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推理げえむ 1話~20話

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「―では、はい、ありがとうございました、それでは失礼します、はい―。……先輩、今日の土橋さんと担当さんの会話ですが、今後についての打ち合わせをしたそうです。堂本先生は連載の仕事を受けていて、次回からは土橋さんを後任として貰えるよう、遺書に書かれていたんですって。後、堂本先生は決して書斎に人を入れなかったようです。担当さんでも、執筆中の堂本先生の姿を見たことは無いそうです。それで、堂本先生が書く字についての話になりましてね、昔はそれほど酷い字じゃなかったそうなんですよ。数年前からだそうです。本人は手首の関節痛で上手く字が書けない、と漏らしていたそうなんですが」
「そう…………なら、やはり堂本氏の死亡は自殺によるものじゃないよ」
「せ、先輩! 解っちゃいましたか!? 了解です、じゃあすぐに車を回します!」
「いや、崖には移動しないから」

※堂本はどのような手段で殺害されたのか?

 ぱちん、と夏目が自分の手の甲を叩いた。
「ああもう! ここなんか虫がいるわよ! 痒っ!」
「なんだって! くそう、虫め! よくも夏目ちゃんのDNAを! 吸うなら春日先輩のを吸え!」
「勝手なこと言わないでくれたまえ」
「あ、あのう、これから何が始まるんですか?」
 土橋が落ち付かない様子で訊ねた。
「いやなに、チョットした実験を行ってみようじゃないか、という趣向です」
「ここで良いわけ? 木の近くの方が良いんじゃないの?」
 夏目が訊くと春日が肩を竦めた。四人は現在、車を停めてある前庭の方に集まっていた。
「どこでも大丈夫だよ。それに、これ以上現場の地面を踏み荒らしちゃマズイからね。じゃ、始めようか」
 春日は地面に実験に使う小道具―荷造り用のビニール紐、ハサミ、空のジュース瓶、ハリガネ―を並べた。
 ビニール紐とハサミは春日書店号に積んであった。空瓶はその辺に落ちていた物を使い、ハリガネは土橋に貰った。
 次に春日は、夏目と秋山を向かい合わせで立たせ、二人の間を5メートル開けさせた。
「秋山君、君、木の役ね。左腕を肩の高さで、真横に真っ直ぐ伸ばして。その腕が枝ね」
 秋山が言われた通り腕を上げた。春日はビニール紐の端を夏目に握らせると紐を伸ばし、秋山に向かって歩き出した。
「夏目君、君が紐を掴んでいる手の位置が、家の二階の窓の位置だと仮定しよう」
 春日は秋山が伸ばした腕にビニール紐を引っ掛け、また夏目のところまで戻ってくると、適当なところで紐を切った。
「次に、ハリガネに手を加えて、クエスチョンマークの形のフックにする。そして、『?』の下の点の部分は紐が通せるように輪っかにする」
 春日は紐の端から数十センチのところにフックを結び付けた。そして、余った紐の端を空瓶の飲み口のところに結び付け、その瓶を夏目の足下に立てた。
「この瓶が、首にロープを掛けられた堂本氏。薬で眠らされ、裏口のポーチの上に置かれた椅子にでも座らされていたんだろう」
「ちょっと、まさかあたしにこの紐を引かせて、アッキーの足下まで瓶を歩かせようってわけ!?」
「紐を引いてごらん」
 夏目が言われた通りにすると、紐に引かれた瓶はその場でこてん、と倒れた。
「当然、そうなるよね。このままロープを引いたって、体は前のめりに倒れるだけ、しかも、首に掛けられたロープの結び目は首の後ろに有るわけだから、引っ張られた体はくるりと回転してしまう。これでは仮に歩かせることができたとしても、木に向かう後ろ歩きの足跡が地面に残っている、という奇妙な状況ができあがってしまう。この問題を解決するために―」
 春日は倒れている瓶の首に掛った輪っかの隙間に、別のもう一本の紐を通し、結え付けた。そして瓶はその場に残し、紐を伸ばして夏目の後ろに立った。夏目より頭一つ背が高い春日は、紐を持った手を更に掲げた。
「僕の手の位置が、三階の窓としよう。そして―」
『!』
 春日が紐を上へ引くと、倒れていた瓶がヒョイ、と立ち上がった。
「このように、二本の紐を使い支えることによって、立たせることが可能なんだ。夏目君、紐を引いて」
 夏目が紐を引くたびに瓶はグラグラと体勢を崩すが、その都度春日は瓶が倒れないように紐を操った。そして、瓶はフラフラと蛇行しながらも、秋山の足下へと辿り着いた。
「じゃあ今度は、瓶を引っ張り上げて、枝に見立てた秋山君の腕にフックを引っ掛けるんだ。フックは一度、枝の上を完全に通過させて。そうすると、フックは自重でぶらりと垂れ下がる、そうなったら、ゆっくりと紐を戻して、フックを枝に掛けるんだ」
 夏目が紐を操作するが、フックの先は秋山の袖を引っ掻くのみに終わった。
「難しいわね……」
「成功するまで何度でもトライして」
 その後、夏目は更に失敗を繰り返した。
「な、夏目ちゃん……そろそろ成功してくれないと、ボクのスーツがえらいことに……」
 その後、夏目は更に失敗を繰り返した。
「しくしくしくしく……」
 そして漸く、フックは袖に掛った。
「うん、ここまでは理解したわ。こうやって堂本先生を無理やり歩かせた後、木に吊るして殺害したわけね。ということは、犯人は二人いるってこと?」
「いや、単独でも可能さ。二階でロープを引っ張る役をウィンチに任せればいい」
「ウィンチ!? そ、そっか、人体を吊り上げるには人の力じゃ結構キツイ、でもそれなら……」
「うん。ウィンチのコントローラーはケーブルを延ばして三階で操作すればいい。ロープを捌きながらだからかなり大変だっただろうけどね」
「なるほどね、でも問題はこの後よね、余ったロープを、足跡も付けずにどうやって回収するの?」
「それはね、ウィンチから、フックの輪っかまで伸びているロープを、巨大な円状にすればいいんだよ。輪ゴムの何処か一か所を切ると一本のゴム紐が出来るだろう? それをイメージしてみて」
「ああ、そっか! 円状のロープのどこか適当なところを切って手繰り寄せればロープはフックの輪っかから外れるのね!」
「そう。円状のロープは大分ウィンチに巻き取られてしまっているけど、どこでハサミを入れようが、結局ロープは回収出来るって寸法さ。同じように、三階から堂本氏の首まで伸びるロープも円状にする。首に掛ったロープの隙間に別のロープを通し、それを円状にすれば、同じように回収出来る。堂本氏のうなじにスリ傷が多かったのはロープを切り、それを手繰り寄せている間に付いたものだろうね」
「それじゃあ、紐を円状にした状態で、本当に成功するかどうか、実験を最初からやり直してみないといけないわね」
「ああ、早速やってみよう」
「最初からその状態でやって下さいよ!」
 泣きごとを言う秋山の袖をボロボロにしておいて、今度も見事にフックは袖に掛った。その後に、じゃあ上着脱いどけば良かったじゃん、と夏目が言った。
「うん、なんとかその状況を作りだせたみたいね」
 夏目と春日がそれぞれ紐を切り、手繰り寄せると、秋山の袖にはフックからぶら下がった瓶だけが残った。
「こうやって、堂本さんは身体を操られたってわけね。でも、トリックの仕込みの時に付く足跡はいつ消すわけ? 実際、スガッチ結構歩き回ったでしょ?」