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推理げえむ 1話~20話

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「大事なのはここからだ。舟木さんはいち早く現場に到着し、その現場を担当する刑事となり、遺体の傍に落ちている鍵と隠し持っている鍵とをすり替える必要がある。まず、自分はこの近くにある行き付けのお店でスタンバイしておく。そして、向かいのビルの会社員に遺体をわざと発見させ、通報させる。十二時半といえばお昼休み時、舟木さんはその会社員が決まってあの時間、あの場所で煙草を吸うのを知っていたんだろう。だから、見付け易いようにカーテンを全開にしたんだ。狙い通り救急車が呼ばれ、舟木さんは偶然居合わせた体で現場を訪れた。そしてここでこっそり鍵をすり替える。すり替えのために使った小道具がハンカチだ。折り畳んだハンカチには最初から横嶺さんの部屋の鍵が隠されていて、遺体の傍にあった鍵をハンカチに仕舞うフリをしてすり替えたんだ」
「待ってって言ってるでしょう!」
 秋山が春日に掴みかかった。春日の背後にあった椅子が派手な音を立てて倒れた。
「待って……待って下さいよ……」
 声が震えている。
「秋山君……気持ちはわかるけど……」
「ちょっと先輩! なんなんですか、思わせ振りにアルミ、とか強調しちゃって! あんな風に言われたら何かトリックの方にアルミが使われたと思うに決まってるじゃないですか! ボクメチャクチャカッコ悪いじゃないですか!」
「え! そこで怒ってんの!?」
「何がですか!」
「あ、いや……君と同じ、刑事の舟木さんが事件の犯人なんだよ? もっとこう……ショックとか……」
「はぁ? ああ、まあ、はい。そうですね、そりゃショックですよ。すげえショックー。やべ、涙出てきた」
「うわぁ。冷めてるぅぅ」
「いや、別に。舟木さんとそんなに親しかったわけじゃないしー。今日何でメシ誘われたか不思議なくらいだったしー。奢るって言われたから付いて行った、みたいな?」
「そ、そうなんだ……」
「で? 先輩。証拠はあるんでしょうね?」
「あ……はい……君が科捜研に分析を依頼した鍵……です……」
「あれがどうかしましたか?」
「うん。分析の結果、人間の指の油だけが検出されたと言ったね」
「それが舟木さんの指紋なんですか?」
「いや、それは横嶺さんの指紋で間違い無いよ」
「じゃあ、別におかしくないじゃないですか」
「いやいや。指の油の他に、検出されなければおかしいものがあるんだよ」
「おかしいもの?」
「鑑識の人が指紋採取の際に使用する、アルミ粉と松ヤニを混合した粉末だよ。序盤に出てきた描写を思い出してほしい。舟木さんが『窓枠をハケでなぞって指紋採取を行っていた鑑識員に問い掛けた』とある。現在、指紋採取の方法は幾つかあるけど、このことから皆さんには、アルミ粉末を使用する指紋採取法だったと判断して頂きたかった」
「先輩、一体誰に言ってるんですか?」
「ああいや、気にしないで。というわけで、アルミの粉末成分が検出されなかったこと自体が、鍵のすり替えが行われたという証拠なんだよ。アルミの粉末を付け忘れたこと、また、事件の現場に現れる刑事はベテランと若手のコンビ、というお約束を遵守したのが舟木さんの敗因だね。一人で現場に来てたら成功の確率が上がったかもしれない。ひょんなことから君が自殺に疑問を持ってしまったわけだからね」
「なるほど。まあアルミがアレなのは分かりましたけど。でもなぁ……今回判断材料も少なかったしぃ、アンフェアだなぁ……」
 秋山は明後日を向くと、『卑怯者』と呟いた。
「ちょ! 今回はこういうシナリオなんだから仕方ないじゃないか! 僕が文句を言われる筋合いは無いよ!」
「ふう……まあいいですよ。ところで、ドアを破った形跡や横嶺さんが抵抗した様子が見られないのは、舟木さんを部屋に招き入れたのは横嶺さん本人、即ち、二人は顔見知りの間柄であった、ということになるんでしょうか?」
「うん。そうだね。まあ、銃を突きつけられて抵抗も何もないけど。二人が知り合いで、何らかのトラブルがあったのは確かだろう。……じゃあ詳しくは本人に聞いてみようか…………教えてくれますか? どこかで聞いてるんでしょう? 舟木さん」
「え……? 聞いてるですって?」
「盗聴器だよ。用意周到な舟木さんのことだ、どこかに盗聴器を仕掛けて君の様子を窺っていたはずさ……」
「そうですか……それならボクから一言言わせて貰いましょうかね。……舟木さん。どんな事情があったか知りませんけど、これシャレになんないッスよ……ボク等刑事が法律守らなかったら、一体誰が法律なんて守りますか!? シャレになんないですよ舟木さん……お願いですから……自首して下さい……」
 秋山の呼び掛けが静かに響いた。

 結局のところ、部屋に盗聴器は仕掛けられていなかった。
 その後、舟木は白○屋で一人祝杯を挙げているところを同僚の刑事達によって逮捕された。
 取り調べで、舟木は警察が押収した薬物を横領し、横嶺に捌かせていたことが分かった。最初は軽い気持ちで小金を稼いでいた舟木であったが次第に怖くなり、押収品に手を出すのを止める決意をするが横嶺はそれを許さず、そのことをネタに脅迫してきたため、これが殺害の動機に繋がった。
 アルミ粉末の付着した鍵は舟木の所持品から発見され、殺害に使用された銃は警察の押収品から持ち出された物だということもわかった。



   第十一話 切札

「これは、あたしの従姉の友達が体験した話なんだけど……」
 夏目は静かに、ゆっくりと話始めた。