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推理げえむ 1話~20話

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 神田と名乗った男は、牽引用のロープを取り出した。春日達はそれで引っ張って行って貰えることになった。
「助かりましたね。こういうのを怪我の功名っていうんですかね」
「違うよ。不幸中の幸いだよ」
「違うわよ。この都合の良過ぎる話の展開は渡りに舟って言うのよ」
 夏目が冷静な口調で訂正した。

 取り壊しの進む家々や空地が目立つ中で、ぽつんと一軒だけ建物が残っていた。豊見モータース、看板にはそう書かれている。もう営業は終了しているのか、明かりは消え、シャッターは降りていた。
「おう、豊見。この人達、車が壊れたんだってよ」
「ああそう」
 ツナギ姿で表に現れた豊見と呼ばれた男が腕時計に眼を落した。
「すみません。やっぱり無理ですかね、この時間じゃ」
 秋山は頭を掻いた。
「ああいや、大丈夫ですよ。まずは診てみないとすぐ直るかどうかはわからないけど、まあ代車もあるから」
「本当ですか、助かります。道に迷って、車も壊れて本当に困ってたんです」
「へえ、どこ行こうとしてたの?」
「一応、これから海へ向かおうかと思ってるんですが」
「え、これから? こんな時間に?」
 豊見が不思議そうに訊ねた。それに対して秋山は曖昧に返事をした。ここで言葉を濁すのも変に思われるかもしれないが、実験のためだと言えばもっと変に思われるだろう。
「なのでできれば、道とかも教えて頂けると……」
「いいよ、教えてあげよう。豊見、紙とペンあるか?」
 豊見はツナギのあちこちをパンパンと叩いた後、無い、と答えた。
「上か? じゃあ取ってくるか。ちょっと待ってな」
「何から何まですみません。お手数をお掛けします」
 神田は手を上げて答え、建物の裏に消えた。
「すみません、お世話になります」
 今度は春日が車を降りて来た。
「ところで、この辺りに自販機ってありませんか?」
「え、いやあ、無いね」
 豊見は苦笑して答えた。
「あ、ちょっと待ってて、そういえばいろいろ買ってきてあるはずだ」
 豊見は神田の車のトランクを開くと、中からペットボトルを二本持って戻って来た。
「あったあった、これでよければどうぞ」
 と言って、春日と秋山に一本ずつ渡した。夏目が車に居ることには気が付かなかったようだ。
「いいんですか? すみません。あ、じゃあお金を」
「いい、いい」
 豊見はパタパタと手を振った。春日は礼を言いうとボトルのキャップを捻り、旨そうに中身を呷った。
「……ん? おい豊見、あれって俺が持ってきたやつか?」
 メモ帳とペンを手に戻って来た神田が春日と秋山が持つペットボトルを眼で指した。
「おう。別に構わないだろ? ジュースの一本や二本でケチケチするなよ」
「いや、ケチってるわけじゃねえよ。でもあれ……」
「こんばんは。こんな時間からでも修理ってお願いできるんですか?」
 最後に夏目が車を降りてきた。豊見はいきなり現れた女子校生に小さく驚き、しばし見入った。因みに神田も先程同じ反応をした。薄暗くても夏目の整った顔立ちというのは充分に男の目を引くものらしい。
「あ、ああ修理ね。じゃあちょっと診てみようか」
「どうする? 中入れるか? 車押すか?」
 神田がシャッターを指した。
「いや……大丈夫だ」
 言うと豊見は通れる分だけ持ち上げたシャッターを潜り、ほどなくしてスタンドの付いた照明器具と工具入れを持って出てきた。そして慣れた手付きで照明を入れると春日書店号のボンネットを開けた。そして、中を少しチョンチョンチョンと触ると、それだけでもう顔を上げる。
「ああ大丈夫。これはただのオーバーヒートだよ。しばらくしたら走れるようになる」
「え、本当ですか、よかったぁ。ありがとうございます」
 夏目は頭を下げた。
「いやいや」
「じゃあスガッチ―」
 夏目が振り向くと春日はいつの間にか春日書店号の後部座席に居て、夏目の鞄からタッパーを取り出し、中のおむすびをおいしく頂いているところだった。
「えっ!? なっ、ちょっ、スガッチ!? 何やってんの!?」
 夏目がもの凄い勢いで春日に掴み掛った。春日は何故自分が怒鳴られているのか解らないといった風にキョトンとしている。
「あーっ! 二個も食べてる! これ実験のために用意したのよ! 一体なに―」
「んん!?」
 夏目の背後でくぐもった唸り声が上がった。夏目が振り返ると秋山がペットボトルを手に固まっていた。秋山は口に何かを含んでいたが、少し迷ってからそれを飲み下し、呟いた。
「スクリュードライバーだ……」
「は……?」
 豊見が驚いて神田を見た。
「ああ、あれか? そう、カクテルだ」
「酒だったのか!? 変なマネするなよ!」
「お前が勝手に勘違いして渡したんだろうが。人ン家にゴチャゴチャ材料持ち込んでシェーカーシャカシャカするのもアレだったから家で作って持って来たんだよ!」
「お前カクテルなんか飲まなかっただろ!」
「今マイブームなんだよ!」
 夏目は向き直って春日の顔をまじまじと見た。
「え? 何? じゃあ、もしかして、コレ酔っ払ってんの?」
 とても酔っているようには見えなかった。いつもより眼がキリリとしているくらいだ。そして春日は、おもむろに鞄から魔法瓶を取り出し、今度はインスタント焼きそばの作成に取り掛るのであった。勿論、夏目は慌てて取り上げた。
「夏目ちゃん、もしかして先輩?」
 秋山が後ろから声を掛けてきた。
「うん、そうみたい……」
 春日の足下には半分くらい空になったペットボトルが転がっていた。
「あー酔ってるわ。眼が違うもの」
 春日の顔を覗き込んだ秋山が眉を顰めた。
「へえ。スガッチって酔うとこうなるん? で、何で一言も喋らないわけ?」
「さあ? 言語中枢がクラッシュしてんじゃないの? 大概次の朝には直ってる、何も覚えてないみたいだけど」
「そう……でもどうしよう……これじゃあ運転は無理よね……」
「うん……ボクが運転してもいいけど、ボクも飲んじゃったからしばらくは無理。吐き出そうか迷ったんだけど、頂いた手前失礼かなと思って。いや、やっぱり飲むべきじゃなかったな……」
 秋山はバリバリと頭を掻いた。
「うーん、しょうがないわね。とにかくスガッチ、今は酔いを醒ますのが先決よ! 分か―」
「ごっごっごっ」
 春日はグイグイ飲んでいた。
「飲むなー!」
 夏目は春日の頭をはたくとペットボトルを奪い取った。
「大丈夫かいその人? 酔っ払ってんの?」
 神田が車内を覗き込みながら言った。
「申し訳ない。まさか酒だとは思わなくてね」
 頭を下げる豊見に秋山は手を振った。
「いえいえ、全然です。こっちが勝手に飲んじゃったんで。しばらくすれば元に戻ると思いますから」
「どうだろう、私の家がこの上にあるから、そこで休ませては? 水を飲ませて横にさせたらいい」
 豊見が背後の建物を指で差した。
「え、よろしいんですか? でも、突然押し掛けたらご家族にもご迷惑じゃ……」
 今度は豊見が手を振った。
「それは気にしなくていい。今は一人で住んでるから。今日はこいつと一杯やろうってところだったんだ」
 豊見は神田を指差した。
「そうそう。遠慮なんてしなくていい」
 神田が言った。