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推理げえむ 1話~20話

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 そう言うと夏目は少し疲れの見える顔で笑った。

 警察の調べにより、作業場からは遺体を運ぶために使われた車が発見された。車内には遺体を包んだと思われるビニールシートや土本の持ち物と思われる物品も多数見付かった。
 数日後、海から引き上げられた車には、車体の前面にアスファルトで造った平台が取り付けられており、更にサイレンサーを取り付ける等して消音が図られ、駆動系は加速に特化した改造が施されていた。
 
 
 
   第十五話 相撃

 とある日の夕方、春日書店に秋山が現れた。
「おいおい、穏やかじゃないね。一体何事だい?」
 秋山の姿を見て春日が眉を顰めた。秋山はこの暖かさだというのに背広の前をきちんと留めており、その左脇腹は僅かに膨らみを見せていた。
「あ、いやいや、これは……結局抜かず終いでした」
 秋山はちらと脇腹に眼をやると残念そうに息を吐いた。
「でした? 犯人はもう逮捕できたってこと?」
「ええと、被疑者死亡につき、捜査打ち切りって感じですか。いやまだ、仕事が一個残ってるんですけど」
「ふうん? どんな仕事? ていうか、どんな事件だったの?」
 二人は店の奥にある事務所兼倉庫へと向かった。店が小さいのでごく僅かな移動で済む。
「先日、U町の宝石店にですね、マスクにサングラスをした二人組が拳銃を手に押し入りまして」
 秋山がパイプ椅子をギシギシ広げながら話を始めた。
「店の防犯カメラにそのときの映像が残っていたんですけど、二人が店に現れたのが午後一時ジャスト。一人が拳銃とストップウォッチを手に店員と偶々居合わせた一般客に睨みを効かせつつ、もう一人が銃底でショーケースを叩き割って、宝石をバッグに詰め込み始めたんです」
「ほうほう、それで?」
「まさにあっ、という間のできごとですよ。きっかり2分で盗れるだけ盗って店から引きあげてます。店内にはまだまだ高価な宝石が残ってるっていうのに、その誘惑を振り切って、ですよ」
「ふむう、プロか……」
「店を出た二人が表に停めてあった乗用車に乗り込んで逃走してます。パトカーが現着したのはそれから二分経った後で、その頃にはもう、影も形も」
「あらあ……」
「逃走に使用された車が現場から少し離れた所にある路上に乗り捨てられてまして、調べたところ、盗難車でした。そこから別の車に乗り換えたと思われます」
「手強いねえ、それでどうなったの?」
「はい、そいで、犯人が武装してるってことで、ボク等にも着装指令が下されましてね、今回は銃撃戦があるかもってテンション上がってたんですけど」
「こらこら」
「それが昨日、民間から何やら大きな音を聞いたという通報があったんですよ。向かった職員が、音がしたという家屋を調べたところ、そこで宝石強盗とみられる二人組がそれぞれ銃を手に遺体で発見されまして」
「わお、急展開」
「はい。死因は両名とも貫通銃創からの出血性ショックです。どうやら仲間割れを起こしたようですね。リビングで撃ち合ってました」
「へえ、リビングで……」
「はい。そこで向かい合った形の二人が前のめりに倒れていました。二人とも靴は履いたままです。所持品から身元も割れました。ええと、関根という男と、もう一人が室伏という男ですね。現在防犯カメラの映像と照合中なんですけど、頭髪や体型等外見的特徴から、強盗に入ったのはこの二人で間違いないようです」
「ふむ……そしてその二人が、同士討ちを……?」
「ええ、検死解剖も旋状痕の鑑定もまだではあるんですけど、鑑識班の報告によると、壁に付着した血飛沫の角度から視ても、それぞれ相手の銃から発射された銃弾を受けたことによる死亡とみて間違い無いそうです。……ふぅ、宝石を盗るまでは上手くいってたっていうのに、最後の最後で宝石の取り合いを始めたんですかね……慎重で利口な奴等かと思いきや、結局、野蛮人だったんですねぇ」
「そうだねぇ……」
「人の欲望ってやつぁ、怖いもんです……」
「ああ、全くだね。後何が怖いって、後ろから『だーれだ』って眼を塞がれて、幾ら考えてもその人物が誰なのか本気で心当たりが無い時はめっちゃ怖いね」
「……ああ怖っ! ちょっと想像してみたら確かに怖っ! いや、じゃなくて何の話ですか。今その話要らなかったですよね」
「ふっ……秋山君、この世に要らないものなんて何一つ無いんだよ」
「あ、その台詞が一番要らなかったです」
「オウ、氷のようだぜ。まあいいや、話を戻そう―ええと、そもそもその民家、誰の家なの?」
「誰かの所有というわけではなくて。普通の売り物件でした。関根の方が胸の内ポケットに蛍光ペンで駅から家屋までの道順を几帳面にマーキングしてある地図を入れてました。一時的に隠れ家として使ったのかもしれません。浴室のガラスが壊されていたので、そこから侵入した模様です」
「そう。……しかし、狡猾な犯人達が真っ正直に正面から撃ち合っているのは少し妙だな……現場で何か気になった点とかは無かった?」
「気になった点ですか、そうですね……玄関と勝手口の鍵が両方とも開いてたってことですかね。窓を割って侵入してるってことは、鍵を持って無かったってことですよね。ってことは、玄関と勝手口の鍵は家に侵入した後、内側から開けたってことになります。二人はわざわざ扉まで行って、鍵を開けて、またリビングまで戻ったんですかね……?」
「ふむ……」
「他には……室伏が履いていたズボンの尻ポケットなんですけど、内側の生地がべろんと外にはみだしていたんですよ。ポケットに入れていた何かを取り出したときにめくれてしまったのは間違いないと思うんですけど、銃を入れておくには小さ過ぎるし、また宝石を無造作に尻のポケットに入れておくとも考えられないし……一体何を取り出したのやら……」
「うん……」
「後は……そうですね、二人が倒れていたリビングの床に、塩噴いてるところがありましたね」
「何て? 塩?」
「はい。塩の結晶です。カーペットに、こう、地図が描かれてました」
 秋山は座ったまま身体を折って床に指を当て、くるりと図を描いた。
「なぜそれが塩だと? もう分析結果が出たの?」
「いえ、舐めてみたらしょっぱかったんで」
「何かれ構わず口に含むんじゃない! 乳児か君は! 毒物だったらどうするの!」
「! ……! ……っ……!」
「予想だにしなかったんかい! なに驚愕の表情!? こっちがビックリだわ!」
 秋山の顔が鮮やかに青ざめる。
「せせせ、先輩? ボ、ボクちょっと気分が……びょ、病院に行った方がいいですかね……?」
「ああ診て貰え! 頭重点的に診て貰え!」
「よ、良く効く薬を処方して貰わないと……」
「君に付ける薬は無いと思うけどね」
「…………ま、まあでも、これだけ時間経ってるのに大丈夫ってことは、大丈夫ってことですよね?」
「…………」
 春日はちょっとずつ秋山から離れた。
「ちょ、ちょっと先輩?」
 秋山が伸ばした手を春日は身を引いてかわした。
「なんっ……なんで逃げるんですか先輩! 大丈夫ですよ? 何もうつりませんよ?」
 プシューッ。
 マスクで顔を覆った春日が、秋山に向けて何かのスプレーを散布した。
「ぷぁ、ちょ、なんですか人を変な病気みたいに!」