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推理げえむ 1話~20話

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『ああ、刑事達があーでもないこーでもないやってたみたいよ。高所恐怖症の兄は、外を巨大な幕で覆い、外の景色を見えなくしてから階段を移動したんじゃないか、とかさ。だからそれ以前に、兄貴は階段に近付いたり屋上に昇ったり出来ないっつーの。それに普通に考えて、十階から一階まで覆える程大きな幕なんて用意出来るわけ無いっしょ』
「確かに」
『同じようにエレベーターも調べられてたよ。天井の一角が蓋になってて、簡単に上へ持ち上がったから、捜査員がカゴの上へ昇って、一階から順に「R」って表示されてる階まで念入りに調べてたみたいだけど、何か仕掛けが施された跡は一切無かったって』
「…………」
『他に何か質問は?』
「いやあの……君さっきから僕の質問にバシバシ答えまくってるけど、なんでそこまで詳しく知ってるの? まさか向こうまで行ってきたの?」
『まさか! ぼくが調べたんじゃなくて、弟の方から聞いたんだよ! 無線の音拾うなんて道具が有れば一発っしょ』
「あ、弟さん……そういう道具をお持ちなんだ……」
『……あの兄弟ってさ、金は持ってるから生活への危機感とか全然無くて、人生舐めてて、基本ダラけて生きてんだけど……あの弟が唯一、本気で、真面目に取り組んでるのが漫画なわけ。自分の作品をパクった漫画家の死に対する関心はかなり強いわけよ』
「なるほど……それでいろいろと、警察に聞き耳立ててたわけだ……決して、褒められたやり方じゃないけどね」
『そうかもね。でもまあいいじゃないの。で、質問は? もう無いの?』
「ああええと、そうだな……弟さんだけど、移動するときはいつも車椅子を使っているのかな?」
『基本的にはそう。でも、夜は電池充電するから乗らないみたい』
「ほう、充電……。その充電ってのは普通にコンセントからするもんなの?」
『うん。でもあいつ、パソコンとかエアコンとかオーディオとか、一つの部屋で電気使い過ぎてるから、更に電源取るとすぐブレーカー落ちるらしい。だからいつも使ってない部屋のコンセントで充電してる、とか確か言ってた』
「そう……冬木君、君と弟さんはその夜、チャットしてたって言ってたけど、どのくらいの時間?」
『えーと、四、五時間ぐらい?』
「あんなテーマで何時間議論すんだ君達は!」
『え? ザラだけど?』
「ザラなんかい」
『うん。まあとにかくこれで解ったでしょ? あの兄弟は漫画家の死と全然関係無いって』
「…………いや、ちょっと待って……もしかしたら……お兄さんには漫画家を殺害することが可能かもしれない……」

※春日の言う通り、三つの恐怖症を抱える兄にでも犯行は可能なのだろうか?

 ヘッドセットの向こうで、冬木が静かに息を飲んだ。
『へ、へえ……マジで……? あの兄貴が漫画家を殺せるって……? ははっ……どうやって?』
「エレベーターで一階まで降り、泥酔して寝入っている漫画家を水を使って窒息死させたんだ」
『なんっ……! 春日さん、アンタなに―』
 冬木は一旦言葉を飲み込むと、ゆっくりと言い直した。
『そりゃムリでしょ、春日さん。あの兄貴は部屋を出て、通路を渡ることが―』
「うん、自力ではムリだろうね。一歩部屋の外へ出るとそこで腰が砕けちゃうんだから。でも、あるものを使えば自分の足で歩かなくても移動が可能となる」
『あるもの?』
「電動車椅子だよ。弟さんの車椅子は電動式なんだろう? お兄さんは、君と弟さんがチャットを興じている間に車椅子を持ち出したんだ。弟さんが充電を開始した時点でバッテリーのパワーがどのくらい残っていたのかは知らないけど、多分一時間くらいは充電してから行動を開始したんじゃないかな」
『…………』
「部屋の外に出たら、レバーを操作して、後は車椅子に座ってブルブル震えてりゃいい。そうやって、エレベーターホールまで移動したんだ」
『……で、でも! 閉所恐怖症の兄貴がエレベーターに乗れるはずが無いよ!』
「いくら閉所恐怖症でも、エレベーターぐらい、頑張れば乗れるでしょう? 何も十階から一階まで一気に降りる必要は無いんだから。一階ずつインターバルを挟みながら降りれば良い。でも、たとえ一時でも、恐ろしさの余りエレベーターの扉を閉めることが出来ないというなら、恐怖を軽減させる方法はあるよね。まず、一階へのボタンを押した後、ドアが閉まらないように紐を結んだつっかえ棒しておいて、次に天井の蓋を持ち上げ、そのままカゴの上に昇っちゃうんだよ。そのマンション、住居スペースは十階までみたいだけど、Rの表示があるってことはエレベーターは屋上(Rooftop)まで上がるってことだ。エレベーターシャフト内はロープやガイドレールが有り、ややゴチャゴチャしているとはいえ、頭上にはカゴが屋上まで上昇できるスペースがあり、またエレベーターシャフト自体の天井は更に高いところにあるから、それらを合わせると、カゴの中よりは断然広くなる」
「そ、そんなことで閉所恐怖症が収まるっていうの……?」
「収めるんじゃない、軽減させるんだ。重度の閉所恐怖症の人はトイレに入る場合、自宅なら、ドアを少し開たままで用を足すらしい。またはユニットバス等、ある程度の広さや開放感があれば何とか大丈夫らしいよ。そうやって恐怖を軽減させているんだ。今僕はお兄さんはカゴの上に乗った、と言ったが、もしお兄さんが超ヘビー級の高所恐怖症の場合、カゴの上に乗ってしまうと、今度は恐怖のため、天井から床へ降りることができなくなってしまう。脚立を使って上半身をカゴの外に出すのみに留めておいた可能性もあるな」
『あ、頭を外に出したからって、結局密室は密室じゃないか!』
「うん、そうだね。これでもまだ怖いと言うなら、最終兵器がある。オペラグラスのつるを少し改造して、前後を逆にして掛けるんだ。こうすると物が遠くに見えるようになる。天井や壁も遠ざかって見えるから、広く感じるようになるのさ!」
『オ、オペラグラス逆さ掛け……だと……。バカな……そ、そんな子供騙しで……』
「一階までのごく短時間の間だし、しかもエレベーターシャフト内はうす暗いだろう? オッケオッケ」
『軽っ……』
「後このとき、間違っても下を見ちゃ駄目さ。床が遠く見えちゃうからね。そして、つっかえ棒の紐を引いてドアの固定を解けば、エレベーターは下降を始める」
『…………』
「そうやって一階まで移動したら、エレベーターから出て、一階のどこかで漫画家が酔い潰れてないか探す。居なかったら待つ。君と弟さんはいつも長話になるから時間的には余裕が有る」
『…………』
「そして床に転がっている漫画家を見付けたら、鍵を探して出して、漫画家を部屋まで運ぶ。車椅子を使えば楽に運べるよ。時間は夜で、そこは人気の無い残念マンション。人に見られる心配も無い。部屋に入ったらバスルームまで運び、手足をタオルで縛るか、布団で簀巻きにする等して身体の自由を奪う、こうすれば身体に拘束の跡は残らない。そして、水を張った洗面器に漫画家の顔を押し付け、窒息死させたんだ……」
『…………!』
「その後は、遺体を室内プールへ運ぶ」