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推理げえむ 1話~20話

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 遺体の第一発見者は一人の会社員だった。横嶺が住むマンションの向かいには道路を挟んでビルが建っており、そこで働く会社員が昼休み、いつものように屋上で煙草を吹かしていたところ、マンションの一室で床に倒れ、ぴくりとも動かない男を発見したというわけだ。時間は午後十二時三十分。
 その会社員が一一九番通報し、駆けつけた救急隊が大家と共に部屋に入るが横嶺は既に死亡していたため、救急隊は『緊急』を解除、警察の出番となった。
 横嶺は三十八口径のリボルバーを右手に握り、ベランダへと通じるガラス戸の付近に倒れていた。カーペットに染み込んだ血は完全に乾いており、遺体の傍には鍵が落ちていた。
 中年刑事が鍵を指差して、窓枠をハケでなぞって指紋採取を行っていた鑑識員に問い掛けた。
「これもう指紋採ってあんの? ああそう。鍵は室内から発見、と……」
 中年刑事は上着から折り畳んだハンカチ取り出すと、それに、落ちていた鍵を丁寧に挟んだ。
「ああ、舟木さん、ビニール、ビニールに入れた方がいいですよ。すみません、ビニールあります?」
 秋山は鑑識員から受け取ったビニール袋を舟木に渡した。
「ああ、悪いな」
 舟木はハンカチから鍵を抜き取るとビニール袋に入れようとして手を止めた。
「違うか。まずこの鍵がこの部屋の鍵で間違い無いか確認するのが先か」
「そうですね」
「秋山、頼む」
「了解です」
 舟木が鍵を手渡した。秋山は部屋の外に出ると鍵を鍵穴に差し込み、回した。カチャリという音と共に扉が施錠された。
「間違いなくこの部屋の鍵です」
 戻って来た秋山は鍵を舟木に返した。
「おう。……こりゃ自殺で間違いなさそうだな」

 その日の夕方、他の捜査員達が引き上げ、秋山だけが残った横嶺の部屋に春日が現れた。
「いやー、降られた降られた。靴もビショビショだー」
 春日は玄関先で傘を振り水滴を切った。
「お疲れ様です。こんな日にすみません」
 春日は傘を持ったまま部屋へ上がると、リビングをスタスタ横切り、ベランダへと通じるガラス戸の前に立った。カーテンは開け放たれ、カーテンレールの端に束ねられている。
「あー秋山君、悪いけど帰りは送ってね」
 外を見ながら傘のボタンを留める。
「ああはい、わかり―」
「そこだぁっ!」
 春日はフェンシングの構えから、傍にあったカーテンの束に鋭い突きを繰り出した。傘の先が深く食い込む。春日はすぐさまカーテンの裏を鋭い眼つきで確認するがそこには誰も隠れていなかった。くるりと振り返ると、次は反対側で同じように束ねられたカーテンの方へとスタスタ歩いて行く。しかし今度は何もせず通り過ぎた。
「と、見せかけてドーン!」
 振り向きざま、ボンナバン、アロンジェブラが決まった。これではひとたまりもない。しかし、またもやカーテンの裏には誰もいなかった。
「あの……先輩……説明お願いします」
「何っ!? 説明が必要かねっ!?」
「要ります。超要ります」
「先程電話で君から受けた説明より抜粋すると、横嶺さんの死亡推定時刻は午前十時。銃口を肌に密着させて発砲したため、マズルファイアによる火傷がこめかみにあり、銃のシリンダーに入っていたのは使用済み薬莢一発だけ。そして服の袖からは硝煙反応。外傷はこめかみのみで争った形跡も無し。鍵は室内で発見され横嶺さん本人の指紋が付着していた。遺体発見当時、窓とドアは施錠されており完全な密室状態。他殺と仮定すると部屋からの脱出は不可能。比較的犯行が可能なのはマスターキーを持つ大家であるが、大家には完璧なアリバイがあった。どう見ても自殺と考えるのが普通だが、君の勘がこれは絶対殺人事件だと告げている、と……」
「はい……」
「君の勘を信じるとすれば答えは唯一つ…………犯人はどうにかしてこの密室から脱出したのではなく、いまだこの部屋のどこかに潜んでいるってことさ!」
「そ、そうかっ!!!」
 春日と秋山は素早く背中合わせになると身構えた。秋山が懐に手を入れニューナンブを抜いた。ガチリ、と音をさせて撃鉄を起こす。
「着装週間なのが幸いでした……先輩! 援護は任せて下さい!」
「うん! シュッシュッ! シュッシュッ!」
 春日が上段突きと下段突きを素早く素振りした。
「秋山君! 油断しないで! 敵は正面に注意を向けさせておいて、背後から攻撃してくるよ! 常に死角をカバーし合うんだ! それが、CQB(クロース・クォーター・バトル)!」
 二人がばばっと動いてお互いの位置を交換し、また背中を預け合った。
「シュッシュッ! シュッシュッ!」
「先輩っ!」
 秋山が隣へ通じるドアを指差す。春日は頷き、二人は慎重に辺りに気を配りつつ、壁を伝うようにしてドアに近―
「ドアの奥に居ると見せかけて実は床下に潜む! それがCQB!」
 春日が勢いよくカーペットを捲り、秋山がそこへ銃を構えた。ただのフローリングだった。
「ふう……じゃあ、秋山君……用意はいいかい?」
 遂に二人はドアの前まで辿り着き、両側の壁に張り付くと、呼吸を整える。
「はい…………その前に先輩……ボクにもしものことがあったら……代わりに金魚にエサをあげて貰えますか……」
「秋山君。わざわざフラグを立てるような発言するんじゃない。ていうか君、金魚飼ってないし」
 二人は親指を立てて頷き合った。
 気を取り直し、秋山が掌を上着で拭った後、銃を握り直した。そして春日がドアノブに手を掛け、回し、勢いよく押し開ける。流れるように春日と秋山が体を入れ替え、秋山が部屋の奥へと銃を突き出し叫ぶ。
「警察だっ! 撃ち殺すぞっ!」
 しかし、寝室に人影は無かった。二人が顔を見合わせ視線だけで会話する。その後、二人は三時間掛けトイレやバスで同じようなことを繰り返した。
「ふーむ……隠れられそうなところは全て当たったが犯人の姿は無し、か…………自殺じゃね?」
「待って下さいよ! 根拠があるんです! これから自殺しようって人間がデリバリーなんか頼むと思いますか?」
「デリバリー? なるほど……確かにそれは妙だな……因みに何頼んでたの?」
「妹という設定で二十代前半の娘が来てました」
「ああ、そっちのデリバリーね……妹設定か……まさか君、買ってないよね?」
「買ってませんよ! 持ち合わせも有りませんでしたし」
「その言い方だと持ち合わせてたら買ってたのかって話になるよね」
「い、いやさすがに、仕事中はないですよ」
「なるほど、アフターか……」
「……ち、違うんですよ! 独身の寂しさを紛らわせるために多少デバったってしょうがないじゃないですか! いたしかたないじゃないですか!」
「全く君はそうやって、刑事のくせに周囲にアンテナも張らず、テントばかり張ってるんだから」
「ほっといて下さいよ」
「はいはい、やれやれ」
「突然ですが、そんな侘しさを唄います。独身男の川柳―『デリバリー 写真に騙され 涙墜つ』」
「ああ、実物とかけ離れた紹介写真ね。わかるわかる、詐欺かってくらいスーパー補正掛ってることあるよね」
「『雀の子 そこのけそこのけ 平成生まれが解禁だ』」
「捕まれ君は。最早川柳じゃないし」
「『テク百点 スタイル百点 顔三十二点』」