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推理げえむ 1話~20話

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「そう……。電気は通ってないから家の中は薄暗く、Xは死んだフリをしているとすぐに気付かれる恐れは無い。しかし、上手く撃ち合いになっても、どちらかが生き残る恐れはある。そのときは、死んだ方の銃を拾い上げ、生き残った方を後ろから撃てば良いわけだ。そして、二人に渡してあった地図は手掛かりになるものだから両方とも回収しておく必要がある。室伏はその地図を尻のポケットに入れていたんだろう。Xはそれを抜き取ったんだよ。しかし、関根の方は簡単に見付けることができなかったんだ。だから、全てのポケットに手を突っ込んで地図を探すよりも、むやみに死体を動かさない方を選んだんだと思う」
「な、なるほど……」
「そしてXは二人の宝石を奪って逃げた、と」
「二人組の強盗じゃなくて、三人組みだったのか……!」
「うん……。逃走車の運転役か、闇商人とのブローカー役か、まあそんなところだろう。首尾良く事が運んだと思って、Xは今頃どこかでほくそ笑んでるだろうね」
「野郎! 絶対探し出してやる! でもどうやって……あ、なるほど! 遺伝子といえば精子! あの汗の結晶を分析して貰って、遺伝子情報を読み取ったら、今度は精子バンクをあたって、保存されている遺伝子と照合して、人物を特定しろってことですね!?」
「ちがう。犯罪とかする人は精子バンクしないから。それに、汗くらいからじゃ、ごく大雑把な遺伝子情報しか得られないよ。塩の結晶を分析したら、関根と室伏の遺伝子情報と一致するかどうかだけを見れば良い。もし一致しなければ、その場所に別の誰かが居た、という証明になるだろう?」
「あ、そうか」
「そしたらその後は問題の物件を管理している不動産屋に、それらしい人物が訪ねて来なかったか問い合わせるんだ。その他には……そうだな、これはXが車輌の運転手役だった場合の話だけど、警察は検問で二人組の男が乗った車を重点的に探したはずだ。三人になることで、上手く検問をすり抜けたのかもしれない。そんな車が通らなかったか記録を調べてみるのも手かも」
「なるほど! そうやって、そのXを探し出すことができれば、イモずるで宝石の在りかも! よっしゃあ! ありがとうございます先輩! あわや諦めムードの事件をまさかここまで! 流石先輩、ボクと先輩のコンビの前に怖いモノ無しですね!」
「ああ! モチロンさ! さあ、行っておいで。ああ秋山君、もしかしたらXも銃を持っているかもしれない。用心のためにこれを着ていくんだ」
「先輩、そこまで! ボク感激です! ありがたく―」
 春日が差し出したのは、白装束と三角形の額紙だった。
「あ、怖いモノあったわ……」
 秋山は春日にヒイた。
 
 
 
   第十六話 三重苦 

『そしたら、もうアッタマきたからさ、こう言ってやったわけよ―「父さん! 男には通さなきゃいけない意地ってものがあるんだ! ぼくは自分の生き方に誇りを持っている! だからぼくはここから一歩も動かない! この部屋から一歩も出ない!」……ってね』
「…………」
『「地位も名誉も要りはしない!」とも言った。「でも結婚はしたいな」って言ったら殴りやがった。ムッカツク』
「うん、ぶたれて当然だよね。むしろ窓から放り出されなかったことを神に感謝しようか」
 その日、店の仕事が終わった春日は、事務所兼倉庫に置いてあるパソコンを使い、インターネット回線で冬木と通話をしていた。
『なんでよ? ぼく自分の金は自分で稼いでるわけだからね? 文句言われるスジ合い無いっしょ?』
「はぁ……そのパソコンの才能が唯一の救いとしても……全く、君はパソコンの無い時代に生まれていたらどうなっていたことか。いや、違うな。この時代に生まれたからこうなったのか……」
『ふふん、それに、洒落で作った部屋人(へやんちゅ)Tシャツが売れちゃって売れちゃって』
「くっ……部屋人しか着ないであろう部屋人Tシャツがそれだけ売れるってことは、この世の中にそれだけ部屋人が溢れているということか……」
『ぼくは独りじゃない』
「ちっ……そんなことばかり上手になりくさって……もし僕が君の兄貴だったらもっと早い段階で真っ当な生き方を歩ませることができたものを」
『冗談! 兄貴なんかいらないね! 妹は欲しい』
「ええい、黙れ」
『いやー、これでもメッチャ子供の頃は、大きくなったら正義の味方になって、自分が持っている力を全て弱い者のために使おうと思ってたんだけどねぇ。今では自分が持っている百円募金するのすら惜しいってんだから不思議だよねぇ』
「…………」
『それに子供の頃って毎週テレビにかじり付いている割には、戦隊ヒーローとか、巨大ロボとかって、本当には存在しないって結構早い段階で気が付いてるでしょ? でも、自分が大人になったら巨大ロボとか、普通に自分の手で開発できるとか思い込んでたフシがあるよね。図工で造るダンボールロボはその予行演習みたいな。将来はいっぱい勉強して、人々の役に立つロボを造ろうって燃えてたんだけどねぇ、中学に入ったら合体ロボより別の合体に興味が湧いちゃったわけだこれが』
「………………」
『それにちょうどその頃、古典とか歴史なんか勉強するよりも、プログラム打ってる方がよっぽど有益だって悟っちゃったんだよね。何代の徳川某が何をしたのかなんて、必要なその時になって検索すりゃいいんだから、どうせ捨てちゃうノートにくる日もくる日も板書写すより、検索エンジンの使い方覚える方がずっと有意義な時間の使い方だって』
「……だけどね冬木君、君が大好きなそのインターネットに流れている情報が、全て事実であるとはかぎらないわけだろう? その情報が本物かどうかはどうやって見極める? 自分で歩いて、見て聞いて感じて、考える。そうやって初めて、真実が見えてくるものなんだ。少なくとも僕は今までの経験からそう信じている。指先の操作だけで得られるものなんて、たかが知れているんだよ」
『…………』
「そう……いくら『事件の真相』を検索したって、決してヒットなどしないのだから……」
『キタァァァァァァァ!』
 冬木が奇声を上げた。
『め、名探偵気取っちゃったよこの人! ぶっはははははっ! ……け、決してヒットなどしないのだから。プッ、誰か、誰かー! お薬の時間です!』
 スチャチャチャチャチャ、と何かのボタンを連打する音が春日の耳に届いた。
「ふ、冬木君……たいがいにしないと、マジでキレるよ……」
 春日は顔を赤くしながらこめかみをぴくぴくさせた。
『だ、だって、もうあまりにもカッコいいもんだから、板に書き込んで国民に晒そう……いや、国民で称えようかと思って』
「よし、次は法廷で会おう」
『ジョーク、ジョーク! ……まあ確かに、ネットには嘘やテキトーな話ばっか転がってるよね。ちょっと前までのぼくが偏った認識でものごとを見ていたことは認めるよ。情報の真偽を確かめるためには実際に体験したり、色んな角度からものごとを見る必要があるってことも解った。それを教えてくれた春日さんと秋山さんにはまあ、一応感謝してるよ。あ、秋山さんといえばなんか前、何とかって女子高生がぼくのこと取材したがってるとか何とか言って連絡あったんだけど……』