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推理げえむ 1話~20話

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「その女性、その日は残業で遅くなって、帰りの電車を降りた頃にはもう深夜だったんだって。それで、駅から家までは少し歩くんだけど、人通りの少ない路地を通らなきゃいけないのね。車で入り込んだら後悔しそうな狭ーい路地……。しかも真っ直ぐ伸びるその道が超薄暗いの、彼女はうわヤバイって思って、一気に通り抜けるつもりで早足で歩いたの。……カツカツカツって自分のヒールの音がやけに響く感じ……いつもは明るい内に通る、通り慣れたはずの道が全く別の道を歩いているような気がしたって……。そしてしばらく歩いていくと、ポツンと街灯が立ってるんだけど、そのぼうっとした明かりの下に……黒いマフラーが落ちてたんだって……。季節は冬、マフラー自体は珍しくも何ともない。酔っ払いの落し物か、はたまた風に飛ばされた洗濯物か。でも、どちらにしたって関係無いから彼女は素通りしたの。そして、しばらく歩くとまた街灯が立っていたんだけど……アスファルトの上に、またあるのよ、黒いマフラーが……。彼女は少し驚いて、今度は立ち止ったの。今、目の前にある、地面の上でへびのようにのたくっている、長くて真っ黒なマフラーは、さっき見た物と同じ物のように見える、でもそんなことあるはず無いわよね……? 後ろを振り返るとさっき通り過ぎた街灯の明かりが遠くに見えるけど、地面の上まではもう見えない。かといって、戻って確かめる気はさらさら無い。気にはなるけど、彼女はマフラーを避けるようにして、また歩き出したの……。しばらく歩くと、また次の街灯が立っていて……もしかしたら、っていう予感が彼女にはあったわ……そして、街灯の下……。でも、そこには何も無かったわ。見回したけど、何も無し。拍子抜けしちゃった彼女は、別に誰かに見られていた訳でも無いのに少し緊張していた自分が恥ずかしくなって、そそくさとその場を後にしたの。そうやって、漸く帰り着くことができた彼女は、玄関を上がり、明かりを点けて一息付いた。見れば、留守中に電話が有ったみたい。メッセージ有りのランプがチカチカチカ……彼女はボタンを押してメッセージを再生させた……するとそれは友人からの飲みの誘いだったわ。彼女は友人の声に耳を傾けながら洗面所に向かい、明りを点けた瞬間、悲鳴を上げた。なぜって、洗面台の鏡に映った自分の首に、黒いマフラーがぐるぐると巻き付いていたから……! 彼女はすぐにマフラーを引き剥がそうとしたわ。でもマフラーはブチブチとちょっとずつ千切れるばかりで一気に引き剥がすことがどうしてもできないの。そして彼女は掌に纏わり付いた糸を見て気付いたの、これは髪の毛だって。彼女はもうバニックになって、泣きながら手を動かしたわ。そして、彼女は肩の後ろに何かがあることに気が付き、身体を凍りつかせた……。彼女は小さく震えながらゆっくりと鏡に背を向け……そおっと、肩越しに鏡を見たの。そしたら、肩に女の首がぶら下がっていて、血走った眼でじっとこちらを見ていたのよ!」
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
 と秋山が悲鳴を上げた。
「あ、アッキー後ろ……!」
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
「あの、申し訳ございませんがお客様」
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
「イヤ、ぎゃああ、じゃなくて。他のお客様のご迷惑になりますので」
 蝶ネクタイのウェイターが困った表情で告げた。
「あの……そういう話はもっとふさわしい時間と場所で、部屋を暗くして、ろうそくとか立ててやって頂くのがよろしいかと……」
 ウェイターが続けて言った。
 ある日の午後、とあるレストランでのことだった。外はすがすがしく晴れ渡っており、日当たりの良い店内は明るく、ちらほらいる客がこちらを見ていた。
「ていうかお客様、このシチュエーションでそれだけ怖がれるって、どんだけ想像力豊かなんですか」
「すすす、すみません! もう騒ぎませんので! すみません。すみません」
 秋山はウェイターに頭を下げると、周りのテーブルにもペコペコと頭を下げた。
「全く秋山君。ビビリなのも大概にしたまえよ君ィ」
 春日がコーヒーカップを手に言った。
「スガッチ……カップがカタカタいってるみたいだけど?」
「ちょ、ちょっと止めてよ夏目君。これはアレだよ……え、栄養失調」
「はぁ……オジサン二人がこの程度の怪談でビビリ倒すなんて……てゆうか、本物の遺体山ほど見てるでしょうがあなた達」
「い、いやあ。遺体とオバケは違うもの。ね、ねえ先輩」
「そうだね。違うね。全然違うね。でも僕の場合別に怖がってたとかそんなんじゃ無いからね? これはほらアレ……は、発情期」
「はいはい」
「そ、それより夏目ちゃん、その女性、その後どうなったの?」
「何かね、そのまま気を失ったみたい。目が覚めたら朝だったって。それからは特に変なのが出たりすることは無いみたい。…………あれ? 今日はあたしが取材するつもりだったのに、なんでこんな話してるんだっけ。何かあたしばっかり喋ってない?」
 首を傾げた夏目の手にはICレコーダーが握られていた。休日につき、夏目の本日の装いは制服ではなく、藍が鮮やかなデニムのワンピースにキャメルカラーのミドルブーツとなっている。
「確かに……何でだっけ……」
 春日と秋山も首を傾げた。
「さあ、わかんないです……でも、大体いつもこんな感じのような気が……」
「ホントいい加減にしなさいよ? いつまでこうしてるつもり? 話せば分かるって言うからこんな所まで来たんでしょ?」
「だ、だからそう怒らないで。これは誤解なんだよ。そ、そう何かの間違いなんだ」
 春日達がその声に目を向ければ、離れた席で若い女が向かいに座った男を睨み付けていた。
「何が誤解よ? アンタの部屋に私のじゃない髪が落ちてたってことは、だから、そういうことなんでしょう? さぞかしおモテになるようで! ねえ、良?」
 女の眼が更に吊り上がった。
「そ……そんな。ち、千佳。だからあの髪の毛は本当に何が何だか解らないんだよぉ」
 良と呼ばれた男が今にも泣かされそうだった。
「さっきから知らない解らないばっかり。いつまでシラを切るつもり?」
「シ、シラなんて……」
「じゃあさっさと説明してごらんなさいよ! オドオドオドオドして、アンタ子供の時からそうよ!」
「ご、ごめんよ千佳」
「ああもう! アンタ見てるとほんとイライラするわ! シャキッとしなさいシャキッと!」
 と千佳の後ろで夏目が咆えた。
「へへん、最近はちょっとぐらい草食入ってる方が意外とモテるんですぅぅ」
 と良の後ろで秋山が言い返した。
「何開き直ってんのよ! 男の意地とかプライドとか無いの!?」
 と夏目が腰に手を当てて仁王立ち。
「そっちこそ! 少しは女らしくおしとやかにできないもんかね!? 髪の毛ぐらいでぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあやかましいな!」
 と秋山が大仰に溜息を吐いた。
「アンタ、私にそんな口きいてタダで済むと思ってんの!?」
「ふん! もう上から目線の物言いにはウンザリさ! これからぼくは断固戦う!」
「戦うですって? ふっ、笑わせてくれるわ。アンタみたいなヘタレに何ができるって言うの?」