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推理げえむ 1話~20話

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「……とまあ、冗談はさておき、話を元に戻そうか。なんだっけ、人の欲望は怖いって話だっけ?」
「ボクは先輩が怖いな。いやちがくて。床に塩」
「ああそうか。床に塩……なんだろう……」
「何か料理でもこぼしたんですかね」
「不法侵入した販売物件の中で料理を? ……いやその前に、ガスとか水道が通じてないでしょ」
「あ、そうでした。電気もガスも水道も通じてなかったです」
「ふうむ、……他に気付いたことは?」
「あ! 大事なこと忘れてました! 盗まれた宝石が何処にも無いんですよ!」
「最初に言えよ」
「そういえば、今日はその件で来たんでした! 無いんですよ! 遺体の周りにも家の中にも! 近くにそれらしい車も無かったし、関根と室伏の自宅にも行ってひっくり返したんですけど」
「ちゃんと探したの?」
「探しましたよ! 一所懸命」
「誰よりも先に宝石を見付けることができれば、こっそり一個くらい貰ったとしてもバレないだろうって?」
「なんっ、なにをバカなっ! そんなわけないでしょう! ったく……でも、一番最初に見付けることができれば、宝石店のオーナーに気に入られて、ご褒美に宝石の二個三個もくれるって展開に」
「ならんならん」
「だって、今月ピンチなんですよぉ……はぁ……このぶんじゃ、月末はまたエアごはんかぁ」
「エアごはんて! それはつまりただの呼吸だよね!? やめて、悲しくなるから! 食べるマネごとしたってお腹は満たされないから! 心も満たされないから!」
「ええ、こうやって口動かしてエアごはんしてるとですね―もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……涙が止まらないんです」
「はぁ……ゲームとか、エロいことするお店にばっかりお金使うからだよ」
「だって、せっかく刑事になったのに、発砲できる機会なんて訓練の時くらいしかないし、だったらもう、別のイミで発砲するしかないじゃないですか」
「さ、さいてぇ」
「お風呂が発泡しているお店だけにね」
「うるさいよ!」
「とにかく、宝石が無いんですよぉ、隠し場所を探り当てる良いアイデアはありませんか?」
「ムチャ言わないでよ、エスパーじゃないんだから。何処かに埋めたかもしれないし、もしかしたら他の人間に預……」
 春日が表情を変化させた。
「先輩? どうかしましたか?」
「……秋山君、問題の家屋だけどね、どんな家だった? 立地は?」
「どんな? どんなって、普通の家ですよ。住宅街にある普通の一軒家。門が有って、玄関が有って。家の裏側には勝手口が有って庭が有って。庭には路地裏に通じる裏門が有ったかなぁ」
 秋山が夕日を浴びた壁を見上げながら記憶を辿った。
「そう……じゃあ、地図は二枚有ったはずだよ……」
「はい?」
「秋山君、君が舐めてみたっていうあの塩の結晶。あれの科学分析をお勧めするよ」
「え? 分析したら宝石の在りかが分かるんですか!?」
「いや、直接結び付くかは分からないんだけど、捜査の手掛かりにはなるかもしれないよ」
 春日の提案に秋山はぽかんと口を開けた。

※春日はどのような事柄を示唆しているのだろうか?

「あの、意味がよく分からないんですけど、科学分析すればいいんですよね?」
 秋山がいぶかしげな表情で訊ねた。
「そう、あの塩の結晶をDNA鑑定にかけるんだよ」
「DNA鑑定?」
「うん。あの、関根と室伏の二人が倒れていたリビングに、もしかしたらもう一人、他の人物がいたかもしれないんだ」
「へっ?」
「そうだな、仮にその謎の人物を『X』としようか。ガラスを割って、一番最初に家屋に浸入したのもそのXだよ。そして、関根と室伏が玄関と勝手口からそれぞれ家の中に入って来て、この二人がリビングでばったり出くわしたとき、そこでXが、胸を真っ赤に染めて死んでいたとしたらどうなる?」
「はいい?」
「そしてもしこのXが強盗犯の一味だったら?」
「え……?」
「Xは前もって関根にこう言ったんだ『室伏が裏切るかもしれない、信用するな』って。そして、室伏には『関根が裏切るかもしれない、信用するな』と逆のことを言っておく。そしてXは玄関と勝手口の鍵を開けておき、問題のリビングで『死んだフリ』をしておく。リビングと言えば家の中心、家のどこへでも通じている要所。玄関から入ろうが勝手口から入ろうが奥へ進めばリビングへと辿り着く。そこへ現れた関根と室伏がXを見て、死んだフリをしていると気が付かなかったら……?」
「…………」
「Xが言った通り裏切りやがった、と二人は思うよね。それと同時に二人には大義名分ができるわけだ。先に裏切ったのは奴だから、制裁を加える権利は自分にある、とね。相手が死ねば盗んだ宝石は自分が独り占めできる、という打算も働いただろう。そして二人は反射的に銃に手が伸びる。こうなってしまったらもう後には引けない、ここから先の二人の思考と行動は見事な一致を見せたはずだよ。『銃を抜いたからには、相手より先に狙いをつけなければならない。銃口を向けられたからには、相手より先に引き金を引かなければならない。殺られる前に殺れ!』とね。で、バンバン……と」
 呆気に取られていた秋山がようやく声を絞り出した。
「…………い、いやでも。そう上手くいきますかね?」
「そんなの分からないよ。だから、Xは汗をかいたんだ」
「……っ……!?」
「不安に決まってるさ。バレたら確実に二人に殺される。もしかしたら、なぜこんな方法を選んでしまったのか、死んだフリしながらぶるぶる後悔していたのかも」
「そ、そうか、あの塩の結晶は、汗が乾いたものだったのか……!」
「そう。あるいは、汗っかきのおデブ」
「あ、ああ……この気温で……」
「そう」
「いや、でも待って下さい、同時に二人をリビングに来させるなんて無理ですよ」
「そうかな? かなり時間に正確な二人だし、どこどこに、何時ちょうどに来いって念を押せば難しいことは無いんじゃない? それよりも、関根と室伏が家屋に向かう道の途中で偶然出くわして、全てがパァになる可能性の方が怖い。だから蛍光ペンで道順をマーキングしてある地図をそれぞれに渡しておいたんだと思う。二人が全く別々の道を使って家へ向かうように仕向け、そして、一人は玄関から中へ、一人は勝手口から中へ入らせて、二人をリビングでハチ合わせさせる……!」
「……そ、そんな……」
「まず、ネットや不動産屋を回って、都合の良い物件を探し、見付けたのが偶々あの家屋だったんだろう。そして適当に理由を作り、二人をあの家屋へ呼び出す。警察にどこで職質と所持品検査をされるか分かったもんじゃないから、関根と室伏は普段外を出歩く時、拳銃など絶対持ち歩かなかっただろうが、Xの姦計によって裏切りに対して警戒していた二人は、用心のために拳銃を所持していた……」
「……! そ、そして二人は、約束の時間に家へ上がり込んだ……?」