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推理げえむ 1話~20話

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 春日は遺体の傍にいくとまた何度もシャッターを切った。次に遺体に触れてみたがその肌は凍り付いていた。シャツにも触れてみるが、濡れてはいなかった。その後も春日と秋山は何か手掛かりは無いものかと遺体をひっくり返したり、立てたり、寝かしたりした。また、鼻を擦り付けるようにして雪上を調べ上げたが、遺体の周りからは犯人のものと思われる足跡はやはり発見できなかった。
 そこで一旦邸へ戻ることに決め、スノーモービルの後ろに遺体を立てると、曲乗りのようにして輸送を敢行したのだった。

 邸に戻った春日達はまず梅津を呼び出した。
「こ、幸次郎坊ちゃん……」
 遺体に眼を落とし梅津は茫然と呟いた。
「先生、検死をお願いできますか」
「……!」
 梅津はンガッと鼻を鳴らして眼を剥いた。できないできないと何度も首を振ったが、春日達がどうしても必要なのだと頼むと、やっと頷いた。
 春日は梅津が遺体を調べている間に関係者達から話を聞いて回ることにし、最初に遺体の第一発見者である幸一郎の部屋を訪ねた。
「幸次郎さんは、殺害されていました」
「そうか……」
 ソファーに深く身体を沈めた幸一郎は眼を押さえた。
「お疲れのところ申し訳ありませんが、今朝何があったのか詳しく教えて頂けますか?」
「……明け方は……使用人の一人とチェスをしていた」
「執事さんとですね?」
「そうだ。そしたら、朝になってメイドが幸次郎の姿が邸のどこにも無いと言い出した。だから俺はスノーモービルを出して邸の周りを探した。そして丘を通り掛ったとき、そこで幸次郎の死体を見付けたんだ……」
「なるほど……。お聞きしますが、あなたは遺体に近付かなかったんですね?」
「そうだ」
「駆け寄って、幸次郎さんの生死を確かめようとは思わなかったのですか?」
「……遠くから見ても、もう死んでると思った。現場を荒らすのはまずいと思ったしな。テレビとかでやってるだろ? それに、脅迫状のことを思い出してな」
「そうでしたか、失礼しました。ではその脅迫状ですが、見せて頂いてもよろしいですか?」
「無い。頭にきて俺が破り捨てた。でも内容は覚えている。『全ての財産を手放し、この土地から出て行け。さもなくばお前ら一族を皆殺しにする』と書いてあった。ついこの前、郵便受けから使用人が見付けてきた。幸次郎のやつは笑っていたがな、当然だ、こんなことを言われてハイ、そうですかと言うことを聞くバカはおらん」
「全くです……。しかし、その脅迫状を送った人間が幸次郎さんを殺害した犯人だとして、なぜ犯人は幸次郎さんの遺体をあの丘へ置いたのでしょうか……」
「そんなもの決まってるだろ、わざと俺に見付けさせて、次はお前だと言いたいんだろう! 俺を怖がらせたいんだ……! 犯人はこの邸にいる誰かに違いない……!」
「…………」
「さあ! もういいだろう! さっさと犯人を捜し出して捕まえてくれ!」
 春日は黙って頭を下げると幸一郎の部屋を後にした。次に執事の部屋を訪ねた。
「まだ信じられません……」
 眼の下に隈を湛えて執事は言った。春日が話を聞きたいと頼むと、真摯な態度で頷いた。やはりこのようなときは積み重ねた年齢が物を言うのか、すでに落ち着きを取り戻しつつあるようだった。
「私が幸次郎様を最後にお見掛けしたのは……十二時頃でしょうか……ええ、午前零時。もうお休みになると仰られて……お部屋にお戻りになるところでございました。その後……幸一郎様に呼ばれ、午前一時からチェスのお相手をさせて頂きました。そして……女給が知らせを持ってきたのは、午前七時頃だったでしょうか」
「なるほど、午前一時から午前七時まで幸一郎さんとずっとご一緒だったわけですね。どちらかが席を離れるようなことは?」
「ええ、途中一度、幸一郎様がお手洗いに立たれました。そのときは……十分程でお戻りになりましたでしょうか」
「そうですか……。それで、七時にメイドさんがきて……。そのときにはもう雪は止んでいたので、幸一郎さんが幸次郎さんを探しに行くと言って邸を出られたんですね?」
「左様でございます。雪の方は、私の記憶が正しければ午前六時には止んでいたと思います。六時頃といえばまだ窓の外は真っ暗でしたが、七時頃には少しずつ明るくなり始めておりました」
 春日達は礼を言って執事の元を後にし、残りは手分けして他の使用人達の話を訊いて回った。そして一通り訊き終えた頃、梅津も検死を終えたところであった。
「死因はナイフで心臓を一突きにされたためですな……。死亡推定時刻は皮膚が凍ってて正確なことは分かりませんわ。せやけど、胃の内容物の消化具合から計算すると……坊ちゃんが亡くなりはったんは午前二時から午前五時の間やと思います」
 さすがに神経を使ったのか元気なく梅津が言った。春日は梅津をねぎらいゆっくり休むように言うと、他の者達にも部屋で待機するように言い、また秋山と二人で丘へと向かった。

「先輩……」
 春日は丘を見上げていた。ここへ着いてからもう随分そうしている。その表情には困惑の色が浮かんでいた。今、幸次郎の遺体があった場所には色の付いたビニールが目印として置いてある。
「先輩は……幸一郎さんが怪しいと考えていたんですね……?」
「…………うん」
「幸次郎さんが殺害されたのは午前二時から午前五時。幸次郎さんは寝間着姿でしたし、部屋に争った形跡など一切なかったため、寝ているところを襲われたとみて間違いないでしょう。そして遺体の周りの雪に足跡が無いことから、犯人の足跡は降る雪が消したと思われます。よって、犯人が遺体をここへ運んだのは雪が降っている間……。その雪は午前六時まで降っていた……」
「…………」
「幸一郎さんと執事さんがチェスをしていたのは午前一時から午前七時、途中、トイレに行くと席を離れたのも十分間だけ……。どんなにスノーモービルを飛ばしても木々を縫って邸からここまで五分で来て、五分で帰るのはどう考えても無理です。幸一郎さんは犯人じゃありませんよ」
「はあ……」
 春日はがくりと肩を落とした。
「それか、雪に足跡を付けない何か良い方法があればいいんですけど……。あ! もしかして、パラグライダーを上手く使ったんじゃないですか!?」
「うん……それは考えた。でもね、パラグライダーで風を受ける帆に当たる部分をキャノピーと言うのだけれど、このキャノピーをこの風の中コントロールすることは無理。広げた瞬間残念なことになる」
「そうかぁ……。あ、わかった! 何かで見たことがあるんですけど、雪を降らせる機械がありますよね! それを使って足跡の上に雪を降らせたんじゃないですか!?」
「ああ、それも考えた。雪を造る機械には人工造雪機と人工降雪機がある。どちらもスキー場で使われているもので、造雪機の方は巨大なカキ氷機で氷を砕き、それを散布して雪の代わりにする。これには大掛かりな設備が必要になるので、状況から考えてこれは無い。可能性があるとすれば人工降雪機だけど……」
「だけど、なんですか?」