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推理げえむ 1話~20話

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「うん。まずね、犯人は、その夜は雨が降った、という事実だけが欲しかったんだ。そして雨が降ったから、行動を起こしたのさ。まず、雨が止んでから仕込みを始める。堂本氏の飲物に薬でも混ぜて眠らせ、ロープを張り、脚立を倒し、自分が付けた足跡を土を均して一旦全部消す。準備が出来たら三階の窓から声を掛けて堂本氏を起こし、先程のトリックを実行して堂本氏を歩かせる。すると、堂本氏の足跡以外は誰の足跡も無い、という状況を作りあげることができる。堂本氏が歩くのを拒んだらこのトリックは成立しないけど、気が付いたら訳の分からないまま首を締め上げられていて、苦しい中、歩け、さもないと殺す、などと脅されたとしたら……」
「歩くわね」
「歩きますね」
「僕がおかしいと思ったのは秋山君に脚立の写真を見せて貰ったとき。ぬかるんだ地面を歩いたというのに、倒れた脚立には堂本氏の靴の泥が付いていなかった。それで、堂本氏は脚立に昇らなかったんじゃないか、って思ったんだ。もし雨で洗い流されたというなら、遺体も濡れていたはずだしね」
「待って、遺書は、遺書はどうなるのよ。鑑定結果は本物と出たんでしょ?」
「本物だけど、本人が書いたものではなかったんだよ」
「は? 何それ意味わかんない。アッキーが、堂本さんが書いた原稿と照合したら本物だったって」
「だから、原稿自体、堂本氏が書いたものではなかったんだよ。警察の皆さんも第三者である出版社から提供されたリソースだったから、すっかり油断してしまったようだね」
「…………?」
「ふっ、どうやら何もかもお見通しのようですね」
 土橋が諦めたように息を吐いた。
「ど、土橋さん! いつからそこに!?」
「最初からいました」
「い、一体どういうことなのよ、スガッチ」
「近年、堂本氏の作品として書かれた原稿は、全て土橋さんの執筆によるものだよ」
「え、そうなの!?」
「そう、土橋さんは堂本氏のゴーストだったのさ。…………怪奇小説だけに」
「うわぁ、言っちゃったわね……」
「先輩、そういうこと言わなきゃかっこいいのに……」
 二人の溜息もなんのその。春日は顔色一つ変えず言葉を続けた。
「このロープを使用したトリックを実行できるのは、堂本氏と同じ家に暮らし、コンディションが整うのを淡々と待ち構えられる土橋さんしかいない。ならば、遺書の方に何か秘密があるに違いないと僕は考えた。そして、土橋さんの字を秋山君に読ませることで、その疑問は払拭できた」
「は、はい。ボクが堂本先生のものだと思っていた字は、土橋さんの字だったみたいです。そうか、人が変われば字も変わる。それを誤魔化すために、堂本先生は手首が痛いなどという嘘を担当さんに」
「いや、多分堂本氏は、土橋さんの原稿をせっせと書き写している間に、本当に手首を痛めたんじゃないかな。それを契機に、土橋さん直筆の原稿をそのまま担当さんに渡すようになったんだと思う。土橋さんは普段パソコンを使用していたかもしれないが、堂本氏はパソコンを扱うことができない。そのため、土橋さんの原稿データをフラッシュメモリや宅内LANで取り交わすこともできないから、手書きの原稿でやり取りをしていたんだろう。そして土橋さんはそれを利用し、偽の遺書を用意するトリックを思い付いた。またトリックにはウィンチを使用するが、購入したことはすぐに割れるし、ウィンチだけ購入したのではいかにも怪しい。ウィンチを手に入れるための適当な理由付けとして、狸の置物を堂本氏に贈呈した、というわけだよ。準備を万端整えたら、先程のトリックを使って堂本氏を殺害する。その後は、大急ぎで後片付けをし、自ら第一発見者となって警察を呼ぶ。ぼやぼやしているとまた雨が降り出して、せっかくの足跡が消えてしまう恐れがあるからね。そうやって堂本氏の死亡を自殺に見せ掛けようとした」
「…………ええ、そうですよ……」
「土橋さん……」
「その通り、本を書いていたのは私です。……先生から、君の面倒をみる代わりに、君の書いた作品を、私の名前で出させてくれ、と言われました。金が無く、生活もままならなかった私は、その話に乗った。そのとき私は、逆に先生の名前を利用している気でいた。丹精込めて書いた作品を世に出すことができ、更に金も手に入る。ただそれだけで満足でした。自分の名前が世に出ることは無かったけど、誇らしかった…………最初はね。私は先生に独立を申し出ました。しかし先生はそれを頑として認めなかった……。このまま続けても才能の枯れた先生と共倒れになるのは明らかだった……。そんなのは……御免だ……!」
 土橋は肩を震わせた後、息を吐いた。
「ふっ……お嬢さん、あなたが大ファンだと言ってくれた本は、実は私が書いたものだったんですよ? よろしければ、サインを書きましょうか。私の……最初で最後のサインです……」
「あ、ゴメンなさい。あたし実は全然モガっ!」
 春日は慌てて夏目の口を塞いだ。そして代わりに頷いた。
「慎んで、頂戴致します」
 土橋の手により、夏目の手帳への調印が厳かに行われた。それが済むと、今度は秋山が恭しく一礼して前に進み出た。
「土橋さん、恐れ入ります。最後ついでに、こちらの供述書にもサイン頂けまぐはっ!」
 今度は春日のハイキックが秋山を黙らせた。


「どうしたの、随分静かだね。疲れちゃった?」
 土橋の付き添いを秋山に任せ、春日と夏目は帰路に付いていた。夏目はドアに頬杖を突き、窓の外を流れる夜景をぼんやりと眺めている。
「ううん。ただ、ちょっとね……、ねぇ、こんな話知ってる? 自殺の名所として知られているビルが在ったのね。そのビルでは年に何度も人が飛び降りてて、対策のために階段の入り口に鍵が取り付けられるんだけど、毎回壊されちゃってたんだって。ほとほと困り果てたビルのオーナーが屋上へ通じるドアにこんな張り紙をしたの。『こんな高い所まで登ってこれる元気が有るなら、生きてみよう!』って。そしたら、飛び降りがぱったりと無くなったんだって」
「…………」
「こんな風に、ふとしたことで価値観がガラリと変わったりするのね……不思議よね……ほんの些細なことで、人は人を憎んだり、愛したり……何かのきっかけで、人生そのものが絶望に染まったり、バラ色に変わったり……」
「…………」
「ホントにちょっとしたことでもいいのよ……」
「…………」
「だからね…………」
「…………」
「晩ゴハンおごって」
「全く君って娘は!!!」
 流石の春日も顔を真っ赤にして怒鳴った。
 
 
 
  第十八話 必然

 耳をつんざく排気音を轟かせ、何台ものオフロードバイクが急な斜面を駆け登ってゆく。
 あるライダーは土埃をあげつつ巧みなアクセルワークでコーナーを抜け、あるライダーはバイクに跨ったまま宙を舞い、空中で、事故にしか見えないような角度に車体をわざと傾けた後、姿勢を制御し見事な着地をきめた。他のライダー達も車体が宙を舞う度に、眼を覆いたくなるような危険な技を次々と披露していく。
 コースが直線になると一斉にムチが入り、スピードは最高潮に達する。