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推理げえむ 1話~20話

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「気になってじゃないですよ全く、失礼じゃないですか。泉崎さん、どうもすみませんでした。でもまあ、せっかくなんで質問には答えてあげて貰えますか?」
「え? ええ? え……えと……それは、その、亡くなった旦那様の遺言で……。どうやら旦那様は優秀な方に家を継がせようとお考えだったらしく……」
「ほう、では幸一郎さんは優秀ではないと」
 秋山が眼を丸くした。
「あ! いやいや決して、わわ私がそう思ったわけではなく! その、あの、ど、どちらも優れているんですが、より優れた方がといいますかっ」
「ほうほう!」
「止めなさい、秋山君、困ってるじゃないか。……しかし、旧ご主人様も面倒なことをしてくれましたね。いろいろと大変でしょう、使用人の方々も」
「そぅ―ゴホッ! ゴホッ! い、いやそんな、全然ですよ?」
 どんな言葉を呑み込んだのかは分からないが、風呂場に泉崎の乾いた笑い声が響いた。

 風呂を上がり泉崎の後に付いて客室へ向かう途中、廊下で一人の老人を紹介された。
「こちら梅津先生です。この邸の優秀なお抱え医師なんですよ」
 酒で顔を真っ赤にさせた梅津と呼ばれた男は陽気に首を振った。
「いやいや、そんな大層なモンとちゃいます! ただのじぃちゃんですわ、むしろ介護が必要なのはワタシの方でしてな?」
 梅津は自分で言ってどわっと笑った。
「ほれ、坊っちゃん達が身体丈夫やからワタシもうヒマで。せやから夜はこうやってお酒いただいてます」
「いや先生、いつも朝から飲んでるじゃないですか」
 泉崎が言うと梅津はまたどかんと唾を飛ばして笑った。

「先輩、どうかしましたか?」
 与えられたベッドに潜り込みながら秋山が訊ねた。春日は隣のベッドでぼーっと天井を眺めている。
「あ、いや……ちょっとこのお邸のことをね……部外者が首を突っ込むような問題じゃないけど……何かこう……ひと騒動起きそうな予感がしてね……ほら、泉崎さんの反応を見ても、もういろいろともめてんだよきっと……何も起こらなければいいけど……。ねえ、秋山く―」
「ぐう」
「寝てるのかよ! 今君が話振ったんだよね? 別に子守唄じゃないからね今の? そんなに僕の話つまらなかった?」
 などと独りでボルテージを上げつつも、すぐに春日も眠りに落ちた。


 午前八時。春日はノックの音で眼を覚ました。一瞬たりともこの暖かなベッドから離れたくないという欲望を押し殺し、身を起してドアを開くと、そこに執事が立っていた。
「昨夜は良くお休みになられましたか? お食事がご用意できておりますのでどうぞ」
 食事などよりもまだ寝かせておいて欲しいというのが本音だが、無論断れるはずも無く、春日は秋山を揺すり起こしに掛った。
 食堂へ向かう途中、春日は執事が眼を真っ赤にして欠伸を噛み殺しているのに気が付いた。
「あ、お見苦しい所を。実は、朝方まで幸一郎様のチェスのお相手をしていたものですから……」
「え、じゃあ昨夜から一睡もしてないんですか?」
「はい。しかし今日はお休みを頂きましたので、後程ゆっくり休ませて頂きます……」
「ああそうですか。なら、幸一郎さんは今頃ぐっすりですね」
「いえ、今は少しお出掛けに……」
「え? 寝てないのに出掛けちゃったんですか? 雪はもう止んでるんですか?」
「え、ええ、雪の方はすっかり。ただ依然として風は強うございますが」
「……何か、あったんですか?」
「ええ……いや何かあったと言いますか……今朝給仕が幸次郎様を起こすためにいつも通りの時刻にお部屋へ伺ったところ、中に幸次郎様のお姿が無く……邸中お探ししてもお姿が見えないので幸一郎様にご相談したところ、幸一郎様が外を探してくると仰られまして」
「そう、ですか……」
 春日は妙な胸騒ぎを感じつつ、執事の後に続いた。その後に秋山がヨタヨタしながら続いた。

 午前十時。春日の不安が的中した。幸一郎が訃報を持ち帰ったのだ。
「丘で幸次郎の死体を見付けた。誰か一緒に来てくれ」
 幸一郎の言葉に泉崎は顔色を真っ青にさせ、執事は唇をぶるぶるとさせた。
「そ、そんな……なぜ、幸次郎様が……ま、まさか、あの脅迫状と何か関係が……?」
「脅迫状が、届いていたのですね?」
 話に割り込んだのは春日だった。
「では、その脅迫状のことは後でお聞きします。現場には我々がすぐに向かいますので、場所を教えて頂けますか」
 勿論、皆が怪訝な顔で春日を見た。
「秋山君」
「はい」
 秋山は歩み出ると名刺を前にかざした。
「○県で刑事をやってます、秋山です。プライベートですので手帳は持ち合わせておりませんが、これでも本物の刑事ですので、どうかご安心を」
「け、刑事さん……?」
 皆が驚きの眼を秋山に向けたのは言うまでもない。
 春日と秋山は邸の者達に部屋で待っているように告げると、邸のスノーモービルに跨り、幸次郎の遺体があるという丘を目指した。
 幸一郎の話によると、その丘は邸からスノーモービルをしばらく走らせたところにあるらしい。ハンドルを握る秋山はスピードを上げた。

 そして二人は、大きく拓け一面雪に覆われた丘の、その中腹に幸次郎の遺体を見付けた。空は昨日の吹雪が嘘だったかのように晴れ渡っている。その日差しが雪に反射して、まるで巨大な白いキャンバスの真ん中にポツンとシミが付いているように見えた。
 二人はスノーモービルを降りると足を雪に沈ませながら丘を昇り始めた。吹き下ろしの風が二人の髪を掻き乱す。
 春日は遺体の少し手前で足を止めた。仰向けに横たわる幸次郎の顔は真っ白だった。その胸からはナイフの柄が生えており、寝間着は血で真っ赤に染まっていた。春日は手を合わせた後、邸で用意させたカメラを取り出し撮影を開始した。通常、現場検証が行われる際、カメラが故障していた場合も考慮に入れ、二台のカメラが使用される。そこで、今回は持参していた使い捨てカメラで補助の撮影を行った。
 まずは遺体を中心に全体像を写す。遺体には所々雪が乗っており、足は裸足だった。次にレンズを遺体の周りに向けてみる。
「……秋山君、気が付いた? 遺体の周りに全く足跡が無いよ……って、何その眼?」
「あ、ち、血がちょっと、あれなんで……この場は薄眼で失礼します」
「そんな細い眼で何を見通せると言うの……」
「あ、大丈夫です。いままでもこれで何とかやってこれたんで」
「…………」
「足跡ですよね? 気付きましたとも。犯人の足跡に雪が降り積もり、消えてしまったんですね。ということは、犯人がここに遺体を放置したのは雪が止む前」
「うん……。でもさ、足跡が埋まる程降ったにしては、遺体に積もってる雪が少な過ぎない?」
「そうですかねぇ……この日差しで融けたのでは?」
「ふむ……。そんじゃま、道路が雪で塞がってて、警察が到着するのも遅れるみたいだし、このまま続けて調べてみようか」
「どうぞ、存分に」
「君もやるの!」