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推理げえむ 1話~20話

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「そこなんですよね。亡くなった男性は轢かれる直前、携帯で家族に助けを求めています。ですのでどうやら自殺ではないみたいなんですよ。男性は家族に『線路で足が動かなくなった』と言ったそうです。家族の人が『足を怪我したのか? 足が溝に挟まったのか?』と聞くと男性は『違う、解らない、足が動かない』と、とにかくパニックの状態でそう繰り返したそうです。……そしてそこで、電話は途切れたそうです……」
「ふうむ……」
「男性が口走った言葉の意味は不明なんですけど、線路上に特に異常は見られなかったため、この一件は男性が踏切を使わず線路を横切り、足を取られたための事故として処理される見通しです」
「そうなんだ」
「ただですね、やはり男性が電話でした会話の内容に疑問を持って、心にモヤモヤを残したままの地元の刑事も中にはいましてね。これはボクも同じ警察官としてほうっておけないな、と思いましてね!」
「なるほど……その地元の刑事ってのが美人なわけだ……」
「あ……あはははは……」
「あははじゃないよ」
「とにかく先輩、力を貸して下さい。後お金も貸して下さい」
「よし、歯を食いしばれ、そして歯医者に挿し歯の予約を入れろ」
「えー……だってここ、ATMも無いんですよ」
「知らんがな」
「オーノー……ならどうしたら……」
 秋山は頭を抱えた後、手を大きく広げ、天を仰いだ。
「大地よ海よ……そして生きているすべてのみんな……! オラに現金をわけてくれ!」
「集まらん集まらん。自分でなんとかしなさいよ。よく知らないけど、サバゲーやるときって山の使用料とか許可とか必要なんじゃないの? お金持ってきてるでしょ」
「え……あ、いや……その……」
「ちょっと! まさか、他人の私有林とかに勝手に入り込んでやってたんじゃないでしょうね!?」
「ち、違うんです! ボク達は勝負に熱中するあまり、そこが私有地だと『気付かなかった』んです! 過失です! しょうがないんです!」
「こらあ! そうやって言い訳まで用意して! いい? そういう行いがサバイバルゲーマー全体のイメージに繋がり、善良なサバゲーマー達が迷惑するの! 謝って! そして、よい子のみんなはぜったいにマネしないで!」
「は、はいぃ! すみませんっ! 以後気を付けます!」
「はあ……全くもう、裁判沙汰になっても知らないからね」
「は、はい……何か……心配掛けてすみません」
「べ、別に君の心配なんてしてないよっ! 勘違いしないでよね!」
 春日は顔を赤らめるとそっぽを向いた。しばらく続いた沈黙の後、秋山はその場に崩れ落ち、地面に拳を叩き付けた。
「だめだっ! …………オッサン二人でツンデレプレイしたところでおぞましいだけだっ……! 萌えるどころか焼身したくなりましたっ……!」
「全くだね……」
 春日もホロリと涙を流した。
「こんなとき夏目ちゃんさえいてくれたら……!」
「そうだね……今度リクエストしてみよう。すると彼女はきっと、火が付いたように怒りだし、断固として、首を縦に振らないだろう」
「そうですね。後、絶対ボク等にお説教しますよね」
「うん、するね……。そうやって怒れば怒る程、その怒った顔がツンなのだとも知らずにね……!」
 春日と秋山は顔を上げるとニヤッと笑った。
 その後、秋山がした交渉によって、金銭の貸与については返済時、利子としておこめ券を付与するものとし、事故の調査に関してはひとまず現場を見てから判断するものとして基本合意に達した。
 そうこうしている間に問題の場所である、森の中に引かれた単線の線路が見えてきた。森の中に引かれているといっても、木が倒れてきてレールを塞いだりすることがないよう、走る線路とその両脇に生い茂る木々とは充分に間隔がとられており、日差しが遮られることもないので明るく、とても凄惨な事故が起きたとは思えない、静かで美しい場所であった。
「向こうから電車が来て―そこで男性が轢かれたんです」
 秋山が身振りを加えて説明を始めた。電車の運行が再開されているため、二人は今線路から少し離れたところに立っている。
「ちょうどこの辺り、ちょっとカーブになってるんです」
「なるほど……電車の運転手からすると、木々が視界の邪魔をして、カーブの出口に立つ男性の発見が遅れてしまったわけか……」
「そういうことになります。えー……亡くなったのは小野さんという五十代の男性ですね」
「ふむ。それでその小野さんはどこか怪我して線路に横たわったまま動けなくなっていたわけじゃないんだよね? 本人が電話で怪我したわけじゃないとか言ってたようだけど」
「はい。電車の運転手は小野さんが線路の上に立っていたと話しています。あ、それでですね、小野さんは足を怪我していたかもしれないと言うより、前々から足が不自由な方だったようです」
「あ、そうなの?」
「はい、片足が不自由だったそうで。でも車椅子とか杖とかが必要な程ではなくって、一人で立つこともできるし、足を引きずりながらですが歩くこともできたみたいです。だから親族の方も最初、歩けなくなる程の怪我をしたんだと思ったそうです」
「ふうん……」
 春日は首を伸ばして左右を確認すると、早足で線路に近付き、しゃがみ込んで目を凝らした。均した地盤の上に砕石が撒かれており、その上に木製の枕木が等間隔で敷かれ、更にその上を錆びの浮いた二本のレールが走っている。古いが、何の変哲もない線路であった。春日は立ち上がると踵を返した。
「特に気になるところは無いね。まあ目に見えておかしなところがあれば、昨日の時点で地元の警察が見付けてるだろうけど」
「はい、見た限り別に不審な点は無いんです」
「ふむ……ところで、小野さんはなんでここを通ったのかな」
「それはだから、小野さんが足の不自由な方だったからですよ。小野さんは移動のとき踏切まで迂回したり歩道橋の階段を上がったりすることが容易ではないため、移動の途中に線路が有った場合は近道のためいつもそのまま線路を横切っていたみたいです」
「ああ、それはその通りなんだろうけど、そうじゃなくて。昨日は何の用事があってここを通ったのかなって」
「ああ、すみません、えと、小野さんは出掛ける際、家の人に知り合いの家に行くと話したそうです」
「知り合いの家に……行きに轢かれたのかな、それとも帰りに轢かれたのかな?」
「帰りのようですね。その知り合いというのが誰なのかも分かってます。その知人宅から小野さんが出てくるのを見掛けた方もいますので、帰り道で事故に遭ったのは間違い無いようです」
「ふむ……そんじゃま、その知人さんに事故の前小野さんにどこか変わった様子が無かったか聞きに行ってみるとしようか」
「おっ、それじゃ協力してくれるんですね!?」
「このまま帰ってもスッキリしないからね。でもその知人って今行ってもいるかな? 仕事中かもしれないよね?」
「あ、そうですかね。家がどこにあるかは知ってるんですけど」
「そう、じゃとりあえず行ってみようか」
 春日と秋山は足早に線路を跨いだ。そして森を抜け、田園に漂う肥料の香に風情を感じつつ、小野が昨日訪ねたという居を目差した。