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推理げえむ 1話~20話

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『冬木です。オサムはダメ人間だったけど、親父殿、あんたはそれに輪を掛けてダメ人間だな! 虐待で子供を死なせる最悪な親もいるけど、明確な殺意を持って子供を殺すあんたみたいな親は最低最悪だ! あんた、人間じゃねぇよ!』
 画面に浮かぶ文字を見詰める男の顔からは土台生気というものが感じられない。
 春日はパソコンの前に跪くと、キーボードに指を走らせた。
『冬木君。きっとお父さんは、君達が交わしたチャットでのやり取りを、どのような経緯でかは知らないが、読んでしまったんだと思う。オサムさんが使った〈あーあ、早く親死んでくんねーかな。そしたら遺産とか保険金とか手に入るのにw〉という文章をね』
『??? だってあれは』
『そう。wは符号、(笑)と同じ。ニュアンス的には冗談だ、という意味。しかし、その文字に馴染みの無い人間は、文面通りに受け取るしかない。生活を面倒みて貰っておきながらあの言い草……お父さんは酷く絶望し、深く傷ついたんだ。君達が普段何気なく使っている言葉が、人の心を鋭く抉ることだってあるんだよ』
 ゴトン、と灯油缶が床に落ちた。男は顔を歪め、崩れ落ちると声を上げて泣き始めた。秋山は消火器を床に置き、頭痛を堪えるかのように顔を顰め、春日は目を細めて画面に点滅するカーソルを見続けた。

 その後、父親は秋山に付き添われて警察へと向かった。春日は一人、部屋の中を意味も無くぐるりと見回した後、最早一言も発しなくなったパソコンの電源を切った。
 
 
 
   第十三話 罠

 ある日のこと、携帯を片手にバス停の標識にもたれ掛った秋山が誰かと話をしていた。上機嫌に鼻を鳴らしているところをみると、会話は弾んでいるらしい。
「あー違う違う、そんなときこそ落ち付きなって。トリガー引くときは、息止めててみ? そんで、絞るようにじわぁっと引く。したら照準がブレないから。デジカメ撮るとき、手ブレ抑えるコツと一緒よ。マジマジ。…………何だって? あーそれは! じゃあ例えばさ、自分は茂みの中に隠れてると想像してみ? そんで、視界の十メートル先を敵が右から左へ移動していたとしてだよ。敵はこちらに気付いていない、狙撃のチャンス! でもこのとき、敵の動きに合わせて銃口も動かしていたんではいつまでたってもトーシロー。そうじゃなくて、敵の進路を先読みして、敵の二歩先に狙いを付けて弾幕を張るわけよ。そしたらば、敵は自分から弾幕に飛び込んで来てくれるって寸法よ! これ当たります。もちろん、タイミング命な? 早過ぎても遅過ぎても駄目、外せば即反撃くらうんだぜ? え? ……おいおい、このくらいでいちいち感心するなよ。こんなのサバゲーの初歩だよ君ィ。はっはっは―」
「えっらそうに」
 背後から掛けられた声に秋山は携帯を跳ね上げた。
「せせせ、先輩、お疲れ様です! 遠い所をどうも!」
「全くだよ。何度乗り継いだことか」
 高く昇った太陽の下、辺りは見渡す限り田んぼと畑しかない。
「因みに、携帯のアンテナは基本一、二本です。山に入ると圏外の場所も在ります」
「ど田舎にも程があるな」
 などと言いつつも、時間の感覚が麻痺しそうなその半端無いのどかさに春日の眼元は緩んでいた。
「ええ。ここの風景って何十年も前からずっと一緒なんでしょうね。本当にのんびりしてますよね」
「まあ、農家の人はのんびりどころか毎日汗びっしょりで頑張っているんだろうけどもね。しかし秋山君、君も物好きだねぇ、こんな所まで来て二日掛りのサバイバルゲームとは。有休をなんだと思っているのかね君は」
「ほ、ほっといて下さい。ボクにとっては有意義な使い方なんです」
「なるほど、意義の有り無しって人によって大きく基準が異なるんだなぁ……」
 春日は明後日を向くと『勝手にしやがれ』とボソリと吐いた。
「あっ、ちょ、急な呼び出しにも応じる先輩だって充分物好きでしょう!」
「…………まあな」
 春日はニヤリと笑った。
「とまあ、冗談はこれくらいにして。秋山君、一体何があったんだい?」
「はい。じゃあ歩きながら、こっちです……えー、昨日ボクが所属するサバイバルゲームチームが別チームと山で交流戦をしていたときの話なんですけど、ボクと軍曹が茂みに潜み、特製激辛クレイモアの設置を敢行しているとですね、ふいに電車の警笛が―」
「え、ちょ、ごめん、待って、特製、何? ぐ、軍曹?」
「ああ、特別製の指向性対人地雷ですね。あとほら、やっぱり階級とか、必要になってくるじゃないですか。こういうのって」
「いや、知らないけど」
「まあ、普段はそれぞれ別々の仕事してるんですけどね。大佐殿はミリタリーショップを経営してて、大尉殿は現職の自衛官。ボクが少尉で曹長と軍曹は会社員。伍長はまだ大学生ですね」
「本職がおんのかい。刑事の君といい、一体何やってんの」
「だってボク、現場で発砲する機会なんて皆無ですし……そしたらもう休日は、同志達と共にのびのびと戦場を駆け巡るか、一日中家でガンシューティングゲームするしか選択肢が無いじゃないですか」
「時間が在るなら昇進試験の勉強したまえ」
「もう! 大人達は二言目には勉強しろ、勉強しろ! 高校のときは大学入ってから遊べって言って、大学では就職してから遊べって言って、ボク一体いつ遊べばいいんだよ!」
「うむ。まだ学生気分が抜けてないみたいだね。いつまで経ってもゲーム感覚か?」
「あ、ゲームと言えば、今使ってる液晶テレビ、もっと大きいサイズに代えようかと思ってるんですよ。夏にお金が入ったら」
「ボーナスをなんだと思っているのかね君は。もうしばく。そこになおれ」
 しかし春日は考えた。この秋山のような消費者が経済を動かしているのも事実である。一概に贅沢は敵、物をボロボロになるまで使い倒す精神こそが美徳と片付けてしまってよいものだろうか。春日がそんな理想と現実の狭間で身悶えていると、秋山がたいして空気も読まず説明を再開した。
「話が横に逸れましたね。ええと……どこまで、ああ、ボクと軍曹がトラップを仕掛けているとですね、電車の警笛が長く鳴って、そしてしばらくしたらパトカーと救急車のサイレンも聞こえてきたんですよ。気になったんで、ゲームを中断して、山を降りて様子を見に行ったんです」
「……迷彩服のまま?」
「はい。みんなで」
「みんなで?」
「はい。で、話を聞くと、人が一人電車に轢かれたっていうじゃないですか。遺体はもう酷い状態だったみたいです。ボクは血がアレなんで、現場には一歩も近付きませんでしたけど」
「……そう」
「車両の運転手が線路の上に立つ男性を発見して、慌てて警笛を鳴らし、ブレーキを掛けたんですが止まることができず、轢いてしまったみたいです」
「ふむ……。その男は線路の上で突っ立って、何をしてたんだろう。どうしてその場から退かなかったのかな」