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推理げえむ 1話~20話

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「そうだね。目撃情報といえば、大きな鞄を引きずった人が住宅街を練り歩いてたらそれはそれで眼を引くけど、住宅街なんて、通勤、通学ラッシュを過ぎたら通行人は激減する。裏道を通れば、更に人目に付かない。そうやってホームがレスの人は移動したんだよ。しかしホームがレスの人は驚いたろうね。大金が手に入ったと思ったら死体まで出てきて。当然これは金田社長にとって危険な賭けでもある。首尾良くホームがレスの人が運び屋をやってくれたとしても、遺体のことを警察に通報することだってあり得る。けど、ホームがレスの人の立場になって考えてみるとどうだろう。人はあまりにも思いがけないことに出くわすと混乱する。一刻も早くこの場から逃げたい、関わりたくない、と思うだろう。でも金銭欲というのはもう、人間の骨の髄まで刻み込まれているものだから、パニくりながらも現金はちゃっかり鞄に詰めて逃げた、というわけさ」
「だ、だからあんな奇妙な状態で遺体だけが残っていたんですね……」
「うん。そして金田社長は弁護士を利用して午前八時から午後一時までのアリバイを作り、その後、警察の呼び出しに応じて何食わぬ顔で現場に現れたわけだ。でも、明らかに怪しい行動も取ってる。弁護士を自宅に呼び付けるなんて、阿部さんがもう来ることはないと知っていた、と言ってるようなもんだよ」
「言われてみればそうね……ねえ、スガッチ、もしかして、早い段階で社長が怪しいと踏んでたの?」
「まあね。阿部さんは相当変わり果てた姿で死んでいたはずなのに、いくら自分の会社のロゴの入ったキーホルダーを持っていたからといって、それが自分の秘書の死体とはにわかに信じられないはずだよ。しかし金田社長は遺体を見てすぐにそれが阿部さんだと断言した」
 夏目と秋山が膝を叩いた。
「それで先輩、社長の犯行を裏付けるものは何かあるんでしょうか?」
「うん。秋山君、君が社長宅を訪ねた時点で家政婦が三人、さらに弁護士も居たんだったよね。しかしガレージに停めてあった車は社長が所有するベンツ一台きり。本来なら、奥さんや子供達の車も並んでいたんだろうけどね。まあとにかくこれで、弁護士や使用人達は皆、自家用車以外の交通手段を使って社長宅に来ていることがわかる。そして、ベンツはやたら壁際に停められていたんだったね。弁護士や使用人達が車を停める分のスペースを作ってあげる必要は無く、車体に傷でも付いたら大変だからわざわざ壁際に寄せて停める必要だって無い。ど真ん中に停めたって良いさ。なのにそうしない理由はなんだと思う? ……ベンツの下、床に隠されているんだよ……阿部さんを感電させたときに出来た、真っ黒いコゲ跡がね……!」
『ああっ!』
 春日の眼鏡がキラリと光る。秋山と夏目の背後で雷鳴が轟き、外で雀がチュンと鳴いた。
「よっしゃあ! 先輩、ありがとうございます! じゃあ行ってきます!」
 勢いよく立ち上がった秋山が踊るようにして事務所を飛び出して行った。
「うん。行ってらっしゃい。頑張って」
 春日は座ったままで冷めた茶をすすった。
「え……? あ、あれ……?」
 腰を浮かしかけていた夏目は茫然と秋山の背中と春日とを見比べた。
 

『先輩! お見事、大正解です! ガレージにありましたよコゲ跡! それで、社長に自首するよう迫ったところ、応じてくれました。やはり脱税の証拠である裏帳簿を管理していた阿部さんの口を封じるのが目的だったようです。ヒューズが焼け落ちて黒コゲになった発電機も物置で見付けました! そこに阿部さんが履いたと思われるつっかけや、携帯と財布の入った上着と、靴もありました! 後、ホームがレスの人ですが、家政婦さん達が人相をご存じみたいなので、すぐに見付かると思います。ははは、弁護士さんは腰を抜かして驚いてましたよ』
 スピーカーモードにした携帯から秋山の快活とした声が流れ出た。
「うん……でも弁護士をずっと傍らに置いていたのが逆に仇となったね。金田社長は証拠を隠滅する時間が作れなかったんだ」
 春日が満足そうにうなずいた。呆気に取られていた夏目が我に返る。
「え……? ち、ちょっと待って……これで終わり……? 推理ショーは? その後に待ち受けるしっちゃかめっちゃかの大立ち回りは? こういうのって普通、追い詰められた犯人が、ちいいっ、かくなるうえはっ! とか言ってか弱いあたしが人質に取られたり、あたしをかばったスガッチがその拍子に怪我したり、はずみでアッキーが殉職したりするもんじゃないの!?」
「おいおい……」
『こらこら……』
 二人の抗議を無視し、夏目が頬を引きつらせた。
「な、なるほどね……幾つも事件を解決してるはずなのに、スガッチが全然有名じゃなかったり、アッキーが万年ヒラ刑事なのに合点がいったわ……そうやって毎回々々犯人に自首を勧めるから捕り物劇に発展しないわけね……どおりで記事にもならないわけだ……」
「あっはっはっはっは、まいったね」
『いやあ、それほどでも』
「ほめとらんわぁぁぁぁぁっ! 一体何がしたいのよ! アンタ達はっ!」
 夏目が顔を真っ赤にして叫んだ。ゼィゼィ、と肩で息をする。
『どうどう』
「馬か、あたしは!」
「正真正銘のじゃじゃ馬だと思われ」
「なんですって!」
 夏目の剣幕に春日は椅子を飛び退く。
「ま、まあまあ、夏目君! ほら、君が言ってたじゃないか。謎の答えが知りたいって、僕達も一緒だよ。真実が知りたいだけなんだ」
『そうそう、そうなの。出世しちゃうと忙しくなっちゃうし。お金は欲しいけどね。でもさ、ボクは犯罪に関する謎は全て解き明かされるべきだと思うけど、謎は謎のままで良いこともこの世にはあると思うよ、夏目ちゃん。例えばさ、地球外知的生命体は絶対に存在しません、なんてヘタに立証されようものなら、もう夢も浪漫も妄想を楽しむ余地も無くなっちゃうじゃない? 余りに何でもかんでも知りたがるのはどうだろう?』
 電話の向こうから問われ、夏目は唇を噛んだ。
「…………そう、ね……確かに、答えが解ってしまったらそれはもう不思議じゃない……知らなければ良かったと後悔することだってあるかもしれない……」
『そうでしょ? じゃあ極端な話、もし全ての不思議が解き明かされたらその後どうするの?』
「全ての不思議が解き明かされたら? ……それは困るわ……何も残っていないもの……」
『そうでしょ? 困るでしょ?』
「そうね……。だから、もし全ての不思議が解き明かされたそのときは……」
『そのときは?』
「また新しい不思議を探すわ!」
  そう言うと夏目は屈託無く笑った。
 
 
 
   第十話  拳銃自殺の謎

 ある日、あるマンションの一室で、その部屋に独りで住んでいた横嶺という男が遺体となって発見された。
「しっかし、拳銃なんて一体どこから手に入れたんだか」
 横嶺の右こめかみから流れ出た血を見ないようにしながら秋山が言った。
「ああ……コレにゃ見えねえしな……」
 中年刑事が手袋を嵌めた手で頬に線を引いた。