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推理げえむ 1話~20話

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「きっとそうね。……そして、豊見さんは回収した鍵を使って土本さんの部屋に入った……自殺を偽装するためにね。手っ取り早いのは遺書を残すことだけど、手書きの文字だと筆者識別に掛けられる恐れがあるからダメ。他には、パソコンや携帯に書き残す手が有るけど、携帯の方は土本さんを撥ねたときに壊れて使えなくなったんじゃないかしら。残るはパソコンだけど、これは単純にログインパスワードが分からなくて起動できなかったのよ。そこで、豊見さんは屋上に靴を揃えて置いておくことで自殺に見せ掛けるプランに変更した。部屋のベランダに靴が揃えてあっても不自然だから、屋上まで持っていったんだわ。釣りのときに履いていた靴は海水でずぶ濡れになっているからもう使えない。それで、代わりの靴を探したのよ」
「そうか、釣りのときにはもしかしたらカジュアルな靴を履いていたかもしれないけど、残っていたのはフォーマルな革靴しか無くって、仕方なくそれを使ったのか!」
「うん。後は遺体をあの場所へ寝かし、マンションの散水栓を道具を使って壊してその場から立ち去る。辺りは水浸し、屋上から飛び降りた土本さんの血は水で洗い流されたように見えるってわけ。遺体に付いた海水も洗い流されてまさに一石二鳥よ!」
「す、凄いよ夏目ちゃん!」
「そんな…………もっと大声で言って」
「ははは、いやでも本当にスゴ―」
 ふいに厚く大きな雲が月を隠し、暗さのあまり何も見えなくなった。
「お、おっと……夏目ちゃん、大丈夫? どこ?」
「ここよ」
 秋山が声のする方へと腕を伸ばすと夏目の手に触れた。互いにしっかりと手を繋ぎ合う。
「夏目ちゃん、じゃあ証拠は―」
「うん。探せば今もこの海の底に沈んでいるはずよ!そうね、潜水艦が必要かしら……? アッキー、海軍に連絡して頂戴」
「その必要は無いよ」
 いきなり横合いから掛った声に夏目と秋山は飛び上がった。
 姿は見えない。が、その声は豊見のものだった。
「……ど……どういう意味ですか……豊見さん……」
 秋山は夏目の手を引くと自分の後ろへ下がらせた。
「だから、そのまんまさ、必要ないんだ。なぜなら―」
 豊見の姿はまだ見えない。秋山の身体に緊張が走る。
「なぜなら、私がこれから警察のところへ行って、洗い浚い白状してしまうのだからね……」
『……………………は?』
「だから、罪を認めると言ってるんだ。君達が考えた通りだよ、奴を殺したのは私だ」
「そ……そうですか……ええと……でもあの、なぜそんなあっさり……」
 豊見の息を吐く音が聞こえた。笑ったのかもしれない。
「そこに沈んでる車……あんな大きなもの、もう隠しようがない。疑いを持たれた時点でアウトなのさ……。それなら事件が明るみに出る前に自首して、少しでも刑を軽くする方が利口ってもんだろう? あんな奴のために死刑になるのは御免だ……」
「何が……あったんですか……?」
「……大分前になるが、奴の代理と名乗る者が立ち退き交渉に来たとき、私はきっぱりと断った……。その頃からかな……仕事がぱったりと無くなったのは。私は廃業に追い込まれ、あの土地を手放さなくてはならなくなった……。奴が裏で手を回していたと知ったのは最近だがね……。あれは親父が残してくれた大切な土地だったのに……! 何が地域の活性化だ、そんなもので利益を得るのは一部の人間だけだ……!」
 豊見はまた息を吐いた。
「もしかしたら、奴が別の場所で殺されたと、誰かが気付くかもしれないとは思っていた。しかし例え疑いを持たれたとしても、土本はどこか別の建物から突き落とされ、あの場所へ運ばれた、と思い込み、その在りもしない『土本が突き落とされた本当の建物』をいつまでも探し回ってくれることを期待していたんだが、まさか車で撥ねたこともバレてしまうとはね……こんなにも早く……しかもこんなに可愛らしいお嬢さんに……。沈めてある車は、時間を掛けて少しずつ水中で解体してしまおうと思っていたのに……」
「……何と言って、土本さんをこの場所へ誘い出したんですか……?」
「大潮の夜に防波堤の先っちょで何匹も釣り上げた、と言っただけよ。ふふ……本当は私は釣りどころか竿を握ったことすら無い……」
「豊見さん…………」
 ……………………返事が無いことで、二人はもうそこに豊見が居ないことを知った。


「なるほど、やるね……」
 春日がこめかみを強く抑えながら言った。眉間にはまだ夏目が挟んだメモが挟まっている。
 夏目と秋山に尻を引っぱたかれた春日はようやく意識を取り戻し、事の顛末を聞かされたのであった。東の空はもう白みを帯び始めている。
「豊見さんは、僕達がいつまでも道の前でたむろしていると都合が悪いから、いっそ家に招いてしまおうと考えたわけだ」
「そうですね……」
「僕達の車を調べるとき、作業場へ車を移動させずにそのまま外で作業を始めたのは、きっとそのとき、シャッターの奥に問題の車が有ったからなんだろうねぇ……」
「はい……。今職員が中を捜査しています。夏目ちゃんのお手柄ですよ」
「まあ……」
 夏目が指で鼻先を掻いた。
「そういうこと。スガッチが役立たずしてる間に、事件はあたしがスッキリ、バッチリ解決しちゃったわけよ」
「パチパチパチ。……でも―」
 春日はまじまじと夏目の顔を見た。
「その割には浮かない顔してるね」
「…………」
 夏目は決まりが悪そうにそっぽを向いた。
「……フクザツなのよ……いろいろと。そりゃ、豊見さんがとても悪いことをしたんだってわかってはいるけど……。豊見さんて根は真面目で正直な人だったんだろうな、とかね……。もし、大切な物を奪い去られたとして……あたしならそのときどうするんだろう…………」
 夏目は眉根を寄せると俯いてしまった。
「……な、夏目君、そんなの今考えても仕方ないっていうか……そのときになってみないとわからないっていうか、い、いや、そうならないように大切な物は確り掴んで離さないようにすればいいっていうか……その……ね?」
「わかるよ……そんなのわかってる……けど、さ……」
 そう言って夏目はまた眼を伏せる。春日はオロオロしながら、それでもなんとか気持ちを言葉にしようとする。
「な、夏目君……だからさ、ええと、つまり……」
「大丈夫だよ、夏目ちゃん」
「……は? 何が?」
「いつだって、たとえ夏目ちゃんが苦しくて、負けそうになったときだって大丈夫―」

「ボク達が守るよ」

 にこりと微笑んで言った秋山に夏目が眼を見開いた。
「バッ、バッ、バカじゃないの! な、な、何カッコつけてんのよ!」
 夏目は真っ赤にした顔から湯気を立てた。
「ア、アッキー? 何、どうしたの、大丈夫? 今回ちょっと男前だよ?」
「酔っているのか!? 酔っているからか!?」
 春日も驚いて秋山を見ている。
「もうっ! 二人して! ボクはこれが普通です!」
 秋山は両手をグーにして怒った。
「ふふ……あーキモイキモイ」
 夏目は嬉しそうに肩を震わせた。そして、
「ふうっ…………まあとりあえず、一つだけ確かなのは―」
 小さく肩を竦める。
「今回の実験は完全に失敗ね。だって、これだけお腹空いてたら何食べたって美味しいもの」