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推理げえむ 1話~20話

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「……この状況で彼女を引き戻せる可能性があるとすれば、あの方法しかないわね……!」
「え、何それ夏目ちゃん! そんな都合の良い方法があるの!?」

※夏目が考えるその方法とは?

「夏目ちゃん、本当にそんな方法があるの!? 教えてあげて! 良ちゃんに教えてあげて!」
「うん……でも……これは人に言われて言うものじゃないし……自分で決めてくれないと……」
「は? 何それ? あ、出てっちゃうよ! 千佳さん出てっちゃうよ!」
 レジで精算を済ませた千佳が扉に手を掛けた。しかし、店を出てゆくことはできなかった。突然猛スピードで追い掛けてきた良に手を掴まれたからだ。
「ま、待ってよ千佳……その……ぼ、ぼ、ぼくと結婚して下さい!」
 千佳が驚きで目を丸くした。そして二人は見詰め合い、みるみると顔を赤くする。今にも鼓動が聞こえてきそうだった。二人は我に返り、店の客達の視線が自分達に集まっていることに気付くと更に顔を真っ赤にし、すぐ近くにあったボックス席に逃げ込み、身をちじこませた。動揺のしすぎで店を他へ移すという発想は浮かばなかったようだ。
「夏目ちゃん、あれが正解?」
 秋山が訊くと、夏目が苦笑まじりに答えた。
「まあ、そうね。ほら、指輪でなく、合鍵を返すってことは、あの二人は結婚どころかまだ婚約もしてないってことよね? それで、千佳さんは良さんが好きだから怒っていたわけでしょう? で、良さんも千佳さんのことが本気で好きならここはプロポーズしかないでしょう」
「なるほどねえ。はてさて、千佳さんの返答やいかに……」
 顔から湯気を立てながら二人はまだ体を小さくしていた。お互い、相手の顔をまともに見ることもできないと見え、俯いたまま黙りこくっている。しかし先に口を開いたのは良の方だった。
「あ、あの……それで……ど、どうかな……?」
「え、あ、うん……ありがと……でも……」
 千佳は答えに窮しているのか言い淀んだ。
「……わ、私その前に、実は謝っておかなきゃならないことがあって……」
「え? 何のこと……?」
 千佳はしばらくその先を切り出せなかった。それでも良は大人しく話の続きを待った。
「じ、実は……ソファーの肘かけに髪の毛置いといたの……私なの……ごめん!」
『……ハ?』
 良と、そのすぐ後ろで聞き耳を立てていた夏目と秋山が固まった。そのまましばし店のオブジェと化していたが、なんとか息を吹き返した良が疑問を口にした。
「え、えーと……な、何でそんなことしたの……?」
「良さん、あなたの気持ちを確かめるためですよ」
 爽やかな笑顔で横合いから口を挟んだのは春日だった。
「いやあ、千佳さん、結構ズルイ女性なのかと誤解してました。申し訳ない。あなたは実に正直な方だ」
「ちょ、ちょっと先輩? 一体どういうことですか?」
 秋山が待ったをかけた。
「要するに、千佳さんはとても女性らしい女性だったということさ」
『いや、全然わからないです』
 秋山と夏目と良が手をぶんぶん振った。困惑した表情の千佳を横目に、春日は話を続けた。
「先の会話からお二人は幼馴染みということでよろしいですね? ですから千佳さんは、良さんが浮気をするような人ではないと分かっていたはずです。しかし謀らずにはいられなかった」
「何故です?」
 良が真剣な眼差しで訊いてきた。
「不安だったんですよ。浮気できるような人ではない。だからといって、自分のことを本気で愛してくれているとは限らない、ってね」
「そんな!」
 声を上げた良を春日は掌で制した。
「だから、あなたを試したんです。浮気の証拠を捏造することによって修羅場を創りだし、出方を窺った。もし真剣な交際を望んでいるのであれば、態度で示すはずだ、とね。しかし、良さんの煮え切らない態度にお芝居であることも忘れ本気でカッカしてきて、終いには呆れて……みたいな感じでしょうか?」
 春日が笑顔を向けると千佳はギョッとなってたじろいだ。
「いやでも、なんでスガッチがそんなことわかるのよ?」
「うん。思い出して欲しいんだけど、良さんは昨日留守電にメッセージを残した相手のことを『親戚』、としか言ってない。なのに千佳さんはその『親戚』が『伯母さん』だと知っていた、それはなぜか……? 答えは、良さんが仕事で留守の間に部屋に入り、偶然にも録音されてゆく音声をリアルタイムで聞いていたからだ、となる」
「あーなるほど!」
 夏目が手を打ち、千佳も驚いて口を開けた。
「……ん? あれ? ちょっと待って。それって別に昨日の内じゃなくてもよくない? 今日良さんの部屋に行ったんでしょ? なら今日隙を見てソファーの肘かけにこっそり髪の毛置いた方が確実じゃないの?」
 夏目のその疑問にも春日が答えた。
「それが、千佳さんが試したかったもう一つのことだよ」
「もう一つの……?」
 良が首を傾げる。
「ええ……。昨日仕掛けた髪の毛が今日も残っているということはですよ? ……良さん、あなた、千佳さんを、女性を部屋に招いておきながら、掃除を一切行いませんでしたね?」
「あっ……!」
 良が凍りついた。
「親しき仲にも礼儀あり。付き合いが長ければ長いほどその辺はなあなあになってしまうものですけど、相手を思いやり、僅かな手間を惜しまず部屋を綺麗にし、気持ち良く迎え入れる。千佳さんはそんな、普通のことがして欲しかったんですよ……」
「………………千佳……ごめんよ……! 千佳ごめん……!」
 良が顔をくしゃくしゃにして頭を下げた。
「あ、いい、いいから!」
 千佳は慌てて手を振った。そして二人はまた俯いた。
「……で、さ……私、こんなカマとか掛けちゃうヤな女なんだけど―」
「結婚しよう!」
 良が喰い気味で再度求婚した。
「あ……はい……しましょう」
 その迫力に押し切られて千佳は頷いた。
「はいはい……ごちそうさま」
 夏目は気恥ずかしそうに頬を掻いた。
「ねえ、良? ハネムーンはどこにする?」
「そうだなぁ。北海道で岩盤浴なんてどうだい?」
「ええ〜? 怖ーい。岩盤なんて浴びたらお肌がアザだらけになっちゃうよう」
「はっはっは千佳。読んで字の如くじゃないぞ? かわいいなぁ。よし決めた! 子供作ろう! 九人ぐらい!」
「ええ。私産むわ! ポンプのように!」
「千佳……」
「良……」
 と言って、春日と秋山が抱き合った。
『もういいわ!』
 良と千佳の息がピタリと合った。
 
 
 
   第十二話 毒薬注射自殺の謎

『オウ、バッスメル!』
 鼻の奥まで侵入してきた腐敗臭に春日と秋山が悲鳴を上げた。
 臭いの元となった腐乱死体は既に部屋から運び出されているというのに、胃袋がしぼみ、中身が込み上げてきそうになるその臭いは、こびりつき、いまだ室内を漂っていた。
 あるアパートの一室で遺体が発見されてから二日が経過していた。二人は今その部屋に立っている。
 部屋の中央に敷かれた布団には、遺体からにじみ出た腐敗液が濁った色の染みをつくっていた。そして布団の周りを見れば、脱ぎっぱなしの衣服や乱雑に積まれたマンガ雑誌やゲームソフト、またはAV機器のコード類で足の踏み場も無い。窓からは朝日が差し込んでいるというのに、このすがすがしく無さはどうだ。