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推理げえむ 1話~20話

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 かくして、夏目を加えた一行は、再び車を走らせ、ある一件の家屋を訪ねる運びとなった。その家はとある、周りに民家も少なく、とても静かな場所に建っていた。
「へえ、古いけど、イイカンジの家ね」
 車を降りた夏目が、洋式の木造三階建てを見上げて感想を述べた。
「じゃあ、二人とも、車の中で打ち合わせした通りにお願いしますよ」
 同じく車を降りた秋山がネクタイを締め直しながら告げた。
 三人で玄関まで歩くと、先頭の秋山がドアを叩いた。二度目のノックで応答があり、中から顔色のあまり良くない、三十半ばの男が出てきた。
「先程はどうも、度々申し訳ありません」
 秋山は丁寧に頭を下げた。
「ああ、刑事さん。まだ何か? ……後ろの方達は?」
 男が春日と夏目に怪訝な眼を向けると、質素な花束を両手で持った夏目が一歩進み出た。
「突然押し掛けて本当に申し訳ありません。私、秋山さんの友人で、夏目と申します。……私、亡くなった先生の本の大ファンでした……それで、一言お悔やみを言いたくて、秋山さんに無理を言って……」
 言うと夏目はしおらしく眼を伏せた。
「先生の……? ……そうですか。では、そちらは?」
 男に眼を向けられ、今度は春日が進み出た。
「はい。私、偉大な先生の死に、いてもたってもいられず、まことに勝手ながら、書籍を扱う人間の代表として、参った次第であります」
 春日は胸を突き出してエプロンに書かれた店名を強調してから、深々と頭を垂らした。
「……そうでしたか。それはわざわざどうも。……どうぞ中へ」
 男が中へ促すと、三人は恭しく頭を下げつつドアを潜り、奥へと進んだ。
「先生の死を悔やんで頂けるのは、弟子として有難いことですが……あまり他言は無用に願いますよ。先生がどのようにして亡くなっていたか、既にお聞きですよね?」
 先を歩いていた男が肩越しに振り返って訊くと、夏目が深く頷いた。
「はい……。勿論、外では決して話に出しません……それで……この花を、その場所に……」
 男は夏目が大事そうに胸に抱えた花を眺めた。
「……そうですか。じゃあ、こっちです……」
 男は体の向きを変えると更に奥へと進み、裏口のノブに手を掛けた。ドアの外は、庇の無いポーチになっており、夕日を浴びてオレンジ色に染めあげられた土の地面が拡がっていた。庭というよりは広場といえるくらいに拓けていて、その中程にぽつんと一本の木が立っていた。
「あの木がそうです……。じゃあ、私はお茶の準備でも……」
「ああ、お構いなく」
 踵を返す男に秋山は頭を下げた。
「……さて、と」
 男の姿が見えなると夏目の眼つきが元に戻った。
「アッキー、あの木のところで、作家先生が亡くなっていたのね?」
「そう。先日、堂本さんという男性が、あの木の枝にロープを掛けて首を吊っているのが発見されたんだ。堂本さんは、怪奇小説作家として活躍していたらしいんだけど―夏目ちゃん、全然知らないの?」
「うーん、どこかで本を見掛けたような、ないような。あたし、創作モノは読まないのよね。『実録』とか『本当にあった』とか付いてる本はつい読んじゃうんだけど」
「……それだってほとんどはきっと創作だよ……。じゃあ、先輩は?」
「うちの店に怪奇モノは一切無い」
 腰に手を当てて春日が言った。
「アンタ等そんなんで、さっきはよくもあんなでまかせを……」
「その類の本を一番読まないのは君じゃないか。いいからほら、続きを話したまえ」
「……はい。ええと、遺体の第一発見者は、さっきボク等を迎えてくれたお弟子さんで、土橋さんと仰います。土橋さんの通報を受けて、救急隊が、その後にボク等が駆け付けたんですが、到着した時点で堂本さんの遺体は死後二時間程経過していました。遺体はあっちを向いていて―」
 秋山は木の向こうを手で示した。
「傍には踏み台にしたとみられる脚立が倒れていました。首を吊るのに使われたロープは枝に結ばれていたわけではなく、フックを使って枝に引っ掛けてありました」
「フック?」
「ええ、クエスチョンマーク(?)の形をしたフックです。ちょうど、下の点のところが、輪っかになっていて、そこにロープが結んでありました。そのフックが枝に掛っていたんです。それと、堂本さんが亡くなった夜は、雨が降っています。ねかるんだ土の地面には、ボク等が今立っているこのコンクリ製の足場から踏み出して、あの木まで向かう堂本さんの足跡がはっきりと残っていました。あそこまでの距離は十メートル弱。ここは見ての通り開けた場所で、木の向こうも敷地が拡がっているのみです。後、堂本さんの部屋で遺書が見付かっています。『我が想像力は既に朽ちて、精も根も尽きた。よって、死を選ぶ……』みたいなネガティブな内容が小学生みたいな字で連綿と綴られていました」
「読めるならまだいいさ。君の字なんて、ミミズがのたくった後、ドジョウに進化したような字じゃないか」
「せめて個性的な字、と言って下さい。まあ、ボクの話はさておき、出版社の方から近年の原稿を数点提供して頂きまして、筆者識別に掛けたところ、遺書は堂本さんの直筆であると鑑定されました」
「へえ? じゃあ、堂本氏は原稿書くとき、パソコンとか使わないんだ?」
「ええ、全て手書きです。自他共に認める機械オンチだったそうです」
「ふーん……。まあ、ここまで聞いた限りじゃ、自殺にしか聞えないわね。何か不可解な点でもあるわけ?」
「うん。まず、堂本さんは酔っていたわけでもないのに、地面に残った足跡がやたら千鳥足だったということ。まあ、これから自殺しようって人が足取り軽やかなはずもないんだけど。次に、首筋に付いた爪の痕と、うなじのスリ傷が随分多いこと。ロープなんかが首に食い込むと、苦しくて、こう、爪で引き剥がそうと、もがき傷が付くんだけど、これじゃまるで―」
「絞殺死体みたい?」
 唇に親指を当てた夏目が上目遣いに訊いた。
「うん。変でしょ? 後、普通……って言い方も変だけど、人が首を吊る場合、まず枝やかもいに縄を結えたら輪っかを作って、そこに頭を通してから、その後踏み台を蹴るものなんだけど、堂本さんの場合は少し変わってるんだ。首に掛っていたロープなんだけど、首の周りの長さと、輪っかの大きさが同じくらいなんだ。これじゃ、輪っかに頭が通らない。だからつまり、輪っかに頭を通したんじゃなくて、先にロープをネクタイみたいに首に巻き、うなじのところで固く結んでから、ロープを枝に掛け首を吊った、ということになる。これはちょっと変だよね……。遺書も見付かっているし、事件性は無いというのが大方の意見なんだけど、こんな風に幾つか疑問点もあるんだよ。で、何か見落としがないか、今日はボクがここを訪ねて、土橋さんに了承を貰っていろいろ調べてたってわけ。そして、木に登って枝をよく調べていたら、なんと枝には何かが擦れたような跡が無数に残ってたんだ! ちょうどフックが掛っていた辺りだね。これは何かあるに違いないと思い、ボクは直ちに先輩へ応援を要請したんだ」
「ちょっとは自分で考えなさいよ」
「ふっ、甘いよ夏目ちゃん。どうせボクが考えたって解るはず無いんだから、考える必要なんて無い。だからここはボクの素早い判断を褒めるところさ!」