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推理げえむ 1話~20話

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「頼むから訴えられろ。……とにかく! 消去法でいくと、次に怪しいのは玄関のマスターキーを持つという大家ということになるけど」
「はい。その大家さんなんですが午前十時頃はマンションの住人の依頼で屋上にある衛星放送用のパラボラアンテナの角度を調整してたそうです。その住人にも確認を取りました。住人が部屋で実際にテレビを点けて映像を確認し、大家さんとは携帯で会話をしつつ綺麗に映る位置を調節したんだそうです。映ったり映らなくなったりの繰り返しで、しかも屋上は風が強くて大家さんの声が聞き取り難く、かなり時間が掛ったもようです」
「そう……屋上で仕事してたのなら犯行は無理か……」
 ガラス戸のところまで来ると、そこからは正面にビルが見えるばかりだった。春日は横嶺と同じ体勢になるために、その場に寝っ転がってみた。そこから見上げると向かいのビルの屋上の手摺がよく見える。
「ふーむ……」
 春日は起き上がるとカーテンを片方ずつ閉じてみた。よく観察していくと、カーテンに小さな赤い染みが付いていた。
「飛沫血痕だ」
「え? マジですか!」
「うん。……と、いうことは横嶺さんが死亡したとき、カーテンは閉じていたわけだ。そして、カーテンが独りでに開くわけ無いから……」
「犯人が開けたんですね……やはり殺人事件なんだ……!」
「……横嶺さん殺害時、カーテンは閉じられていた……そして犯人は立ち去る際、カーテンを開け放った……」
「何のために?」
「わからない。普通カーテンを閉めたまま隠そうとしそうだけど……犯行時刻は午前十時……遺体発見が午後十二時半、救急隊の到着が十二時四十分頃だっけ?」
「はい。それでボクと舟木さんが到着したのも四十分をちょっと過ぎたくらいですね」
「随分早いね」
「はい。今日署の先輩の舟木さんにごはん誘われましてね。偶々この近くにある舟木さん行きつけの店で食べてたんですよ。それで、救急車がサイレン鳴らしてたんで、様子を見に」
「なるほど」
「関係者に事情を聞いた後、このマンションの錠前取り付け作業を請け負った鍵業者の作業員も呼んで話を訊いたんですが、ピッキングはまず無理だろうとのことでした。鍵山の代わりにポコポコと窪みがある鍵なんですけど、知ってますか?」
「ああ、多角ピンタンブラー方式のディンプル(窪み)キーだね」
「そうそう、それです。鍵のサンプルを幾つか見せて貰いました。その鍵業者が扱う鍵はデザインが全て統一されていまして、横嶺さんの部屋の鍵もサンプルの鍵も皆同じ物のように見えて、ボクには見分けがつかなかったんですが、そこはやはり鍵ですから、当然窪みの位置が一つ一つ違うそうです。偽造するのも難しい鍵らしいんですけど、念のため、科捜研に持って行って即行で調べて貰ったところ、人間の指の油しか検出出来ず、これが偽造された鍵の可能性も無いだろうとのことでした……。てなわけで、鍵が偽造できないなら、自殺で間違い無いだろうって舟木さんは言ってたんですけど……あ、そういえば、鍵業者の作業員が舟木さんに『先日はどうも』なんて挨拶してたな……知り合いだったのかな?」
「ふーん……。じゃあ銃の方は? 出所から何か判らない?」
「残念ながら、シリアルナンバーが削り取られていました。時間が掛りそうです」
「そう。単純に密輸拳銃なのか……出所が割れると簡単に脚が付く銃なのか……うーん……鍵の偽造が無理となるとやっぱりマスターキーを持ってる大家さんが怪しくなってくるけど……ちゃんとアリバイがあるからなぁ」
「はい。それなんですが、衛星放送の映りが悪いのはかなり以前からのことで、今日作業を行うことは前々から住人と相談して決めてあったそうです。大家さんなんか長期戦を覚悟で銀紙に包んだサンドイッチまで持参して、今日に臨んだそうですよ」
「パ、パラボラアンテナの調整のためにそこまで……。……サンドイッチを銀紙で、か……銀紙……アルミ箔……」
 春日が手を打った。
「あ! アルミか! そうか、わかったよ秋山君! アルミ! アルミだよ!」

※事件の犯人と犯行の手口とは?

「ア、アルミ? アルミがどうしたっていうんですか?」
「うん、あのね―」
 春日が説明を始める前に秋山が手を打った。
「あ、そうか! ひらめいた! わかりましたよ、アルミですよね!? 何かで見たことあります! アルミは電波を遮断するんですよね!? 携帯電話をアルミホイルで包んだらその携帯電話には電波が届かなくなるとかやってました! 大家さんはパラボラアンテナの、お皿の形した反射鏡の正面におっ立ってるアンテナ(放射器)にアルミホイルを被せて、片側だけテープで固定したんですよ!」
「うんうん、それでそれで?」
「そして! 部屋でテレビを点けて映像を確認している住人とは携帯で会話しながら移動し、マスターキーを使って横嶺さんの部屋に侵入し、中にいた横嶺さんを銃で殺害したんです! すなわち、パラボラアンテナは最初からベストポジションに調節されていて全く動いてなかった! そして、風でアルミホイルがパカパカと動いて電波を防いだり防がなかったりしたから映像が映ったり映らなかったりして、さもそこに大家さんがいるかのように見せ掛けることが出来たって訳ですよ! そうですね!?」
「ちがう」
「ちきしょーーーーーー!!!」
 秋山はガッデムした。
「大家さんの声は風で聞き取り難かったんだよね?その風はどこから用意するの? まあいいよ、用意出来たとしよう。住人と話しながら、下の階に移動している間に誰かに見られたり話声を聞かれてしまう恐れがあるよね? まあ、運よく聞かれなかったとしよう。なによりも、もし君が考えた通りのアリバイ工作だったなら、トリックのキモであるアルミホイルを持っていたことを人に言うわけないじゃないか。絶対に内緒にするはずだよ。大家さんは犯人じゃないよ」
「じゃあ犯人は誰なんですか!?」
「この犯行を実行出来る人物が一人だけいるんだ」
「だから誰なんです!?」
「君の上司、舟木さんだよ」
「なっ……!」
 秋山が凍りつく。春日は構わず話を続けた。
「鍵業者の作業員が舟木さんに挨拶したと言ったね。錠前取り付け業者の作業員と面識があるということは、舟木さんはごく最近錠前の取り付け作業を依頼し、くだんの鍵、デザインの統一されたディンプルキーを手に入れている可能性が高い。まず、舟木さんは今日の午前十時以前に横嶺さんの部屋を訪れた。そしてカーテンを閉め、横嶺さんを銃で脅し、ガラス戸の前に立たせた後、射殺した……。そのとき、横嶺さんが倒れた拍子にカーテンに血が跳ねたんだ。そして、舟木さんは自分で用意した鍵に横嶺さんの指紋を付け、遺体の傍に置いた。つまり、遺体の傍に落ちていた鍵は横嶺さんの部屋の鍵ではなく、舟木さんの家の鍵だったんだ。そして銃の弾を込め直し、横嶺さんに握らせ、パテか粘土が詰まった缶でも撃って弾丸を回収する。これで横嶺さんの袖からは硝煙反応が出る。その後は向かいのビルの屋上にまだ誰もいないことを確認してからカーテンを全開にする。部屋を出て横嶺さんの鍵を使って施錠し、鍵は所持したまま、舟木さんはその場を立ち去った」
「ま……待って下さい……」