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推理げえむ 1話~20話

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「褒めるかぁ! 要するに、ダメ人間ってことじゃない!」
「違うよ! 要するに、潔いんだよ」
「潔いどころか、最初から諦めてるでしょうが! ダメ人間よ!」
「こらこら、こんな所で掛け合い漫才やってる場合じゃないでしょ」
 春日が呆れて口を挟んだ。
「アッキーがおかしなこと言ってるからよ」
「夏目ちゃんが些細なことにこだわるからだよ。いやでも確かに、夏目ちゃんのツッコミはタイミングが絶妙でとっても気持ちが良いんですよねぇ……。それに若い女の子にガミガミ言われるのってちょっとコーフンするし……うーん……刑事と女子高生の異色ユニットってのも意外とアリかもしれないですよね? 夏目ちゃん、いっちょ二人でデビューしてみる!?」
「しないわ。だからアッキーは独りで、芸名、綾小路キモまろでデビューしたら良いと思うわ」
「しくしくしく…………」
「さ、こんなキモまろはさておき」
 夏目はひざを折って地面に眼を落した。
「さすがに数日も経過してると、その足跡ってのがよく判らないわね。今は救急車の人とお巡りさんの足跡も混ざってるでしょ?」
「うん……ぐすっ、でもちゃんと調べたよ。あの夜、ここには堂本さんの足跡しかなかったって断言できる」
「そう……。じゃあ、その足跡がどのくらい、地面に沈んでいたかも判る?」
「沈んでいたか?」
 秋山は小首を傾げたが、春日は察した。
「なるほど、堂本氏がおんぶされて運ばれたんじゃないかって言いたいんだね?」
「そう。まず同じサイズで同じ種類の靴を二足用意するの。そして、堂本さんを絞殺したら、遺体を背負って木のもとへ移動。二人分の体重だから、より深く足跡が付くの。足跡が千鳥足なのは遺体が重たくてよろけたためじゃないかしら。そして元の場所へ帰るときは、最初に付けた足跡をなぞって後ろ歩きするの。そして、堂本さんにも同じ靴を履かせておけば、堂本さんが自らの足であの木まで歩き、自殺したように偽装できるってわけ。で? どうなの、アッキー?」
 問われて秋山は、あたふたと同僚に確認の連絡を入れた。
「夏目ちゃん、残っていた足跡、大人一人分の沈み具合で間違いないって」
「ちいっ、外したか……ならばこうよっ! 雨が降る前に、木のもとへ移動したの。そして、遺体を木に吊るしたら、雨が降るのを待って、地面がぬかるんでから後ろ歩きで足跡を付けるの。そしたら、一人分の深さの足跡しか残らないわ」
「おおっ、それだっ!」
「まだ続きがあるわ。部屋から見付かったという遺書。堂本氏の直筆で間違いないようだけど、あれは、堂本さんが作中で使おうとしていた文章だったのよ。それを犯人が遺書として利用したの!」
「ななな夏目ちゃん! 恐ろしい子! さ、早速、犯人を連れて崖へ移動しないと! 夏目ちゃん、犯人は誰―」
 秋山は発進しかけた体に急ブレーキを掛けた。
「……ごめん夏目ちゃん、遺書にはお弟子さんや出版社の担当さんに宛てたメッセージも一緒に書かれていたんだった。作中に使うような文章じゃ、ないや」
「先に言いなさいよ!」
「うんうん、やはり漫才に落ち付いたか……」
 春日が横で、しみじみと頷いた。
「アッキーが大事な事、早く言わないからよ!」
「いやいや夏目君、君の頭のキレには毎回舌を巻くけどね、事を急いだ君にも非はあるよ。そんなんじゃ、いずれ秋山君と同じく、お笑い要員として定着してしまうぐっ! …………」
 夏目は春日の脇腹へ地獄突きを決め、沈黙させた。
「案ずることないよ、夏目ちゃん。先輩だって立派なお笑い要員だよ」
 秋山のフォローになっていないフォローに答える代わりに、夏目はしょんぼり俯いた。
「あのう、お茶、入りましたけど……何やってるんですか一体……?」
「えっ、あっ、いや!」
 秋山が振り向くと土橋が立っていた。
「その花、木の所に添えて頂けるはずじゃ……?」
 夏目の手元に視線が集中した。その手にはまだ花束が握られている。眉を顰める土橋の前へ、神妙な面持ちをした春日が進み出た。
「えー……協議の結果、この花はやっぱり、先生の書斎へ手向けさせて頂こう、ということになりました」
「…………全く意味が解りませんが、そうされたいと仰るなら別に構いません……」
 土橋は表情にやや不信感を残しつつ承諾すると、三人を二階にある堂本の書室へ案内した。
「わあ、これがプロの仕事部屋なのね」
「なんか感慨深いものがあるよね」
「ボク緊張しちゃいます」
 興味深そうに室内を物色し始めた三人に、土橋が素朴な疑問を投げかけた。
「あのう……なぜ皆さん白い手袋をはめるんですか?」
「尊敬する堂島先生の私物を汚い手で触るのは失礼ですから」
「あのう……思いきり名前間違えてるんですけど」
「秋山君、カメラ出して。記念撮影を開始して」
「了解です」
「あ、アッキー、こっちも撮って」
「あのう……何か絨毯のシミとか、壁の傷ばっかり撮影してますけど、それで本当に記念になるんですか?」
「なります。とても重要です。それより土橋さん、あなたは堂本先生と二人でここにお住まいだったと聞いておりますが。先生が二階で、あなたが三階?」
「え? ええ、そうです」
「なるほど、土橋さんはお弟子さんになって長いんですか?」
「ええと、そうですね。五年くらいになるでしょうか」
「なるほどなるほど、参考になります」
「何のですか?」
「土橋さん、この狸の置物も、先生の趣味ですか?」
 夏目が部屋の隅から訊いてきた。そこには狸の焼き物が飾られており、大きさは夏目の胸の高さまであった。愛嬌のある顔で首を傾げ、突き出た腹の下に巨大なキャン玉袋をぶら下げている。
「ああそれは、私が先生にプレゼントした物です。縁起物ですからね」
「そうですか。でも、こんなに大きくて重そうな物、どうやってここへ運んだんですか?」
「ウィンチを購入しましてね、それを使って窓から引き上げたんです。電気で動くんですよ」
「そのためだけにそんな機械まで買ったんですか?」
「口にこそ出しませんでしたが、先生が作品のことでお悩みだったことは薄々感じてましたし……。この置物には『他を抜く』という意味もありますし、少しでも先生の運気が上向けばと、どうしてもそれをプレゼントしたかったんです」
「そうだったんですか。優しいんですね」
「…………」
 夏目が微笑み掛けると、土橋は一瞬だけ表情を曇らせた。
「……ああ、ここからあの木が見えるんですね」
 春日が重厚な造りの机を周り込み、窓に近付いた。ここからも堂本が首を吊っていたという、幹から横に突き出した太い枝を見ることが出来た。春日は土橋の了承を得ると窓を開け、下を窺った。窓は裏口の真上に位置していた。
「あ、すみません。ちょっと失礼します」
 出版社の人間から電話が入ったと言って、土橋が席を外した。
「うん? なんだろ、これ……?」
 春日が窓の下枠の部分に、観音開きの窓を開け閉めしたときにできる曲線を描いた疵の上に、ごく最近付いたものらしい何かが擦れたような跡を見付けた。
「……秋山君、枝に引っ掛けられていたというフックだけれどね、爪の先はどっちを向いていたのかな?」
「爪の先ですか? ええと、遺体はあっちを向いていて……カギ爪はこっち向きですね」