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推理げえむ 1話~20話

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「そう。遺体の傍には脚立が倒れていたんだよね。どんなの?」
「梯子を折り畳んである、使う時にハの字に広げる、よく見かけるヤツですよ。あ、写真あります」
 秋山が出した数枚の写真に、角度を変えて撮影された脚立が写っていた。地面に接したところだけは、さすがに泥で汚れているが、光沢からして、脚立は新品であることが判る。
「秋山君、堂本氏の遺体、雨で濡れていた?」
「えっと……いえ、濡れてませんでした」
「そう……」
「あの、ボクちょっと考えたんですけど、夏目ちゃん、人を催眠術で操ったりできる?」
「は?」
 真面目な顔で訊ねられ、夏目が眉を跳ね上げた。
「いやほら、堂本さんは犯人に催眠術を掛けられて、トローンとして、フラフラーとあの木まで歩いたんじゃないかな。そして、枝にロープを掛け、脚立を蹴ろうとしたそのときに、堂本さんはハッと我に返ったんだよ。首に付いた傷は、バランスを取ろうと必死にもがいている間に爪で引っ掻いたもので、頑張ったけど、ついに脚立から足が離れてしまい……ぶらーん、って。これならほら、あの少し変な状況の説明がつくでしょ。遺書もさ、書かされたんじゃないかな」
「はぁ…………あのねアッキー、眠る一歩手前のふわぁ〜ってしてるとき、そのときって理性のフィルターが掛ってないから、心に直接声が届き易いのね。相手がリラックスして、その、暗示に掛り易い状態になるまでひたすら待って、いざその状態になったら実際に暗示を掛ける、これが催眠術。ここまではいいわね?」
「う、うん……」
「そして例えば、女性にアプローチしたいけど女性が怖い、だとか、海外旅行に行きたいけど飛行機が怖くて乗れない、といった『コンプレックスやトラウマによって抑圧された願望』を持っていて、かつ『暗示に掛ることによって苦手を克服できるなら暗示に掛りたい』という本人の意思があってはじめて、暗示に掛るわけ。または、自分には暗示が掛っているから大丈夫、という強い思い込みから恐怖が和らいでいるだけ、と言えなくもないわね」
「そ、そんな、じゃ催眠術って一体……」
「その術式によって救われた人がいるなら、それが催眠術よ。とにかく、当人が望んでもいない暗示には掛らないし、死にたいと思っているわけでもない人を、自殺するように操ったりはできないのよ」
「そ、そうかぁ……」
「うん……そうね……肉体を操ってその人に害を成す方法は無いけど、精神に干渉してダメージを与えることは可能ね」
「と、というと?」
「呪いを掛ければいいのよ」
「へっ?」
 今度は秋山が先程の夏目と同じ表情をした。
「今日あたしが、アッキーに悪夢を見せる魔法を掛けたって話をしたわよね。それで、怖がりのアッキーは、家に帰って一人になると、あたしの話を思い出すの。そしてこう思うのね、『効果が遅れているだけで、もしかしたら今夜あたり怖い夢を見るかもしれない』ってね。で、どんどん悪い考えが浮かんできて、勝手に負のスパイラルに陥ってくれるの。結果、眠れなくなったり、本当に悪夢を見ちゃうわけね。これが、『呪い』のシステム。丑の刻参り、ってあるでしょ、ワラ人形の。あれ、頭にロウソク立てて、怨みのあるターゲットの名前を叫びながら、カーンカーンって、クギを木に打ち付ける音を周り中に響かせながらやるの。それって、誰かに気付かれない方が不思議よね? そう、その行為はいつか誰かに目撃されるの。そして、誰かが○○という人物に呪いを掛けているっていう噂がたち、噂は人から人へ伝わり、やがてターゲットの耳にも入る。ターゲットは何となく落ち付かなくて、怖いけど、その話が本当かどうか確かめたくなって、明るい内にでもその現場に足を運ぶの。そして見るのよ……そこら中の木に打ち付けられた無数のワラ人形を。その光景が瞼に焼き付いて、必要以上に恐れてしまうの。そういえば、最近胸が苦しいような気がする、呪いが効いているのかもしれない、死ぬ! ってね。勝手な思い込みで体調を崩すわけ。まさに病は気から、ってやつよ。でも、呪いを掛けてる人間は真剣に、本気で相手を呪い殺そうと必死でやってるの。それが、そういう結果に繋がったりするわけね」
「そ、そんな話をイキイキされても……」
「ターゲットを貶めるために、ターゲットの周囲に悪質なデマを流すといった情報操作も、呪いの一種と言えるんじゃないかしら。その所為でターゲットは人間関係の軋轢からストレスを重ね、結果精神に異常をきたして最悪、自殺を図ったり……ね」
「なるほど……つまり、手の込んだイヤガラセによって、メンタルアタックを行うことはできるけど、身体をちょくに操ることはどうやったって無理ってことだね」
「……いや、ちょっと待ってよ二人とも。もしかしたら……堂本氏は身体を操られたのかもしれない」
 とそこで、二人の会話に春日が口を挟んだ。
「えっ、どういうことですか先輩?」
「まず、確かめたいことがある、夏目君、力を貸してくれるかな。いいかい……」

 担当者と話していたという土橋が戻り、入れ違いで秋山は電話をかけると言い、春日はトイレに行くと言ってその場を離れた。そして、夏目には一つ指令が出されていた。指令と言っても何でもいいから眼をキラキラさせながら土橋に話を振り、話を聞く、それだけであり、目的は単純に、土橋の足留めであった。
「さて、と……」
 そしてその間、春日と秋山は三階にある土橋の部屋に潜入していた。
「ドアに鍵が掛っていなかったのはラッキー」
「せ、先輩。これ、不法侵入ですよ?」
「もし見付かったら、つい部屋を間違えて、つい色々見ちゃった、ということにしよう」
「…………」
「間取りは二階の部屋と一緒だね。窓も同じ位置だ。ほら、あの木が見える。窓を開ければ?」
 窓枠の下の部分に、二階と同じように何かが擦れた新しい跡が残っていた。
「よし。じゃあ秋山君、土橋さんのノートか日記的な物を探して」
「は、はい」
 しばし、二人のコソドロまがいの行為が続いた。
「ないなぁ……普段はパソコン使ってるみたいだねぇ……」
「あ、これなんかどうですか? 土橋さんの学生時代のじゃないですかね。文芸サークルの会報みたいですよ、どうぞ」
「おお、やったね。でも、それは君が読んで。土橋さんの作品を探して」
「え、ボクが? は、はい。ええと、あった、これだな…………あれ? あれえ? この字って、確か……ど、どういうこと?」
「うん。その反応が見たかった。さあ、部屋を出よう」
「え、あ、もういいんですか?」
「うん、見るべきものは見れた。……さてと次は、秋山君、出版社の担当さんに連絡取れるかな? 幾つか質問して欲しい」
 秋山は頷くと堂本の担当者に連絡を入れ、春日に言われた通り幾つかの質問をした。