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推理げえむ 1話~20話

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「そうだね。じゃあアホな地の文に付き合うのはこのくらいにして……。君の友達はそれが自分の考えた物語であると証明できなかったってわけだね?」
『そう。どうしたってプロの漫画家の方にアドバンテージがあるからね。駄目だったって。あいつそれ以来、日を追う毎に悔しさが募って、相当荒れたし、相当荒らしたって』
「いや、荒れてても、荒らし行為はやめよう」
『でもそいつ以上に逆上してたのがそいつの兄貴でさ、出版社に電話掛けて、猛烈に抗議したらしいよ。それだけでは気が収まらず、その出版社が出した本を、何十冊も取り寄せて、ビリビリに破り捨てたり、燃やしたりしたって!』
「そうは言っても、そのために何十冊も購入してるわけだから、逆に売り上げに貢献してるんじゃ……?」
『とにかく! そうこうしている内に、漫画家は勝手に死んじまったわけよ! 弟に言わせると、どうせなら自分の手で沈めたかったらしいけどね』
「ふうん……もしその盗作の話が本当なら、君の友達の兄弟には、動機があるってことになるね……」
『………………』
「……あ、いやいや! 別に、深い意味は」
『まぁ……そうやって、春日さんと同じように疑った刑事達が、いろいろ調べてたみたいよ。でもムリなんだって。弟の方は足が悪くて、独りで立つこともできないから車椅子使ってんの。大の大人溺れさすとかムリ。漫画家はマンションの近くにある居酒屋で飲んでるとこ目撃されててさ、胃の中身の消化具合からかなり正確な死亡推定時刻が割り出されてんの。死因は溺死。で、漫画家が死んだ時間、弟がなにしてたかっつーと、自分の部屋でぼくとチャットしてたのさ! 「そろそろ本気で、中学のときの同級生から掛ってきた同窓会の誘いを、無難に断る方法について考えようぜ」という議題でね! だから、弟のアリバイは完璧なのさ!』
「あ、ああそう……じゃ、じゃあお兄さんの方は?」
『ああー兄貴にも犯行はムリだね。漫画家は室内プールに素っ裸で浮かんでたんだけど、兄貴ってば水恐怖症だから』
「水恐怖症?」
『うん。まあ、ぼくも今回聞くまで知らなかったんだけどね。しかも高所恐怖症で閉所恐怖症なんだって』
「はい?」
 春日が素っ頓狂な声を上げた。
『だからさ……ええと、あ、図で説明した方が早いかも。春日さん、今からアプリ送るから、インストールして』
 画面を見ていると、なにかしらソフトが送られてきたので、春日は言われた通りにした。
『した? じゃ、アイコン出てるはずだからアプリ起動して。後は何もしなくていいよ。こっちでやるから』
 画面になにやら図形が映し出された。縦に長い四角形が3Dで表示されている。
『これマンションの簡略図ね。そんで―』
 図形に階数を分けるための横線か引かれ、十層に分けられた。
『十階まであって、兄弟が住んでるとこが十階。で、漫画家が独りで住んでたのか一階』
 それぞれの場所がチカチカと点滅した。
『で、このマンション、外側は総ガラス張りなのよ。だから、ドアを開けて部屋の外に出たら目の前は一面ガラス。もうメッチャ見晴らしが良いらしい』
 今度は図形の外周が点滅した。
『だからさ、高所恐怖症の兄貴は部屋から出ることさえできないわけ。それに、水恐怖症だからプールで人溺れさすとか絶対ムリ。後、例えばエレベーターで一階に降りようとしたとしても、エレベーターホールやエレベーター自体に窓は無いけど、閉所恐怖症だからエレベーターに乗れないってわけ。あ、付け加えると階段もムリね。そこも外側がガラス張りだから、兄貴には使えない』
「ち、ちょっと待って。エレベーターも階段も使えないなら、お兄さんはそもそもどうやって今住んでる十階の部屋に入ったの?」
『引っ越し屋が家具と一緒に運び入れて、以来それっきりらしい』
「そ、そう……。でもそんな人がなんでわざわざそんなところへ引っ越したんだろうね」
『だよね。しかもひきこもりのくせに閉所恐怖症だし。超ウケる。変態だね』
「君が言うな」
『いや、弟の方が高い所大好きでさ。ほら、車椅子に座ってると普通、手摺が邪魔で外が見えないじゃん? 弟の方がそのマンションの造りをえらい気に入ったらしくてさ』
「なるほど」
『でもさ、そのマンションの造りって、女の人にとってはスカートの中、下から丸見えじゃん? もう全く買い手がつかないらしい』
「あ、オフィスビルみたいに外からは中が見えない特殊ガラスじゃないんだ……」
『いや、そうするはずだったみたいだけど、予算をケチったからか、微妙に透けてるらしいんだよね。オーナーは悔恨の余りハゲ散らかってるらしいよ?』
「そ、そう……」
『でさ、兄貴の方からそこへ住もうと言ったらしいよ。自分にとってはヂゴクみたいな部屋なのにさ。優しくない? よくは知らないけど、大昔、弟が車椅子になった原因をつくったのは兄貴らしくてさ、弟の方はそのことで兄貴を責める気はさらさらないみたいなんだけど、兄貴の方は負い目を感じているからか、すごく弟を気遣ってるみたい。両親を早くに亡くしててさ、それでも結構な財産を残してくれたみたいで、兄弟仲良く充実したひきこもりライフを満喫してたみたい』
「ふ、ふうん……あのさ、もう少し突っ込んで訊きたいんだけど、お兄さんの恐怖症のこと、間違い無いのかな?」
『ああ、兄貴は高所恐怖症かつ、閉所恐怖症かつ、水恐怖症であり、それが演技ではありえない、って複数の医者が診断してるよ。今住んでる部屋から一歩外に出れば、もう腰が砕けてそこから動けなくなるし、水の張った洗面器にでさえ顔を付けることもできない。狭い密室では恐怖の余り、少しの時間でさえ耐えることができないってさ』
「ふむ……じゃあそうやって、お兄さんがいろいろな恐怖症持ちだと分かったから、犯行が不可能だと判断されたんだろうけど、そもそも最初に、他殺の可能性も有るから兄弟のところに刑事が話を訊きに来たんだろう? 死んだ漫画家の部屋はどんな状態だったの?」
『状態は……そのまんまなんだけど。室内プールで漫画家が溺れてたっていう。ただ、玄関の鍵が開いてたらしくてさ、後その漫画家相当な酒好きで、毎晩々々酔っ払っちゃあ夜中に帰宅してたらしい。タクシーの運ちゃんにエントランスホールまで運ばれて、そのままホールで爆睡したり、玄関の前で力尽きてそのまま廊下で寝てたりする男だったみたい』
「ああ……たまにいるね、そんな人」
『うん。だから、やろうと思えば誰でも、泥酔した漫画家をプールに落とすことは出来るってわけ。だから最初警察は事件の可能性も考慮に入れて動いてたみたい』
「ふむ……それで、遺体は誰が発見したの?」
『原稿を催促しにきた出版社の担当にだね』
「その担当者のアリバイは?」
『完璧みたい』
「そう……因みに、そのマンションには室内プールが付いているのが普通なの?」
『いや、ちがう。漫画家がマンションのオーナーに金積んで改装させたらしい。ブログで自慢してた』
「ふむ……。じゃあ、マンションの階段やエレベーターだけど、ちゃんと調べは行われたのかな」