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推理げえむ 1話~20話

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「室内が暗く、そしてパソコンの前に座っているために画面も近く、更に一人フガフガによる興奮した状態。そして学生さん自身の光に対する体質にもよるけれど、こんな状況で、画面が赤い点滅を繰り返したなら、光過敏性発作を起こす可能性は極めて高い」
「な、なんてことだ……。え、ちょ、ちょっと待って下さいよ。すると、どうなるんですか?」
「うん。確か、このDVDは学生さん自身が作成した物ではなくて、誰か別の人間が作ったかもしれないんだよね? ならばこの映像の加工に悪意が有るのか無いのかで事態は一変する」
 秋山が唾を飲んだ。
「さ、殺人事件……」
 春日はパソコンからディスクを取り出すとその光沢に眼を落した。眼鏡がキラリと反射する。
「見たら死ぬ……。これも一種の呪いのビデオか……」
「…………」
「いいかい秋山君、亡くなった学生の交友関係を調べ上げ、ディスクの作成者の割り出しに全力を尽くすんだ!」
「はっ、了解しました! 早速取り掛かります!」
 秋山は春日の手からディスクを取ると、勢いよく部屋から飛び出した。
「待ちたまえ秋山君! 話はまだ終わってないよ!」
 春日に怒鳴られ秋山は体をギクリとさせた。
「す、すみませんっ! 失礼しました! ……ま、まだなにか?」
「ダビングがまだ済んでいない」
「後にして下さい!」
 秋山も怒鳴った。

 数日後、問題のディスクを作成したという男が警察に出頭してきた。男は死亡した学生の友人であった。地元警察が殺人事件として捜査を進めているのを知り、怖くなったと出頭の理由を話した。
 そしてディスクはやはり、発作を引き起こすよう意図的に作られた物であった。作成の目的は、発作で引きつけを起こした友人を見て笑ってやろうという、実にくだらないものであった。男は、まさか本当に死んでしまうとは思わなかったのだと取り調べの刑事に対し、何度も何度も泣きながら繰り返した。
 
 
 
   第四話 リビングデッド殺人事件

 ある夜。閑静な住宅街に男の叫び声が響いた。
「照屋、バカな真似は止めろ! あぶない! 降りろって!」
 その声に付近の住民がなにごとかと窓から顔を出し、あるいは通りに出てくる。五分もすると野次馬の列ができた。
 頭上を仰ぎ、なおも叫び続ける男の視線の先にはマンションが有り、その五階のベランダに人影があった。
 どうやら男らしく、ベランダの手摺に身体を預け、俯いたまま押し黙っている。
 やがてパトカーのサイレンの音が遠くで聞こえ始めた頃、ベランダの男は更に外へ身を乗り出し、そこから真っ逆さまに転落した。

「あ、先輩。お疲れ様です」
「はいはい、お疲れ様」
 数時間後、秋山に呼び出された春日がマンションの前に到着した。
 既に男の遺体は運び出され、集まっていた野次馬も姿を消していた。辺りは夜の静けさを取り戻しているため、二人は額をくっ付けるようにして会話を始めた。
「じゃ、さっそくですけど状況を説明しますね。亡くなったのはこのマンションに一人で住んでいた、照屋さんという男性です。散歩中だった友人がベランダに身を乗り出す照屋さんを偶然発見、説得を試みますが失敗。付近の住人が見守る中、照屋さんは身を投げました」
「うん……?」
「なので、目撃者による証言が多数あります。まず、『ベランダが暗くて、表情は判らなかった』ですとか『友達みたいな人が一生懸命呼び掛けてるのにピクリとも動かずガン無視していた』ですとか『何の前触れも無くいきなり飛び降りた』とか、他には―」
「いや、ちょ……目撃者多数って……それ完全に自殺じゃん……なんで僕呼んだの?」
「いやあ、それがですね、ちょっと不可解な点も有りまして。婚約者の女性が泣いて言うんですよ、『子供ができたのをあんなに喜んでくれた彼がなんで自殺なんか』って」
「ふうん?」
 春日が眉をぴくりとさせた。
「あの女性です」
 秋山が指したその先に、口元を手で覆い大きく肩を震わせる女がいた。今はマンションのエントランスで警官の事情聴取を受けている。
「かなりショックを受けてらっしゃいまして、それ以上話を聞くことはできてないんですけど」
「その隣に立っている男性は?」
「あの方が、照屋さんにずっと呼び掛けを行っていた友人の湧川さんです」
 ともすればその場に崩れ落ちそうな女の肩を、男が手を添えて支えている。
「随分、婚約者の女性と親しそうだね」
「ええ、なんでも皆さん、昔からの友人らしいです」
「ふうん。……待てよ……秋山君、まさかパトカーはここへ向かっている途中、サイレンを鳴らしていたんじゃないだろうね?」
「え? えと、鳴らしてたと思いますけど、それがなにか?」
「やはりそうか……なんてことだ……秋山君、こんなことを言うのは非常に残念だけど、照屋さんを殺害したのは君達警察の人間だよ」
「な、なんですって!? それは一体どういうことですか!」
「照屋さんは子供ができたことを大いに喜んだ。しかし感動が大きければその反動も大きい。彼は結婚や将来について考え過ぎて、世に言う『マリッジブルー』に陥ってしまったんだ。そんな時、偶々ベランダに出て夜風に当たっていただけなのに、勘違いした友人が『早まったマネをするな』的なことを言い出し、更には野次馬まで集まってきて彼はうろたえた。そして、極度に不安定な精神状態の彼に追い打ちをかけるけたたましいサイレン。その音が脳の視床下部に働きかけ、『騒ぎを起こしてしまった、逮捕される、もうお終いだ』という強迫観念が彼に込み上げ、遂に耐え切れなくなって、えーい、って……。したがって照屋さんを追い込み、殺したのは君達警察だ」
 春日はそう言ってウンウン頷いた後、あやまれ、と言った。
「……………………そういう冗談言う先輩嫌いです」
 秋山は冷たく言い放った。
「……ご、ごめん」
「オホン……じゃあ、説明を続けますね。照屋さんが落下したのは地面に敷かれた芝生の上です。裂傷による派手な出血はありませんが、かなりの衝撃があった模様です。死因は頚椎の骨折、脳挫傷でした。湧川さんが駆け寄ったときにはもう意識は無かったそうです。こっちです、付いてきて下さい」
 秋山は照屋が落下した地点まで春日を誘導した。そして取り出したライトで地面を照らすと、芝生の上に落下の衝撃を物語る大きく窪んだ部分があった。
「照屋さんは上半身裸で、下はハーフパンツを履いていました。それで遺体を運び出すとき、やたらお腹に土や葉っぱがくっ付いていたので、触ってみたら何やらベタベタしてました」
「お腹がベタベタ? なんだいそれくらい。君なんてお腹どころか、全身がベタついてるときあるじゃないか」
「そうそう、ローションってきれいに落として貰ったつもりでも、意外と残ってるんですよね―ってほっといて下さい! そうじゃなくて、ガムテープや湿布を剥がした後、みたいな感じだったんですよ」
「ふうん……」
 春日は芝生の窪みを触ってみた。ベタつくところは無い。
「それと、証言により照屋さんがベランダから落下したのは午後十一時五分頃と分かっているんですが、妙なことに通常よりもかなり早く死後硬直が出てます」