小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

推理げえむ 1話~20話

INDEX|37ページ/67ページ|

次のページ前のページ
 

 そうして二人は一軒の家屋へと辿り着いた。表札には『別所』とある。しかし戸を叩いても返事は無い。
「あらあ、やっぱり出掛けてるみたい。……ここまでだね。秋山君、残念だけど」
「ち、ちょっと待ってみましょうよ! 後一時間だけ!」
「長いわ」
「じゃあせめて一時間半! ……いや二時間!」
「この場合普通、時間は短くなっていくのが正しい。君は頭がおかしいのか?」
「じゃあえっと、じゃあえっと……!」
「どんだけ女刑事オトしたいんだよ」
 二人が戸口でギャアギャア騒いでいると後ろから声を掛けられた。
「ウチに何か用ですかな?」
『え?』
 振り返ると二人を怪訝な表情で見詰める中年男が立っていた。相当年季が入った作業服を着ていて、履いている安全靴もくたびれ、擦り切れた爪先から中の鉄板が見え隠れしていた。そして手には仏花を携えている。
「あ……あの、失礼ですけど、別所さんでいらっしゃいますか?」
「……そうですが、あなた方は?」
「すみません、ボク達昨日の、小野さんの事故について調べてまして」
「……ああ、そうですか……」
「今、お仕事からお帰りですか?」
「ええまあ、工場は今日午前中だけだったものでね。
……私もビックリしてますよ、事故には……」
「はい。それでですね、昨日小野さんがこちらに伺ったとお聞きしまして、そのときの状況をお聞きしたくてですね」
「……状況、とは?」
「例えば小野さん、酔っ払ってベロベロだったりはしませんでしたか?」
 春日が訊ねた。
「ああ、そういうことですか。いや、酔っ払ってはいなかったですね」
「そうですか……。では、小野さんにどこか変わったところは無かったですか?」
「ううん……いえ、判りませんね。無かったと思います」
「そうですか。ではですね、差し支え無ければお聞きしたいのですが、小野さんは昨日どういったお話でこちらに?」
「ああそれは、実は私、遠くに引っ越すつもりで、家を手放そうかと思っていましてね。それで、この家を安くで譲るから、見るだけでも見てみないかと小野さんに相談したんですよ」
「なるほど、それで昨日は小野さんがお宅を見にこちらへ」
「そうです。それがこんなことになって……」
 別所は春日の視線が自分の手に向けられていることに気が付いた。
「ああこの花はね……実は別所さんにではないんです。勿論、後で別所さんの分も用意するつもりでいますがね。今日は……妻の命日なんですよ」
「あ、失礼しました」
「いえいえ、それでね、この家は独りで住むには広過ぎるから……それでね……」
「そうでしたか……」
「私から教えて差し上げられることは特に無さそうですね……申し訳無いですが……」
「ああいえいえ、参考になりました。ありがとうございました」
「どういたしまして。でもね、私思ったんですが、小野さん昨日は白い服を着ていたんですよ。ここ数日ずっと日差しが強いでしょう? 服が太陽の光を白く反射して、電車の運転手には小野さんの姿が見え難くなってしまったんじゃないかなぁ。だからあんな事故に……」
「……はあ……なるほど……」
「……では、すみませんが私はこの辺で……」
「あ、お疲れのところすみませんでした」
 別所は春日達が礼を述べると会釈で応え、家の中に消えていった。

 その後、春日と秋山は小野の住居にも足を延ばした。位置的に見て事故現場である線路は小野が別所宅から帰宅する際、近道のために横切ろうとしたものと見て間違いなさそうだった。そして二人は再び現場へと戻ってきた。
「先輩、小野さんが電話で言った謎の言葉、少しは解りそうですか?」
「…………」
「一体ここで何があったんでしょうねぇ……」
「……あのさ、さっき別所さんが、小野さんが着けていた白い服が日光を反射したんじゃないか、とか言ってたよね?」
「ああはい。確かに太陽がカーッと照ってるときって、干してある白いシーツとか女性が差している白い日傘をまぶしく感じるとき有りますね。反射した光の所為で小野さんの身体の輪郭がぼやけてしまって、それで運転手がそれを人だと気付くのが遅れたんじゃないかってことですよね?」
「うん……。でもさ、よく別所さんは小野さんが白い服を着てたってだけであんな風に憶測が飛ばせたよね。緑ならまだ分かるんだよ、木々の緑と緑色の服が同化して、運転手には小野さんが見えなかったんじゃないか、ってね……」
「迷彩服みたいにですか?」
「そうそう。……これってさ……もしかしたら、別所さん自身がこの場所で小野さんを見て、実際にまぶしく感じたからあんな科白が出たんじゃないだろうか……? すなわち、小野さんにここで何かをしたのは別所さんなんじゃないかな……」
「い、いきなりですね。何かって何を?」
「いやそれはまだ解らないけど……。片足が不自由な小野さんが足を引きずりながらここへ来て……そしてここで何かが……」
「あ、その小野さんの悪い方の足なんですけど、神経が麻痺していたみたいですよ。昔車の事故に遭ったらしいんですが、そのとき足首に喰い込んだ大きめの鉄の板がそのまま埋没してしまって、いまだ足に残ったままだったみたいです」
「うわあ、痛い! さっさと手術して取り出せば良かったのに。あ、麻痺してるから痛くないのか」
 春日が顔を引きつらせていると、近くの茂みがガサガサ揺れ、そこから一人の老人が顔を出した。
「おうい、おめえさん達こんなとこで何してる? あぶねえぞ。昨日もこの辺りで事故があったらしいわ」
「ああはい。実はボク達、その事故について調べてまして」
「へえ、そうなの」
「おじいさんはここで何を?」
「俺? 俺はあれだ、山菜集めててな、農協に持って行くの」
「そうですか。あ、そうだおじいさん、昨日もここに来ました? 昨日この辺りで別所さんを見ませんでしたか?」
 春日が訊ねた。
「あ? 別所って鉄工所で働いてる別所か? いやあ昨日は俺来てねえもん。知らね」
「そうですか……」
「でもそういや、何日か前にこの辺りで見掛けたな。仕事中だったのかもしれねえ。わからねえけど何かしてたな。それでな? 線路のところで急にすっ転んでな。靴が脱げてたわ」
「靴が?」
「ああ。その後はどっか行ってしもうたが」
「…………あ! も、もしかして……そうか、解った!」
 春日は声を上げた。
「おじいさん! ありがとうございます、おかげで謎が解けましたよ!」
「あ?」
「え、解ったって、別所さんが何をしたのか解ったんですか!?」
 秋山が驚いて訊くと春日は力強く頷いた。

※この事件で使われたトリックとは?

「せ、先輩。別所さんが一体何をしたっていうんですか!?」
 事情がわからずキョトンとする老人を完全に取り残し、二人の会話が続いた。
「別所さんは罠を仕掛けたんだよ。小野さんしか引っ掛ることのない罠をね……」
「罠ですって?」
「そう。小野さんは、磁力によって足を絡め取られ、線路上から動けなくなってしまったんだ」
「じ、磁力!?」