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推理げえむ 1話~20話

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 秋山が、一体何を間違えてこんなことになったのか、今日一日を振り返っていると、夏目の大きな声が掛った。
「アッキー! 何独りでぶつぶつ言ってるのよ、早くこっち来て!」
「あ、はい……」
「で、どうだった?」
 もう深夜になろうというのに、この眼の輝きはどうだ。
「ええとまず、寝ていたマンションの住人達もこの騒ぎで起きだしてきたんだけど、話を聞いても今のところ不審者の目撃情報はゼロみたい」
「そう……」
「それでね、豊見さんと神田さんだけど、亡くなった土本さんのこと、知り合いというわけじゃないけど、知らない人ではなかったみたい」
「どういうこと?」
「ほら、この辺り今開発計画が持ち上がってるって話があったでしょ? 土本さんはその都市開発の立案者で責任者でもあったらしいんだ。元この辺りに住んでいた人達は土本さんの顔と名前くらいは知ってるって訳」
「そうだったの」
 夏目は豊見と神田に眼をやった。二人は夏目達とは少し離れたところで道路の縁石に座り込んでいた。
「じゃあその土本さんの部屋の様子についてだけど、補足はある?」
「ええと、まず一番最初、警官が玄関のノブに手を掛けたとき、鍵は開いていたそうだよ。そして部屋の明かりは点いてたって。さっきも言った通り室内に争いがあった形跡は無し。屋上にも特に異常は見られない。マンションの住人で争う音や土本さんの叫び声を聞いた人も居ないしさ、やっぱり、状況から見て自殺と考えるのが妥当じゃないかなぁ。自殺しようとする人がいちいち明かりを消したり鍵を掛けなかったとしてもおかしくないからね。土本さんは自ら屋上へ上がり靴を脱いでそこから飛び降りた。だから屋上には黒の革靴が揃えて置かれていたんだよ」
「え、ちょっと待って、黒の革靴?」 
「そう。玄関の靴箱の中には屋上に揃えてあった靴の紙箱もあったし、靴のサイズは土本さんの足のサイズと一致してる。土本さんの靴で間違い無いみたいよ」
「ちがくて、上にウインドブレー着てるのになんで黒い革靴履くのよ。なぜにフォーマル? 一足ぐらいカジュアルな靴無かったわけ?」
「さ、さあ……どうだろう……」
「聞いてきて」
「はい」
 秋山はかけ足を実行した。

「な、無かったみたい」
 戻ってきた秋山が肩で息をしながら告げた。
「むー……」
「い、いやだから、何履こうと勝手だって」
「……マンションの中に部外者が入り込めないなら、その内側、住人による犯行、っていう可能性は?」
「それがね、女性や年配の方ばっかりなんだよね。大の男を突き落とすなんて無理だと思うね。返り討ちに遭う可能性大だよ。そんなことするより、夜道で後ろからナイフで刺した方が簡単で安全だよ。この辺りあちこち暗いし、夜は人通りも極端に少ないそうだし、財布を抜き取ったりして通り魔的な物取りの犯行に見せ掛ければ容疑者の絞り込みも難しくなって捜査を撹乱できるしね」
「うわ、アッキーよくそんな悪いこと思い付くわね。そんな人だったんだ……」
「え、ちょ、こ、これはあくまで、刑事としてのアレであって、ボク自身はごく健全な好青年なわけで―」
「でも結局、遺体が水を被っていたことの説明には全くなっていないわね。これが一番の問題だと思うのに……」
「あ、話変わってる……」
「ねえ、遺書は在ったわけ?」
「いや、見付かってない。パソコンや携帯に遺書を残す人も居るからそちらも調べようとしたらしいけど、部屋に携帯が無かったみたい。それとパソコンの方もロックが掛ってて中を見ることができなかったらしいよ。メーカーさんに協力を要請してロックを解除して貰うこともできるけど、人に読ませるための遺書にロック掛けるはずは無いだろうから、土本さんは遺書を残さなかった、ってことだと思うよ」
「そう……。じゃあ自殺の動機については?」
「ああそれがね、動機は不明瞭だったよ。土本さんは大きなプロジェクトを任されたことを喜んでいたそうだし、大好きな夜釣りにも精を出していて、とても悩みや不安を抱えてるようには見えなかったらしい」
「ふーん……夜釣りねぇ」
「うん。ライフジャケットを着て釣竿を背負った土本さんが早朝に帰宅するのを住人が何度も見てる。つい先日も、人から教わった爆釣ポイントを今度試すと言ってご機嫌だったらしいんだ」
「…………やっぱりそんな人が急に自殺するなんておかしいじゃない……」
 夏目はポツリと言うと豊見らが居る方へと足を向けた。
「神田さん豊見さん、ちょっと訊きたいんですけど、亡くなった土本さんってこの辺り一帯の開発を推し進めていたって聞いたんですけど、住民の抗議とか反対運動とかは無かったですか?」
「え……? いやあ、そりゃ個人々々で思うことが違うことはあったかもしれないが、特にそういう運動は無かったと思うな。なぁ?」
「……ああ……」
 すっかり酔いが醒めてしまった様子の神田の問いに豊見が頷いた。
「でもお嬢ちゃん、何故そんなことを聞くんだ?」
「いえ、もしかしたら今回の一件、土本さんと付近の住民のトラブルが何か関係しているんじゃないかと思って……」
 夏目の意味深な発言に豊見と神田がギョッとなった。その隣では秋山が抑えるよう眼で訴えていた。
「すみません、変なこと訊いて。ちょっと気になったもので……」
「……い、いや別に……。そういえばこうしていて随分経つよな、今何時だ、豊見?」
「あ、ああ今……」
 豊見は腕時計に眼を落した。
「…………今……十二時……半……くらいだな……」
「おう、もうそんなになるか」
「…………アッキー、海、行くわよ」
「え、何しに?」
「実験に決まってるでしょう」
「ええっ!」
「ここへは後で戻ってくればいいわ。そういうわけなんで豊見さん神田さん、あたし達ちょっと行ってきますんで」
「あ……ああ……」
 夏目は頭をひとつ下げるとスタスタと海へ向かって歩き出した。秋山は頭を抱えそうになりながらその後に続いた。
 
 海へと続く道路は真っ直ぐに伸びていた。防波堤はその道路の先に造られていて、月明かりで見るそれは、まるで海の上まで道路が走っているかのようだった。そして、防波堤の入り口には車が入り込まないよう注意を促す看板が置かれていた。
「夏目ちゃん、足下気を付けてよ」
「眼が慣れてきたから全然平気。防波堤って思ってたより広いのね、車でも普通に通れるんじゃない?」
 夏目はコンクリートの上を普段と変わらない様子で歩いてゆく。
「いや、造られる場所によるんじゃないかな。ここが偶々こんな造りになっているだけで、どこでも一緒、という訳ではないと思うよ」
「ふうん…………。ねえ、さっき神田さんが豊見さんに時間訊いてたわよね」
「うん」
「十二時半くらいって言ってたわね」
「うん」
「くらいって何?」
「あ、それはボクも少し気になった」
「時計を見たのに正確な時間が分からないなんて、その時計が大幅に狂ってるか、動きが止まってるかよね」
「うん……」
「……そして豊見さんは時計がおかしくなっていることを他の人に知られたくなかった。だから分からない、とも、壊れているとも言わずあんな風に言った……」
「…………」