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推理げえむ 1話~20話

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「いやいや、冬木君はね……真剣に相談に乗ってくれる友達が欲しかっただけなんだ……誰でも良かった、性別は関係なかったんだよ。冬木君の話をすっかり聞き終えて、彼はもう大丈夫だ、と判断したからカミングアウトしたんだ。まあ、メッチャキレてたけどね」
「そりゃそうでしょう」
「それからはもう友達。ネット友達はもっと増えたみたい」
「へえ……ボクの知らない所でそんなことがあったんですねぇ……」
 何に感心したのか、秋山がしきりに頷いた。すると、手に握った携帯がメールの着信を知らせた。
『春日さん、やっぱりオサムって自殺するような人間じゃないと思うんだよね。でさ、さっき貰ったメールを読み返してたんだけど、思い出したことがある。オサムが残したらしい〈働くとかマジ面倒だし。働くぐらいなら死んだ方がマシ〉っていうセリフだけど、前にアイツがチャットで使ったことがあるセリフなんだよね。前にアイツが〈金が欲しい。あーあ、早く親死んでくんねーかな。そしたら遺産とか保険金とか手に入るのにw〉とか言い出して。その後に、〈働くとかマジ面倒……〉って続くんだ。じゃあ死ね、このダメ人間野郎って返事しといたけどね。働くぐらいなら死ぬって、モロあいつが使いそうなセリフではあるんだけど、ホントに死ぬときに使うもんかなぁ……』
 これを読んだ春日が思案投げ首。したかと思うと、ふらりと玄関を上がり、落とした小銭でも探しているかのように室内をウロウロしだした。秋山は口を挟まずそんな春日の様子を見守る。春日は布団や雑誌の山を跨ぐと窓に歩みより、窓枠の隅々に視線を巡らせた。今度はクレセント錠のレバーハンドルを動かして感触を確かめる。上下させると粘着質な手ごたえを感じた。窓を開け放つと外は今日も良い天気だった。眼下には草が伸び放題になった空地が拡がっている。
「そこはただの、長いこと買い手が付いていない売り地です。その空地から、部屋の中の様子を窺えるはずもなく、この二週間、室内の異変には誰も気付かなかったようです。お隣さんや大家さんですら」
「ふむ……家賃や光熱費は銀行引き落としだったね。集金係が訪れることも無いから更に気付かず……か」
「はい。大家さんの話では、郵便受けにDMやらチラシやらが何週間分も溜まるのはいつものことだったらしく、まさか住人がこんなことになってるとは夢にも思わなかったようです。この二週間でなにかしらの業者が訪ねてくることもあったでしょうが、でかでかとドアに貼られた『セールスお断り』のプレートを見れば、まわれ右するしかなかったでしょう」
「……オサムさんの様子を見るよう大家さんに依頼したのはお父さん、だったよね?」
「はい、そうです。お父さんは今まで、数カ月に一度様子を見に来たり、連絡を入れたりしてたそうなんですが、最近になって全然連絡が取れなくなってしまったんだそうです。そこで、大家さんに」
「そう。でもお父さんだけ? お母さんは?」
「はあ、それが……奥様は大分前に亡くなっているようです」
「そう……」
 春日は部屋の中央に敷かれた布団に目を落とした。
「先輩、これって、事件の可能性があるんですか?」
「うん……もしかしたら、だけど……でも、わからない……部屋はチェーンロックまで掛っている密室だから……いや、まてよ……?」
 部屋を見回した春日の脳裏に、ふと、ある考えが浮かんだ。
「秋山君、オサムさんの遺体だけど外傷と呼べるものは注射痕だけと思っていいよね?」
「え? ええ、そうですね。注射痕より目立つ傷があれば気が付くはずですから、それでいいと思います」
 春日は頷くと窓へと向き直った。窓を閉め、クレセントを回して受け金に掛ける。次に手を上に伸ばしてカーテンレールを触った。
「そうか、なるほど! 飴は接着剤の代わりか……!あとは〈アレ〉を使って……うん……だとすればこの犯行、できる……!」
「え、わ、解っちゃったんですか!?」
「うん、あのね……」
 春日の言葉を遮ってメールの着信音が響いた。
「おっといけない。冬木君をほったらかしにしてた……」
 春日はボタンに指を走らせ、冬木にこのまま待機しているよう指示するメールを打ち始めた。
「秋山君、君はオサムさんのお父さんに連絡を取ってくれるかい? そしてこう言うんだ『オサムさんは他殺の可能性が出てきた。〈奴〉を捕まえるか、〈あるもの〉を調べれば事件の真相が判るかもしれない。明日、もう一度部屋を調べてみる』とね。ベタな方法だけど、きっと引っ掛ってくれるでしょう……!」
 そう言うと、携帯をパクンと閉じた。

※部屋を密室にしたトリックとは?

 その夜、闇に紛れた僕達は、自然と化して獲物を待つハンターのように息を殺していた。はやる鼓動は抑えつけようとすればするほど、意に反してビートを刻む。このヒリつくような緊張感は学生の頃参加した、フェンシングの大会以来だろうか……隣を見れば、秋山君が肥料を貰い過ぎたさるすべりみたいな顔で戸口を見詰めている。彼も緊張しているようだ、無理もない……だって彼も人の子だから。つぅー、っと汗が頬を伝う。やばい。オシッコいきたくなってきた。
「うるさいですよ! 何急に一人称形式!? なんですか、さるすべりみたいな顔って!」
 遂に耐えきれなくなって秋山が叫んだ。
「ああいや、中ダルみ気味だと思ったから、ちょっと奇をてらおうかと……」
「そんな奇のてらい方邪道です! 映画のDVDレンタルしてきて、いきなり副音声の解説付きで本編鑑賞するくらい邪道です!」
「しっ、静かに……!」
 そのとき、外の階段を上るカンカンカン、という足音が聞えてきた。二人は口を塞ぎ急いで身を縮める。意識して忍ばせているかのようなその足音は、ゆっくりと、しかし間違いなくこの部屋を目指しているようであった。
 チキチキ。鍵穴に鍵を差し込む音がする……。春日と秋山の鼓動がピークに達する……! カチン、と錠が解かれる音に続いて、ゆっくりとノブが回転した。息を顰めた何者かが部屋に入ってきた……影はすぐには動かなかった。玄関から室内の様子を窺っているようだ。そして小さな明りが点いた。どうやらペンライトのものらしいその細い光を頼りに、影は部屋の中へと踏み込んできた。
「そのまま! 動かないで!」
 春日と秋山は飛び上がるような勢いで立ち上がり、侵入者へライトの強烈な光を浴びせた。侵入者はその眩しさに思わず眼を庇って立ちすくむ。
「オサムさんの……お父さんですね……?」
 秋山が一歩前に出た。
「だだ、誰だ! な、な、な……」
 言動がおかしい。みなりは普通だが、まともな精神状態でないのは一目瞭然だった。眼の奥で狂乱の色が渦巻いている。
「誰だ!」
 わなわなと唇を震わせて同じ言葉を繰り返した。頬はこけ、脂ぎった髪がてらてらと光っている。
「オサムさんを殺害したのは……あなたですね……?」
 春日は静かに語り掛けた。