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推理げえむ 1話~20話

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「ぼくが本気出したら凄いよ? 多分パワーとか三倍に跳ね上がるよ!?」
「ふっ、アンタごときがこの私に勝負を挑むというの? ……ふっふっふ……よかろう……貴様を手始めにこの大地を地獄の業火で焼き尽くし、いずれ世界全てを焦土と化してくれるわ!」
「そんなことはさせない! この命に代えても、世界の平和はぼくが守る!」
「ふはははははっ! 相手になってやろう。さあ、全力でかかってくるがいい!」
 まばゆい光に包まれた秋山のHPとMPが全回復した。
「ご親切にどうも! あとできたら、死んだ仲間も生き返らせてくれますかぁぁ!」
「うるさいわよ! 何なのよアンタ達さっきから! 何その世界観!?」
 千佳が声を張り上げた。
「本当に何なんですかあなた達は? 急に出てきて」
 良も二人に抗議の眼を向けた。そこに春日が割って入る。
「まあまあ、別に怪しい者じゃありません。どうでしょう、差し支え無ければ喧嘩の理由を聞かせて頂けませんか?」
「支えるわ。つっかえまくるわ。何でアンタにそんなこと言わなきゃなんないのよ」
「いやいや、先ずは状況を整理し、冷静に話合いを進めてこそ、解決への糸口が見付かるというものです。あくまで僕達はそのお手伝いをしたいと」
「……何かアンタ達、ヒマだから来ましたー、みたいな感じがビシビシ伝わってくんだけど……」
「気の所為です。さは、安心してお話下さい。これ以上若い二人が言い争い、お互いを傷付け合うのを見るのは辛いですから……」
「言い争ってたのは私達じゃないけどね……。フン……じゃあ、聞いて貰おうじゃないの」
 千佳が良を睨んだ。
「今日コイツの部屋に遊びに行く約束してたわけ。で、行ったわけ。そしたら私のより長い髪の毛がソファーの肘かけに付いてたのよ!」
 千佳は肩まで伸びた自分の髪に触った。
「なるほど。千佳さんより短い髪が落ちてたなら、成長途中で抜けた千佳さんの髪とも、良さん自身の髪とも考えられるが、逆は無い。長い髪が落ちていたならそれは間違いなく別人の髪ね……」
 夏目が眼を細めた。
「そ、そんな! 違います! 確かに長い髪の毛が付いてましたけど! ぼくは全く知らないんです!」
 良が慌てて首を振った。
「良さん。参考までに、昨日から今日にかけての行動をお聞かせ願えますか?」
 秋山が訪ねた。
「え? ええ? き、昨日ですか? し、仕事ですよ。それで……夕方帰ったら親戚から留守電に『近々遊びに行く』って伝言入ってたんで、折り返したら話が弾んで夜に。それから寝て……で、今日は休みで、千佳が遊びに来て……。ち、千佳、本当だよ? 昨夜は親戚と電話してただけなんだ」
「ふうん……」
 千佳は素っ気無く鼻を鳴らした。
「なるほど。では昨晩、ロングヘアーの女性とソファーでニャンニャン行為に及んだという事実は無いと仰るんですね?」
 秋山が刑事の顔で訊ねた。
「ええ! 断じてやってません!」
 そこで、それまで静かに耳を傾けていた春日が口を開いた。
「ふむ……ところで良さん、最近、セーターやフリースの類を身に付けたことはありませんか?」
「は……?」
 質問の意図を測りかねて良が訊き返した。
「セーターかフリース。良さん、着てませんでした?」
 今度は千佳に訊いた。
「……確かこの前着てたと思うけど、それが何?」
 春日は満足そうに頷くと、手をテーブルに付き、まるで教壇に立つ教師のような仕草で語り始めた。
「こんな話を知っていますか? 人間の髪の毛は一日に五十本から百本抜けると言われています。結構な数です。そして、髪の毛というものは思いのほか頭の油で汚れています。そのため、抜け落ちた後、至る所にペタペタ貼り付くわけですね。今あなた達が座っている椅子の背もたれ然り、乗り物の座席然り。そして、セーターやフリース……もうお気付きでしょうが、この起毛した表面は抜け落ちた毛髪をよく巻き込むのです! そうやって我々は日々他人の髪の毛を自宅にテイクアウトするわけです。例えば……」
 春日はテーブルに顔を近付けた。するとテーブルの隅にちょうど一本髪の毛が落ちていたので、指で摘み上げた。
「ほうらね、こんな風に。この場合はテーブルに肘を付いた時なんかにお持ち帰りとなりますね」
 春日は指先の髪の毛をふっ、と息で飛ばした。
「このようにして、良さんは先日どこからか髪の長い女性の毛髪を拾い帰ってしまったのでしょう。また、自分の部屋に全く覚えの無い、長い髪の毛が落ちていることに驚き、部屋に女の霊が出るなどと早トチリする怖がり屋さんもいますが、全て着ていた服が原因です。まあ所詮怪奇なんて全部説明の付く現象なんですよ。ははは」
 笑う春日の横で夏目がポツリと言った。
「なるほど。そうやって尤もらしい理屈をこじつけることによって、全ての怪奇から眼を逸らし続けてきたのね……。先程子犬のように震えてらっしゃった怖がり屋さん?」
「ちょ、ちょっと止めてくんない? 違うからね? アレはアレだから……み、右手に仕込まれた超振動破砕装置」
「そ、そうだよ千佳! この人の言う通りだよ! あれはどこかでくっ付いた知らない人の髪の毛なんだよ!」
 後方支援を得た良が説得に取り掛った。千佳は眉を顰めながらも話に耳を傾けている。
 春日達は一旦距離を置き、それを見守る。
「先輩。やりましたね! あの二人、上手く仲直りできるんじゃないですか? しかし、本当によく落ちてるもんなんですねぇ、髪の毛って」
「ああいや、実はあれ、言葉に信憑性を出すため、テーブルに手を付くフリしてこっそり置いた僕の髪の毛」
「うお!? マジすか!」
「……でもスガッチ。毛髪の巻き込みは着ている服の仕業ということで別にいいけど、実はやっぱり浮気してて、浮気相手の部屋からテイクアウトしてる場合だってあるわけで、完全に潔白を証明するには至らないんじゃない?」
 夏目が、千佳に聞かれたらまた話が拗れそうな言葉を吐いた。
「まあね、でもさ、良さんってここから見て、二股掛けられる程器用そうに見える?」
「あ、見えないわね」
 夏目は即座に首を振った。
「でしょ? だから僕も助け船を出してあげようかなーなんて思ったわけ」
 ぱちん、と音がした。春日達がそちらに視線を向けると、千佳がテーブルに手を付いていた。手を退けるとそこに一本の鍵があった。
「え? 何……千佳?」
「鍵……返すわ……」
「かえ……? え……? ええ!? ちょ、ちょっと待って! 髪の毛のことなら―」
「ううん、髪の毛のことはもういい……でも……ごめん……もうお終いにしよ……」
「そ、そんな、何で急に? いやだよ、訳がわからないよ!」
「……アンタはもう……ほら、伯母さんが遊びに来るんなら部屋の掃除くらいやっときなさいよ、全く……じゃあね……」
 千佳は呆れたように小さく笑うと立ち上がり、テーブルを離れた。
「ち、千佳……何で……何で? ぼ、ぼくは千佳じゃないと……」
 良は半端に手を伸ばしたままで茫然と立ち尽くしている。
「うわ。まずいですよ。なんでか一気にさよならムードになってますよ。どうします、先輩!?」
「…………」
 黙ったままの春日の代わりに、夏目が口を開いた。