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推理げえむ 1話~20話

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「それだけPCスキルがあるなら、もう普通に就職した方がいいような……」
「いやでも、そこはほら、彼ニートだから……因みに、彼の座右の銘は『働かなくて済むならどんな苦労も厭わない』だからね」
「ふ、複雑なんですね……」
「そうだろ? お、返信キタ」
 春日と秋山が画面を覗き込んだ。
『オサムが自殺したなんて未だに信じられないんだけど……春日さんがそう言うならそうなんでしょうね……春日さん、わざわざどうもです』
 春日が画面から顔を上げた。
「そうだ、秋山君。この機会に冬木君に自己紹介したまえよ。これ使って」
「はは、そうですね。わかりました」
 秋山は渡された携帯を使って次のようなメールを送信した。
『こんにちは! 春日先輩の後輩で秋山と申します! 刑事やってまっす。よろしくです(笑)』
 返事が届いた。
『いきなり職業の話とか。それは無職のぼくに対する当てつけですか? 自分は刑事という立派な職に就いてますが何か? みたいな?』
「ええっ!? 怒った!?」
 秋山が愕然とした。
「秋山君、話題は選ぼう。彼らの取り扱いには細心の注意を払わないと」
 春日はオウンゴールを決めたチームメイトを見るような眼で秋山を見た。
「ええっ!? これボクが悪いんですか!?」
「ほら、謝って」
「……わ、わかりましたよ……」
『すみません。そんなつもりじゃなかったんです(汗)決して悪気はありません』
『いや別に怒ってませんよ? ただどうなのかなって思っただけで』
『いや本当に。他意はありませんので。すみませんでした』
『怒ってないって言ってるでしょ! それともなんですか? まともに相手するのも面倒だから適当に謝っとけみたいな感じですか!? はいはいメンドくてスミマセンね! はいはい! ぼくなんか死ねばいいんでしょ!? 七輪持ってきて七輪! 今すぐ郵送して!』
「何この冬木って人! はじめましてなのにとことん絡みづらいんですけど!」
「マズイね。完全に頭に血が昇ってる。変なこと考えださなきゃいいけど……」
「うおお、マジっすか!」
 秋山が慌ててメールを打った。
『はやまらないで! 命を軽々しく考えてはいけません! 自殺は駄目です! 絶対に駄目です!』
 すぐに返事がきた。
『別にどうだっていいじゃないですか! あなたには関係の無いことですよ! それともなんですか、ぼくが死ぬことであなたに何か迷惑が掛るんですか? 掛らないでしょう! ぼくなんて生きてたってしょうがないし、生きてたって辛いことばかりで、どうせぼくには乗り越えられやしないんですよ』
『そうやって逃げてばかりじゃ駄目ですよ!』
『嫌なことから逃げだして、何が悪いんだよ!』
『いや、いいですよ! 本当に辛いなら逃げたっていいんです。ただ―リセットした後は、ちゃんとまた、一からやり直して下さい。そしたら今度は、前回よりちょっとでも先に進めるようになっていますから。世の中には、何事からも逃げださないで、どんどん先に進める凄い人達もいますけど、なにもそういう凄い人達と同じじゃなくたっていいんです。ただひたすらシンプルに、〈今の自分に出来ることをする〉それだけでも良いんです。そうやってちょっとずつ、強くなればいいんですよ』
『……はい……よくわかりました……』
『わかってくれましたか!』
 秋山はほっと胸を撫で下ろした。
『……じゃあ一度死んで、転生して、それから人生を一からやり直せばいい、ということですね?』
「ちがうわぁぁぁぁ!」
 秋山が絶叫した。そしてすぐさまメールを打つ。
『だから! 死ぬのは絶対駄目です! いいですか、世の中には、生きたくても生きられなかった人達がいるんです。自殺はこういった人達に対する、命に対する冒涜です!』
 秋山は真剣な顔付で次々とメールを送信した。
『それに自殺は誰かを悲しませるのです。ボクは結婚したことが無いので子供はいませんが、もしボクに子供がいて、その子供が自殺したらもう悲し過ぎます。もしボクが自殺したらボクのお父さんもお母さんも悲しむと思います。だから駄目なんです。じゃあ、悲しむ人がいなかったら自殺してもいいのか、って話になりますけど、やはり駄目で、なぜかと言うと、これから先、悲しんでくれる人といつか出会うはずだからです。だから、その人のためにも自殺してはいけないんです』
『…………ふーん。秋山さんって、春日さんと似たようなことを言うんだね。なんか秋山さんもいい人っぽい印象を受けた』
 秋山がキョトンとしていると、隣で春日がくっくと喉で笑った。
「全く……生意気だろう? 冬木君といい、夏目君といい、最近の若い子ときたら……大人をからかってばかりだ」
「はあ……えっ? あっ、あれ冗談ですか!? なんだよぉ……もう、先輩が変なこと言うから!」
「ごめんごめん、ほんの演出さ」
 春日のニヤニヤした顔を見て秋山は溜息を吐いた。
「あ、じゃあ、冬木君ってそのくらいの歳ってことですね?」
「うん。まあ十代後半だね。正確な歳は聞いてない。一度注文を受けた本を彼の部屋まで届けたことがある。ドアをノックするとね……ドアが少しだけ開いて、その隙間から手がニュー、っと伸びてきてね、本をひったくるとすぐにパタンと閉めちゃった」
 また春日はくっくと笑った。
「その時のほんの一瞬、初めて僕等はお互いの顔を確認したわけさ。なんか普通の、今風の子だったよ。モロその辺にいそうな学生って感じ。痩せてた。後、血色があまり良くなかった。隈なんか作っちゃってさ」
「なるほど、今風ですね。じゃあ知り合ったきっかけがそれですか?」
「いや、違う。それとは別に、全くの偶然だよ。あれはいつだったか……僕がパソコンでネットサーフィンに興じていると、トラフィックの海に漂う、一通の電子メールを見付けたんだ。ウイルスプログラムでもなさそうだし、開いてみるとこんな文章がある。『運命って信じますか? この広大なネットワークの中で、唯一あなたがこのメールを拾ってくれました。ぜひお友達になってくれませんか?』と日本語と英語で書かれていた」
「おおっ! すげぇ! あれですか? 書いた手紙を空ビンに入れて、大海原へ流すアレのデジタル版ですね!?」
「ああ! すごいだろう? それを見た僕はキショイと思ってすぐさまその文書をゴミ箱へドロップしたわけだが」
「ああっ! 返事書いてあげて! 嘘でもいいから書いてあげて!」
「数日後、ふと思い立った僕はゴミ箱からその文書を取り出し、返事を書くことにした」
「ああよかった! なるほど。それがきっかけなんですね」
「ああ。そして、文通が始まった。僕のオネエ演技に騙されているとも知らず、彼は僕のことをすっかり女性だと思い込み、初めて女友達ができたと喜ぶも、実は相手がオッサンだったという真実を知るのは六カ月も経ってからのことだった」
「ヒドイ! 先輩ヒドイ!」
「いやもう………………爆笑」
「最低だ! アンタ最低だ!」