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推理げえむ 1話~20話

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「先輩、たった十分だけじゃ何も―」
「いや、その十分間に幸一郎さんが行ったことは、幸次郎さんの部屋に忍び込み、眠っている幸次郎さんを殺害したということと、その遺体を一旦人眼に付かないところへ移動させたこと、この二点だけだよ」
「へ……?」
「その後、急いでチェスをしていた部屋へ戻り、続きをプレイする。朝になるとメイドさんが幸次郎さんの不在に気付く。その頃には天気予報通り雪は止んでいた……。そして、幸一郎さんは幸次郎さんを探しに行くと称し邸を出るのです。隠しておいた幸次郎さんの遺体をスノーモービルの後ろに乗せ、一直線に丘を目指します。あの丘で問題となるのは、如何にして足跡を残さず、あの場所へ遺体を置くか、ということ。遺体の周りに足跡が無ければ、犯人の足跡は降る雪が消したと思わせることができ、遺体がそこに置かれたのは当然、雪が止む以前である、と考えられ、朝七時までチェスをしていた幸一郎さんは容疑者から外れることができる。そこで幸一郎さんはあの丘で足跡を付けない方法として、ロープウェイを使ったんだ」
「ロ、ロープウェイ……!?」
「そのロープの途中にぶら下がり、そこから遺体を雪面に降ろせば、遺体の周りに足跡を残さすに済むってわけさ」
「ち、ちょっと先輩、あの何も無い丘のどこにロープを渡せると言うんです! ロープを掛けられるような木も建物も付近には何も無かったじゃないですか!」
「無いのなら造れば良いんだよ。水と雪を使ってね」
『…………!?』
「幸一郎さんはあの丘に、大人二人分の体重を支えられる程の、太い氷の柱を二本建てたんだよ。その二本の柱の間に丈夫なロープかワイヤーを渡せば、ロープウェイの完成だ。あの丘は私有地で部外者が訪れる心配が無く、かつ邸の関係者でも立ち寄る機会の少ない場所。ロープウェイを目撃される恐れは無い。幸一郎さんは何日も前から下準備をし、天気予報に齧り付きつつ、機会を窺ってたんだと思う。……そして今日、決行した」
「…………」
「遺体を運び丘へ到着したら、まずは高い位置にある柱へ行き、遺体を抱え、滑車でも使ってロープを伝い、適当なところで遺体を雪の上へそっと降ろす。そして遺体の上にカムフラージュのための雪を少し掛けておきます。全く雪が積もっていないのは不自然ですからね。かといって雪を掛け過ぎても駄目です、雪が遺体を覆い隠してしまっては、偶然そこを通り掛かり発見した、という言い分が通らなくなってしまいますから。……その後は自分だけ低い位置にある柱までロープを伝って行けば良い。これで雪面に足跡は残りません」
「い、いやでも……足跡の問題はそれで良くてもロープウェイが丸々残ってるじゃないですか。それに、大人二人がぶら下がれる程丈夫なロープなら、当然太くて重いだろうし、ロープを片付けるときに雪の上に落ちて、何らかの跡を残しますよ」
「うん、ロープを雪面に落とさないよう工夫が必要となる。そこで、パラグライダーと風の力を利用することにする」
「パ、パラグライダー……!」
「そう、低い位置にある柱までロープを伝って移動したら、そのロープにパラグライダーを結び付ける。そして柱を破壊すれば、キャノピーが風を受けその力でパラグライダーは浮き上がるわけです。氷の柱を破壊する際はバッテリー式の電動ハンマーを使う。工事現場で使う削岩機を小型にした物だと考えて下さい。使用人さんの何人かが聞いたガガガッ、という音はこの音でしょう。その後は遺体に近付き過ぎないよう一定の距離を保ちつつ高い位置にある柱へ移動し、同じようにその柱も破壊する。すると固定されていたロープは風に吹かれて飛んで行き、ロープの跡を雪面に残さずに済むってわけです……。後、忘れてはいけないのが柱を破壊した際に大量に出る氷の残がい。これを更に細かく砕いたり、どこかに運んでいたのでは幾ら時間があっても足りない。そこでこれらには融雪剤、塩化カルシウムを掛け、まとめて始末する」
 秋山はウンウンと頷いた後、隣にいた泉崎にヒソヒソと訊ねた。
「融雪剤って何ですか?」
「簡単に言ったら塩ですね。この地方では路面の凍結を防ぐのに使います。私達も雪掻きなんかで使うんで、倉庫にいっぱいあります」
「ああ、だからさっき先輩、しょっぱいとか何とか……」
「あの丘でアイスパーンになっている場所を二か所見付けました。あそこで氷が溶け、再び凍り付いたと考えて間違い無いでしょう。そして、柱を破壊して氷を溶かす際、電動ハンマーや融雪剤等の荷物を取りに行ったりして、高い位置の柱と、低い位置の柱の間を何往復したかは知りませんが、とにかく付いた足跡は最後にスノーモービルで一気に踏み消して邸に戻ります。そうすればウロウロと歩き回る不自然な足跡も残りません。……それと以前に届いたという脅迫状の件ですが、これは自分達兄弟が何者かに狙われている、と注意を逸らすために幸一郎さんが打った芝居でしょう。全て自作自演だったと考えるのが一番しっくりきます。どう考えても幸次郎さんが亡くなって一番利益が有るのは幸一郎さんです。仮に別の犯人がいて、兄弟が両方殺されたとして、一体誰が得をするんです? 本当に怨んでいるのなら、脅迫状など出さず黙って殺しますよ」
 春日は息を付いて手を広げた。
「……これが、事件の一部始終です」
 誰もが言葉を失っていた。
「……僕と秋山君が吹雪の中遭難して、この邸に辿り着いたとき、幸一郎さんがイライラしているように見えたのは、僕達が氷の柱を見てやしないかと、もうヒヤヒヤしていたからですよ…………氷だけに」
 室内の温度がぐっと下がった。
「風で飛ばしたパラグライダーですが、発信器でも取り付けられていて、後で回収するつもりだったのではないでしょうか。どこまでも飛んで行って、海にでも落ちてくれればそれはそれで都合が良い」
「…………」
「とにかく、あの風向きのどこかに、パラグライダーはきっとあります……!」
 幸一郎は椅子の上でガクガクと震えていた。
「……お、おかしいんだ……何もかもがおかしかったんだ……なぜ俺が家を継げない……? ならばなぜ俺に幸一郎と名付けたんだ……! なぜ『次』の字が付くあいつが家を継ぐ……! 俺が兄なんだ……なぜいつもあいつばかり可愛がられる……? 俺を見ろよ親父……」
 幸一郎はぶつぶつと呟き続けた。

 その後、ようやく到着した警官達によって大規模な捜索が行われた。春日が予想した通り丘の南に広がる森からパラグライダーが発見され、幸一郎はその場で連行された。現場を荒らした春日と秋山も連行された。
 
 
 
   第九話 青天の霹靂殺人事件

 とある日の春日書店での出来事である。
 エプロン姿の春日が制服姿の女子高生に迫られていた。
「いっ、いけないよ……そんなの……」
 春日があわを喰って後じさりする。
「そう堅いこと言わないで? ねえ、お願い」
 娘がその分距離を詰める。
「いや、ちょ、まっ……うう……こ、困るよ……」
「……何がどう困るの?」