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推理げえむ 1話~20話

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「うん。線路をみてごらん。錆びが浮いていることから判るように、レールは鋼鉄製だ。そして鉄と言えば磁性体、つまり磁界の中にあるとき磁力を持つようになる物質だ。僕の考えが正しければ、この辺りの地面の下のどこかに、磁力発生装置が埋まっているはずだよ」
「そ、それって、電気の力で磁気を作り出す機械のことですよね?」
「そう。工場等ではリフティングマグネットという機械が使われている。クレーンの先に磁石が取り付けられている装置なんだけど、その強力な磁力で重い鉄の塊も持ち上げることができるんだ。鉄工所で働く別所さんはこの類の機械に精通していて、それを利用したんだと思う」
「でも……どうやって小野さんをこの場所へ?」
「うん。別所さんは足が悪い小野さんが近道のために線路を横切るであろうことを考慮して、計画を立てたんだろう。まず別所さんは適当な口実を作り、小野さんを呼び出した」
「口実ってのは家を安く売るってやつですか?」
「そう。そして頃合いを見計らって小野さんを家から送り出す。頃合いとは、電車がここを通過する前に小野さんが線路に差し掛かるようにすることだ。また、小野さんは歩くのが大分ゆっくりだったはずだから追い越して現場へ先回りすることは充分可能だ。そして小野さんを待ち伏せていた別所さんは、用意していた罠を作動させた……」
「あ、そうか! 小野さんの足首には……!」
「そう、事故によって鉄の板が埋没している。別所さんはそのことも知っていたんだろう。そして、小野さんの足は磁力によって引き寄せられ、レールとくっ付いてしまったのさ」
「眼に見えない力が働いていたわけか! だから小野さんは電話であんなこと……!」
「そして、小野さんが動けなくなっているところに、電車が来て……」
「…………」
「磁力はレールを伝わるから、小野さんが磁力発生装置の真上を通らなくても足を捕ることはできる。大体この辺りを通ってくれればいいってわけさ」
「な、なるほど……。じゃあやっぱり先輩が言った通り、別所さんはここで小野さんの服の白さを実際にまぶしく感じたから、あんな科白が口を付いてしまったわけですね?」
「そうだろうね」
「しかし先輩、どうして今回の犯行に磁力が関係していると気付いたんですか?」
「それはね……」
 春日は唖然として佇む老人を振り返った。
「おじいさん、数日前ここで見掛けた別所さんが、そのとき仕事中だったのかもしれないと思ったのは、作業服を着ていたからではありませんか?」
「あ、ああ……そうだ」
「やっぱり。おじいさんは別所さんが何かの作業中だと思ったわけですね。しかし実はそのとき、別所さんはそこで装置の作動テストを行っていたんですよ。別所さんは作業服のとき、足には安全靴を履いていた。安全靴には物が落下してきたときのために爪先をガードする鉄板が入っているからね。それをうっかり磁石にくっ付けてしまい、転んでしまったんだよ……」
「なるほど!」
「え、えらいこっちゃあ……」
 老人が唇を震わせて呟いた。
「先輩、この後どうしますか?」
「…………」
 春日は鈍く光る鋼の軌条に目を向けていた。


「―というわけで、僕達はあなたが証拠を隠滅するために現場に現れるのをこっそり待ち伏せることもできましたし、地元の警察と協力してあの一帯を掘り返すことだってやろうと思えばできました。しかしそれをしなかったのは……」
「あなた自身の口から、真実を話してほしかったからです……」
「…………」
 春日と秋山の前には今、別所が立っていた。別所は何をしても無駄だと悟ったのか、それとも放心しているだけなのか二人が話している間身動き一つしなかった。
「……あなた方が仰った通りです……私が殺しました……」
 そして小さくそう呟いた。
「……別所さん……何故あんなことを……?」
「あの男を恨んでいました……私は妻を喪った……。あの日、妻は手の痺れと眩暈を訴えました。勿論すぐに医者に連れて行きましたよ。……しかし、小野が先に診療所に来ていて……あの男は足の感覚が無いはずなのに……それなのにその日に限って足が疼くと言って……。この辺りにはその診療所一つしかなくて、医者も一人しかいなかった。……あの男は妻に順番を譲ってくれなかった……! 処置が早ければ助かったかもしれないのに……! 妻はその日脳梗塞で倒れ……三日後に死にました……」
「…………」
「それから私は小野の事をいろいろと調べ上げたんです……復讐するためにね……」
 その後別所は、現場で小野を手にかけたときの様子を淡々と語った。

 そうして、別所は警察へと出頭し、その供述通り現場近くの地面を掘ってみたところ、そこから電力によって磁気を作り出すことのできる装置が発見され、事件の幕は閉じた。

「ひっく……ひっく……」
 帰りのバスの中、秋山が何度もしゃくりあげていた。
「もう泣くの止めなよ……」
「……だって……だってあんなの……悲し過ぎるじゃないですか……」
「……うん……そうだね……」
「うう……あまりにも……あまりにも……」
「秋山君……うん、まあ……お目当ての女刑事が人妻だったのがショックなのはわかるけどさぁ……」
「ふぐぅ……無念です……」
「君は刑事のくせに観察力が足りないよ。左手の指輪に気が付かなかっただなんて……。顔ばかりに目がいってるからそんなことになるんだよ」
「違いますぅぅ! どっちかっていうとおっぱい見てましたぁ!」
「いばるなぁぁ! どっちにしろ刑事失格じゃあぁ!」
 春日のツッコミが走るバスを揺らした。
 
 
 
   第十四話  誤認

「いつになったら出発できることやら……」
 春日はハンドルに頬杖を突きつつ呟いた。助手席に座る秋山はルームミラーを自分の方へ向け、後方を窺っていた。張り込みではない。
 制服姿の夏目が春日書店号を飛び出してから既に五分以上が経過していた。
 鏡に映る夏目の後ろ姿の向こうには下校途中の小学生が五人。手ぶらの少年が四人、五人分のランドセルを抱え、汗だくの少年が一人という編成である。少し開けた窓の隙間から夏目の声が滑り込んでくる。
「あのねえ、もう一度聞くけどアンタ達さ、なにが楽しくてイジメなんてやってるわけ?」
 肩をいからせる夏目を相手取り、一番体格の良い少年その一が唇をとんがらせて応戦している。
「いじめてないって言ってるだろ! いじめてないよあ、ケンジ!?」
「う……うん…………」
 ランドセルを全身に纏った少年は目を合わさずに頷いた。
「そんな聞き方されて、いいえ、バリバリイジメられてます。なんて答えられる訳ないでしょ! 後の仕返しが怖くて! でもその子を見れば一目瞭然よ! 汗びっしょりじゃない! 随分長いことアンタ達の鞄を持たされ続けてたっていう証拠でしょ! それに! アンタ、この子のこと、小突いてたでしょう!」
 無関係を装っているつもりか、一番離れたところで息を潜めていた少年その二を、夏目はビシリと指差した。