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推理げえむ 1話~20話

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 夫は動機をこう語った。妻は無断で、家や土地を担保に借金まで拵えていたのだそうだ。離婚したとしても全てが戻ってくることはまずあり得ない。もう殺す以外に無い、との考えに行き着いたのだという。
 男は商売道具を握りしめ、涙ながらに語った。




   第三話 一人フガフガ殺人事件

 ある日の春日書店に秋山が顔を出した。
「せんぱーい。こんちゃーす」
 専門書や参考書が並ぶ小ぢんまりとした店内を進むと、奥にはレジカウンターが有る。
「はあい、いらっしゃー」
 声は更にその奥からした。戸の代わりに掛けてある暖簾を潜れば中は倉庫になっていて、事務所も兼ねた室内の照明は明るく、春日はパソコンの前に座り伝票を整理しているところだった。
「お疲れ様です。ちょっと仕事で近くまで来たもんで」
「ああそう。事件? 事故?」
 春日がのびをしながら立ち上がった。ひょろりと背が高く、堀の深い顔に黒縁メガネが搭載されている。今はボサボサの頭にジャージエプロンという残念な感じになっているが、ちゃんとしたものを着せてやればそれなりに見栄えはする男である。
「うーん……急病死、ですね」
 秋山が答えた。
「ふうん?」
「今朝一一九番に通報がありましてね。息子が鼻から血を流して息をしてないって。それで救急隊が出動して、でも救急隊員が駆け付けたときにはもう亡くなってからかなり時間が経過してたんです。で、死因がちょっとはっきりしないってことと多少出血してるってんで、警察も出動となりまして」
「なるほど」
「名前は伏せますけど、亡くなったのは学生で、朝になっても食卓に現れない息子さんを変に思って、母親が部屋の戸をノックしても応答なし。心配した父親がドアを開けると暗い部屋の中で息子さんが亡くなっていたそうです」
「うん」
「ボクが部屋に入ったとき、息子さんはパソコンが置かれた机の前で、椅子に座ったまま亡くなっていました。机に前のめりに倒れていて、それで……寝巻のズボンとトランクスが膝まで下げられていて……そして手が……その……こ、股間に……」
「ほう」
「ティッシュの箱が傍に在って……で、鼻血が出てました」
 秋山がジェスチャーを加えながら説明した。
「そっかぁ……」
「検視によると、どうやら夜にパソコンでエロDVDを見ながら一人フガフガをしてる最中に亡くなったようだ、と」
「おう」
「鼻からの出血は気を失って前のめりに倒れたとき、机に鼻を打ち付けたためだそうです。詳しい死因の特定はもうちょっとかかりますが、状況から見て性行為時の発作、いわゆる腹上死に当たるんですけど、今回の場合、一人フガフガ時に亡くなっていますので、一人フガフガ死ってことになります」
「……きっついな」
「はい」
「で、発見したのは両親、か……」
「はい」
「きっついな」
「はい……」
「まあ、それなら事件性はなさそうだね」
「ええ、部屋に誰かが押し入ったり、争った形跡もみられませんでしたし。それに……こういったケースの場合、ことを大っぴらにするのは、ご両親としても……」
「それもそうか……」
「しかし残念ながら……イク前に逝ってしまったんですねぇ」
「こら、不謹慎だよ」
「あ、すみません。ああ、そうだ。息子さんが見てたエロDVD見てみます? 遺留品として預かってるんです。これが本当に急死に関係があるのか調べる必要があるので」
「うん、それはいいけど、なんでそれを、鑑識の人じゃなくて君が持ってるの?」
「…………まあいいじゃないですか」
「いいのか?」
 秋山はDVDをパソコンにセットして再生させた。
 冒頭から過激なシーンが映し出される。艶めかしい喘ぎ声が室内に響いた。
「モザイク邪魔ですよね」
「うん、モザイク邪魔」
 漢達は糸のように目を細めた。
「あ、それでですね。このエロDVDなんですけど、どうやら、亡くなった学生さんの元々の持ち物ではないようなんですよ」
「………………」
「というのもこのディスク、記録用のDVDに映像データが書き込まれたものなんですけど、亡くなった学生さんが使っていたパソコンのドライブにはDVDへの書き込み機能が無いんですよ」
「………………」
「したがってこのディスクは他の誰かから借りた物、または貰った物ということになります。…………って聞いてますか?」
「………………」
 そしていよいよクライマックスというとき、画面が赤いフラッシュを繰り返した。
「……なにこれ?」
「ああ、演出ですよ。市販のエロDVDを複製した後、パソコンで加工したようです。出演してる男女がオーガズムに達するのに合わせてピカピカピカッとフラッシュ効果が入るんです。派手ですよね! ……あ、そういえば複製って違法だ」
「……………………」
「先輩? どうかしましたか?」
「……秋山君……この一件、捜査を殺人事件に切り替える必要があるかもしれないよ……」
「へっ!? ど、どうしてですか!? 死因は発作ですよ?」
「うん、死因は発作で間違いないだろう。でもこのDVDによって、発作が人為的に引き起こされた可能性がある」
「え、こ、このDVDによって? え、だって、ボク等今観ててもなんともないじゃないですか!」

※春日が考える発作の原因とは一体何だろうか?

 春日がディスプレイを顎で示した。
「発作は発作でも、光過敏性発作かもしれない」
「ひかりかびんせいほっさ?」
「うん。目から入った強い光が脳を刺激して、吐き気を催したり、めまいがして意識を失うこともあり、ひどい時は呼吸不全が起きる。昔、子供向けテレビアニメで問題になったことがあるだろう?」
「ああはい、その事件は知ってます。でも待って下さいよ。ボクは亡くなった学生さんの部屋を実況見分したときもDVDを見ましたよ? 他にも数名一緒に。誰もこの映像で体調が悪くなった人間はいません。現に今だって全然平気です。むしろ元気です」
「うむ」
「なのにそれが発作を引き起こすですって?」
「じゃあ仮に、自分の部屋で一人フガフガをするとしよう。まずどうすると思う?」
「ボクは全裸になります」
「それは君の嗜好だよね。ごく一般的な回答を頼むよ」
「ええっ? ……ええと……部屋のカギを……」
「うん、掛けましょ」
「ティッシュを……」
「はい、小脇に抱えましょ」
「………………そして、電気を」
「それ! 学生さんは部屋の明かりを消したんだよ。部屋の明かりのスイッチはオフになっていて、カーテンも閉まってたんじゃないかい?」
「ああ、はいはい、確かにそうです」
「その方がなんか落ち着くからね。でも周りが暗いと画面の光の刺激が強過ぎるんだ。しかも赤い光が一番刺激が強い。『部屋を明るくして、画面から離れてみて下さいね』ってテロップ見たことあるだろう? 周りが明るければ光の刺激は弱まるんだ。君達が実況見分したときには投光器を使ったりして、室内は明るかっただろう?」
「あ、はいはい、確かに」
「そして僕達が今いるこの室内も明るい」
「なるほど、だから平気なのか!」