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推理げえむ 1話~20話

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「ひょっとしたらだけど……今回の出来事、豊見さんが絡んでいるんじゃないかしら……」
「そ、それはどうだろう」
「だって、土本さんの死亡推定時刻に豊見さんは部屋に居なかったのよ?」
「でも、あのマンションのエレベーターホールに入る方法は二つしかない。鍵を使って自動ドアを開けるか、インターホンで中の住人に呼び掛け、ロックを解除して貰うか、だよ。豊見さんはどうやって中に入るの? 合い鍵を作ったの? それともまさか土本さんに頼んで開けて貰ったって言うの? そして、土本さんを屋上に連れ出し、そこから突き落としたって?」
「………………わかんない……」
 弱く小さな声だった。沈黙が訪れ、しばらく波の音だけが辺りを支配した。
 夏目が振り返ると秋山は少し離れたところに居た。背中を向け、こそこそと何かをしている。夏目は秋山の背後まで歩いてゆくと、その肩を叩いた。
「何してんのよ?」
「ごほっ!」
 びくりと肩を震わせた秋山が地面に何かを落した。
「何なのよ?」
「い、いやその」
 夏目が体を折って地面を見るとペットボトルが落ちていた。中身がこぼれ出て、どんどんと地面に黒い染みが拡がってゆく。
「何? もしかしてコレ、豊見さんから貰ったやつ?  まだ持ってたわけ? さてはずっと、隠れてちびちびやってたわね」
「え、ええと」
「はぁ、しみったれたマネしないでよもう」
「あ、あはは……ごめん」
 秋山はペットボトルを拾い上げた。そのとき、地面にできたシミに眼を落していた夏目の頭にある考えが過った。
「……!? え、あ……も、もしかして、だから水道が壊されていたの……?」
「夏目ちゃん?」
「待って」
 夏目はぶつぶつと呟きながら歩き出した。
「だとしたらどこで? あまり遠くまで行くと時間が掛り過ぎてしまうわ……でも、車を飛ばせば……」
 夏目は辿り着いた防波堤の先から海面を見下ろした。
「あーっ!」
 夏目の頭の中で、バラバラだったピースが凄まじい速さで組み合わさってゆく。
「そっか! ここだったんだ!」
「どどど、どうしたの!?」
「アッキー! 解ったわ、犯人はやっぱりきっと、豊見さんよ!」

※夏目の言う通り豊見が犯人だとすると、豊見はどのようなトリックを実行したのだろうか?

「どういう事!? 夏目ちゃん、解るように説明してよ!」
「今するわよ! 落ち付いて!」
 かくいう夏目の方が興奮しているように見える。
「まず、土本さんはあのマンションの屋上から突き落とされたんじゃないわ」
「え、どういう―」
「じゃあ仮に、人が高いところから落ちて身体を地面に叩き付けたとして、そのとき地面の上はどんな状態になってると思う?」
「え、それって血が付いてるとかそういう話?」
「そう、地面の上には血溜まりができるはずよ。犯人は水道を壊すことによって辺りを水浸しにし、遺体から流れ出た血は水によって洗い流されたと思わせることが目的だったのよ」
「洗い流されたと……?」
「だから、あのマンションは本当の殺害現場じゃないんだってば!」
「あ、そ、そうか……! 単に別の場所で殺害して遺体をあのマンションの下に放置しても血の状態からあそこが殺害現場じゃないってことがすぐにバレちゃうってことだね! そうか、別の場所か! じ、じゃあ本当の殺害現場はどこだろう? あのマンションと同じかそれ以上高い建物となると、この付近には無いらしいから、結構離れた場所かもしれないよね? そ、その場所を探さなきゃ……!」
「そうじゃないわ……ここよ」
 夏目は口角を上げ、両手を広げた。
「へ、ここって……ここが何?」
「ここが殺害現場なの! それと、土本さんは突き落とされたんじゃないわ……車に撥ねられたのよ……!」
「ええっ!? な、何それ……」
「黒い色をした車の前面にアスファルトで造った壁を取り付けたのよ!」
「……っ……!?」
「ライトは点けず、真っ直ぐな道路を走って車がある程度まで加速したらギアをニュートラルに入れてエンジンを切る。車のことなんて、ドライバーの隣で見たり聞いたりした程度のことしか知らないけど、そうすれば車って慣性で、音も無くそのスピードのまま進むんじゃない?」
「う、うん……」
「その車で防波堤に突っ込み、ここで釣りをしていた土本さんを撥ねて殺害するの。そしたら土本さんの死因は『アスファルトと身体が激しくぶつかったことによる死亡』となるわ」
「あ……!」
「そう、実は車が凶器だったのよ。使用する車に取り付けるアスファルトの壁はそんなに大きなものじゃなくてもいいわ。釣りをする人って自前の椅子か、足を放り出して縁に座ったりするでしょ。ある程度の高さがあれば充分なはずよ。海面を見ていた土本さんは後ろから静かに近付いて来る車に気が付かなかったのよ」
「う、うん、黒い車だったり、ライトやエンジンを切ったりするのはなるほどと思った。だけど、土本さんが防波堤の先っちょに座って、向こうを向いているとは限らないんじゃない? そもそも、土本さんってよくここに来るの?」
「だから、夜の何時にここで釣りをするとよく釣れるって、釣り好きの土本さんに言っておけばいいのよ」
「ああ、そうか……!」
「だから実は、釣られたのは土本さんの方だったってわけね。そして犯人は土本さんが釣り糸を垂らしていることを確認してから車を走らせた。防波堤の入り口に立っている看板は前もって退かしておく必要があるわね。この場所で、車で殺害する利点は二つ在るわ。一つは土本さんを撥ね飛ばしてそのまま車も海へダイブさせることによって、殺害と同時に凶器を海に沈めて隠すことができること。そして、もし道路で撥ね飛ばしたとしたら、遺体の衣服は地面を転がったときにあちこち破けてしまうはずなんだけど、海に落ちたならそうやって派手に破けてしまうことは無い。車に撥ねられた遺体だとはまず思われない、というのがもう一つね」
「な、なるほど……」
「土本さんはライフジャケットを着ていたはずだから、しばらくすると浮き上がってくる。沈んでゆく車から脱出した犯人は陸へ上がり、遺体を引き揚げた……」
「それが……豊見さんなの……?」
「……ええ……時間を見計らって行動しないといけないから時計は手放せなかった……だけど時計を付けたまま海に入ってしまったことが原因で、壊れてしまったのね……」
「…………」
「豊見さんは遺体からマンションの鍵を回収。釣りの道具、ライフジャケット等は処分。自分が着ている濡れた服は着替えて……。遺体をマンションへと運ぶためには、前もってもう一台車を用意しておく必要があるわね……」
「あ、も、もしかしてテレビの音量が大きかったのはエンジン音を聞かせないため……?」