしいですよ」
「ほほう、快感とな?」
「ええ。まあそれはさておき、とにかくこれはもう、許し難い極めて悪質なイタズラです。先輩、犯人を挙げる、何か良い方法はありませんかね?」
「イタズラ、ね……なら犯人はワイヤーを張るべき高さを測り違えたのかな? コースがストレートの間、ライダー達は皆、前傾姿勢をとるんだろう? 本来なら誰もこの仕掛けには引っ掛らないからね。もっと低い位置に張りそうだけど……ワイヤーはいつ頃張られたのかな?」
「はい。使用されたワイヤーは錆び一つ無く、真新しい物でした。ごく最近仕掛けられたものに間違いありません。……亡くなった瑞穂さんはもう、ほんととんだ災難ですよ」
「うん……」
「瑞穂さんには交際していた女性がいましてね。かわいそうに、瑞穂さんが亡くなったショックで倒れて、病院に運ばれました。なんでも、少し前から眩暈、吐き気、体重が減る等、体調を崩していたそうで、恋人の死が、止めを刺したようなかたちです」
「へえ、それは気の毒に……」
「ええ、全くですよ……」
「ふむ……今回の事件、この練習場に何か恨みのある人間の犯行だろうか……。付近の住民と何かトラブルが起きていたとか、そういった話はライダー達から聞けなかった?」
「いえ、特にそういった話は……」
「どんな些細なことでもいいんだけど」
「ええと、あ、じゃあ、瑞穂さんと、あるライダーさんの間の話なんですが」
「うん?」
「瑞穂さんと交際していたという、倒れてしまわれた女性ですが、以前は同じくこの練習場に通うあるライダーさん―相澤さんと仰るんですが、その方と深い仲だったようです。そしてその女性は現在、相澤さんと別れ、瑞穂さんと交際していたわけですが、恋人に手を出されたと言って、相澤さんが瑞穂さんに対する恨みを洩らしていたとの話が有りまして」
「ええっ、おいおい、それをトラブルと言うんだよ!モロ動機が在る人物が居るんじゃないかっ」
「えっ! い、いやでも……状況から見てたくさんいるライダーさん達の中から、瑞穂さんだけを殺害するというのは不可能でしょ? 愉快犯の無差別的犯行じゃないんですか?」
「……瑞穂さんのバイクに何か細工がされた痕跡とかは無かった?」
「いえ、そのようなものは一切ありませんでした」
「じゃあ家族の方に、瑞穂さんの今朝の様子とか訊けないかな?」
「残念ながら、瑞穂さんは独り暮らしです」
「そう……。やっぱりバイク乗りは住む所もワイルドなの?」
「いえ、普通です。多少古い1LDKだとか」
「ふむ。普段は何やってる人?」
「そこも普通に会社員です。ただ三度の飯よりバイクが好きで、休日は必ずここでライディングを行っていたようです。夜は夜で別のライディングを行っていた可能性が有ります」
「こらこら、お下品だよ。…………秋山君、瑞穂さんの遺体は今どこに?」
「署の安置室です」
「くわしい検視は?」
「いえ、行われてませんが?」