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推理げえむ 1話~20話

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「夏目ちゃん! 人のパッション、心霊写真みたく言わないでっ!」
 ほどなく、秋山のパッションは黒コゲになった。秋山が茫然と床に膝を付き、春日と夏目がそれを指差してケタケタ笑っている。そんな微笑ましい光景がそこにあった。
 そうしていると、ふいに秋山の携帯が着信した。
「はい……秋山です……ああはい、お疲れ様です……はい……はい……いえ、泣いてませんよ? ……はい……でもボク、今日休みで……え? もう一度言って貰えますか? ……マジですか……はい……分りましたすぐ行きます」
 秋山は電話を切ると振り返った。
「先輩、隣町の空き地で黒コゲの変死体が見付かったそうです……」

 現場は住宅街にある建設予定地で、特に仕切りがあるわけでもなく、誰でも立ち入れる場所であった。しかし、積み上げられた建築資材で見通しは悪く、遺体は通りから死角になる位置に倒れていた。
「近々着工の予定だったらしいです。数名の作業員が工事プランを練りに訪れたところで遺体を発見し、通報しています。検案によるとですね、髪の縮れ具合や皮膚の状態からして、火災等による死亡ではなくて、まるでカミナリにでも打たれたようだと……」
「ねえ、検案って何?」
 夏目が春日書店号―ただの白い軽貨物―の後部座席から訊ねた。それに運転席の春日が答える。
「警察医と呼ばれるお医者さんによる検視(検死)だよ。死亡の原因やその時刻を推定したり、遺体を解剖して更に詳しく調べる必要が有るか無いかを判断してくれるんだ」
「ふうん」
「しかし、カミナリに打たれたって……ここ数日、曇ってさえいませんよね」
 秋山が助手席から仰ぎ見た蒼穹には雲一つ無い。
「遺体、かなり酷い状態でしたよ。男性だってのは判るんですけど……皮膚が焼け爛れて、髪なんて本当にチリチリパーマで……そ、それで身体が胎児のように丸まってて……思い出したらブルーになってきた……で、でもですね、遺体が横たわっていた地面やその周りには焼けた跡は全く無いんですよ。後、燃え残ったズボンのポケットからある金融会社のロゴが入ったキーホルダーが出てきたんで、調べたところ代表の方に連絡がとれまして、ご足労を願った次第です。今はその代表の方の到着待ちですね……」
「ふむ……なるほど……」
「……な、夏目ちゃん? なんか難しい顔してるけど、まさか人体発火とか、超常現象みたいなのを想像してないよね?」
 秋山が後で押し黙っていた夏目に声を掛けた。
「何言ってんの。遺体の周りに焼けた跡が無いなら、当然どこか別の場所で殺害された後、ここへ運ばれたってことでしょ」
「そ、そうだね……はは……こんな時でも結構冷静だよね、夏目ちゃん……」
「うーん……遺体を見たわけじゃないから、実感が湧いてないだけかも……それより、あたし別に何でもオカルトに結び付けるマニアってわけじゃないからね? 嫌いじゃないってだけで。あたしは不思議だと思えることに出会えたとき、その謎の答えを知りたいだけ。超常現象なんて言うと皆鼻で笑っちゃうけど、現象って言うからには必ず原因があって、結果があるわけじゃない。因果律ってやつね。……うーん……ほら、天動説ってあるでしょ。宇宙の中心は地球で、その周りを太陽や月や小さな星がグルグル回ってるっていうやつ。大昔に、千年以上もの間それが世界の常識で、当時の人々からすれば地球なんてでっかい物体が動くなんてことは有り得ないわけよ。そんなの超常現象なのね。地動説なんて唱えると笑われたり、迫害を受けた人だっていたらしいわよ。でも今は地動説が正しいって皆が知ってる。太陽系は太陽を中心に全ての惑星が公転して、自転してるって知ってる。常識が覆ったわけ。これって、現在の世界の常識が真実の全てでは無いっていう教訓だと思うのね。今の科学レベルでは認識出来ないだけで、未知の物質やエネルギーがこの世にはまだまだあって、そこに超常現象の謎の答えが隠されているかもしれないわけよね? 未確認生命体だってそう、今は未確認なだけで、探せば何処かにちゃんと存在しているかもしれないじゃない! もし本当に宇宙人やUMAがいるなら、あたしはそれを見てみたい。触ってみたい。だから―」
 夏目はどんどんとヒートアップしていく。しかし突然声がピタリと止んだ。妙な間が空く。
「……やめた。別にあなた達にしたって仕様が無いわよねこんな話。解って貰えるとも思ってないし。忘れて」
 夏目はムスッとしてシートに深く背を預けると、頬に掛った髪を指で払った。
「こ、こちらこそどうも……なんかすみません……」
 秋山はなんとなく謝っておいた。春日はその横で苦笑を浮かべていた。

「あっ、来たみたいですね」
 秋山がシートから身を乗り出した。現場の前に立つ警官に中年男が話掛けている。小太りで凡とした顔付だが、着ているものは高級そうな背広である。
 秋山が携帯を取り出し、短縮機能を使うと、春日の携帯が着信した。春日は音声をスピーカーモードにすると、フロントに取り付けた携帯ホルダーに挿した。秋山は通話状態のまま携帯を上着の胸ポケットに仕舞い、春日書店号を降りた。
 最初はゴソゴソと音がしていたが、しばらくするとスピーカーから秋山の声が流れ出た。
『こんにちは、わざわざどうもすみません……見たらすごく驚かれるとは思うんですが……確認して頂きたいことがありまして……こちらです……』
 またしばらくゴソゴソという音が続いた。
『この方が何方かお心当たりはありませんか?』
『あ、阿部君……! なぜこんな……ど、どうしてこんなことに……!』
『阿部さんと仰るんですかこの方は……では、お知り合いなんですね?』
 別の刑事の声が聞こえた。
『は、はい……阿部君は私の秘書です……』
『そうですか……もう少し詳しくお聞きしたいのですが、署の方でお話を伺っても宜しいですか?』
『え、ええ。構いませんよ』
『助かります……ではこちらに……秋山、遺体運びだして』
『わかりました。…………先輩、聞いてますか? 何か解ったらまた連絡します』
「了解。じゃ僕等帰るね。お仕事頑張って」
 と言って電話を切った。
「えっ? 帰っちゃうの?」
 シートとシートの間をまたぐように助手席へ移動していた夏目が意外そうに訊いた。
「死亡推定時刻を絞り込むにも時間が掛かるだろうしね。現時点で刑事でもない僕等に出来ることなんて一つも無いよ。さあ帰ろう、家まで送るよ」
 春日はイグニッションを回した。

「夏目ちゃん。わかってるね? お父さんとお母さんにはナイショだからね? おじさん達とここで何してたか、お父さんとお母さんには言っちゃ駄目だよ?」
「アッキー。その言い方あやしく聞こえるから。ほら、そんなことより、先、先」
 パイプ椅子に腰を下ろした制服姿の夏目が掌をパタパタさせて話を促した。
 遺体が発見されてから数日後の夕方、春日書店の事務所兼倉庫にくだんの三名が顔を揃えていた。
 秋山が息を洩らし、手帳を繰る。最初から全ての抵抗がムダだと悟っている春日はただ静かに机の角を見詰めていた。