小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

推理げえむ 1話~20話

INDEX|18ページ/67ページ|

次のページ前のページ
 

「水は一定の圧力を掛けられた後、その圧力から解放されると一気に温度が下がり、凍り易くなるという性質を持っているんだ。その性質を利用して、圧縮した水を霧状に噴出し、冷たい外気と反応させて凍らせ、氷の粒を降らせるのが人工降雪機。この機械は持ち運びできないことはないんだけど、やっぱりこの風じゃ足跡に雪を積もらせる前に、明後日の方向へ雪が飛び散ってしまう。だからこれも……無理……」
「そうですか……。じゃまあ……完全に……幸一郎さんは犯人じゃないという方向で……」
 春日はぺたりと座り込んだ。
「い、いやまあ……気持ちは分かりますよ。幸次郎さんが亡くなって一番メリットがあるのは幸一郎さんですし、自分から探しに行くって言い出して、遺体を本当に発見してしまうってのも、いかにも怪しいです。でも、無理なものは無理じゃないですか。ここは犯人が別にいるとみて一から考え直しましょ!」
「……勝手にすれば」
「ちょ、いじけないで下さいよ! ほら、気を取り直して、雪が止む午前六時までに犯行が可能な人物を割り出しましょ! ああ、それが良い! ね! ちょっと先輩! そんなとこで雪だるま造ってないで!」
「…………」
「と言っても、アリバイが完璧なのは幸一郎さんと執事さんだけなんですよね……。他の使用人の皆さんは寝ていたと答える人ばかりだし。まあ朝にはまた仕事ですから起きてる方がおかしいですけど。その朝なら、忙しく動き回りながらも、皆さんそれぞれがお互いを確認し合っていてアリバイがあるんですけどねぇ……。そういえば、午前八時頃、邸の外で雪掻きの仕事をしていた使用人の何人かが、工事現場で聞くようなガガガガガッという音を聞いてますけど、これは何だったのかな?」
 春日が作業の手を止めた。
「それ初耳」
「あ、そうですか? 使用人さんの何人かが同じことを言っていたんですが、ガガガガッという機械音がしばらく続いていたと言うんです。反響して、どこから聞こえてくるのかは分からなかったそうですが。まあどこか遠くで道路工事でもしているのだろうと思ったそうです」
「…………道路工事? こんな、雪がしこたま積もった日に、そんな朝早くから?」
「あ……」
「…………」
 春日は立ち上がって振り返ると雪面のあちこちに眼を落しながら歩きだした。そうして歩いていると、スノーモービルの通った跡を見付けた。
「……これが、幸一郎さんの付けた跡か……それで、この丘を通り掛ったとき、幸次郎さんの遺体を見付けた、と……」
 春日はスノーモービルの通った跡に沿って歩き出した。しばし歩くと雪を踏む靴底の感触が変わった。そこはアイスバーンになっていて、踏んでも全く足跡が付かなかった。春日は膝を付くと氷を爪で引っ掻き、少し口に含んでみた。すぐにぺっと吐きだす。
「しょっぱい」
 足で踏んで確かめてみると、直径三メートルくらいはアイスバーンになっていた。振り向いて遺体があった目印を見上げるとここから十メートルくらい離れている。
「どうしました? 何かあったんですか? うわあ、ちょっと冷えてきましたね……」
 春日の後ろで秋山が肩をぶるりとさせ、その場で足踏みを始めた。
「うん……ちょっと待って……」
 春日はまたスノーモービルの跡に沿って歩き出した。どうやらその跡は大きく弧を描きながら丘を上がっているようだった。そしてまた、靴底に伝わる感触が変わった。先程と同じように雪面がアイスバーンになっている。大きさも同じくらい。そこから丘を見下ろすと、遺体のあった目印があり、その向こうでは秋山が先程と同じところでまだ足踏みしていた。
「…………秋山君! 足下にあるスノーモービルの跡に沿って、ここまで歩いて来て!」
 春日の声は風に乗ってよく届くようだ。秋山はすぐに手を上げて歩きだした。どうやら返事をしたらしかったが、その声は春日には聞えなかった。秋山がゆっくりと丘を上って来る。その軌道はやはり弧を描いており、陸上競技場のトラックを時計回りに回ってくるようだった。
「はい、ありがとう」
「どうかしたんですか?」
「うん……ちょっとね……」
 春日は雪面に視線を落とした、スノーモービルの跡はその先もずっと伸びており、それに沿えば当然、邸に辿り着くであろう。今度は視線を丘の麓の、更にその先に向けると、そこには果てし無く森が拡がっていた。
「……秋山君。邸に戻ろう。最後に確かめたいことがある」
 春日の眼に光が戻っていた。

 春日は邸に戻ると泉崎の部屋を訪ね、敷地内の見取り図を用意させた。それには邸を中心として、その周りに広大な敷地が描かれており、問題の丘は邸から西に約一キロ離れたところにあった。
「丘には、こう、北から南に向かって風が吹いている」
 春日は見取り図を指でなぞった。
「泉崎さん、丘の南に広がっている森と山ですけど、どこまでがお邸の敷地ですか?」
「ええと……南に後一キロくらいはここの敷地です」
「そんなに広いんですか……。ではお聞きしますが、この丘まで一般の人が立ち入ることはありますか?」
「はい? いや、それはないですよ、立入禁止の私有地ですから。まあ、夏に子供が勝手に入って来ることはあるでしょうが、この時期は無いですよ。迷ったら死にますから」
「そうですよね。ではこの邸の方々があの丘へ足を運ぶことは?」
「……? それも無いですよ。簡単に行ける距離じゃありませんし……スノーモービルを使えば行けるでしょうが、あれは幸一郎様しか持っていませんので」
「幸一郎さんだけ?」
「ええ、私達が麓に買い物に行くときは車を使います。ちゃんとした道路を使って」
「どうも、よくわかりました。……では今からちょっと、幸一郎さんのところへ行きたいと思います」
「はあ……どうぞ……」
 泉崎は頭上に?を浮かべながら春日と秋山のために部屋のドアを開けてやった。

※春日はこの事件の犯人を幸一郎だと考えているようである。もしそうだとすると幸一郎はどのようなトリックを実行したのだろうか?

 幸一郎の部屋に行くと、中には幸一郎と執事がいた。春日と秋山の後ろには、訳も分からず、なんとなく付いて来てしまった泉崎もいた。
「失礼します。……幸一郎さん、お話があります」
「何だ急に、ゾロゾロと」
 幸一郎がジロリと睨んだ。春日はその視線を真っ向から受け止めた。
「幸次郎さんを殺し、その遺体をあの丘へ置いた犯人の話です……。その犯人は幸一郎さん、あなたですね?」
 春日の突然の発言に誰もが驚きの表情を見せた。
「ちょ、ちょっと先輩! 幸一郎さんにはアリバイがあるでしょう! さっき無理だって話になったじゃないですか!」
「な、なんだ貴様! 何で俺が犯人なんだ! そいつらの中の誰かが犯人に決まっている!」
 幸一郎が泉崎を指差した。
「そ、そんな……!」
 当の泉崎はあわあわとかぶりを振った。
「違います。使用人の人達ではありません。幸一郎さん、あなたにならこの犯行が可能なのです。これからそれをお話します……。幸次郎さんが殺害された時刻は梅津医師が検死した通り、二時から五時の間で間違い無いと思います。そして幸一郎さん、あなたは執事さんとチェスをしていたとき、途中一度トイレに立ったそうですね?」