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推理げえむ 1話~20話

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「……そうですか。……ありがとうございます、大変参考になりました……久米さん、このままちょっとここで待っていて頂けますか」
「え? ああ、はい……」
「秋山君、我々は部屋へ戻るよ」
「あ、はい」
 秋山は水に潜るときのように大きく息を吸い込んだ。玄関を潜ると中で待っていた古島と辻が春日達を見た。
「申し訳ありません、辻さん。ちょっと外で待っていて頂けますか」
「え? は……はい……」
「な、何だよ?」
 そそくさと部屋を出て行く辻を見て、残された古島が声を揺らした。そんな古島に、春日は静かに告げた。
「……事件の真相が解りました……缶コーヒーの飲み口に毒を仕込み、末吉さんを殺害した犯人は……古島さん、あなたですね?」
「なっ!? ば、ばか言ってんじゃねえよ! コ、コーヒーは皆が好き勝手に選んで取ったんだぜ!? 俺に末吉を殺せるわけねえだろ!」

※春日が言うように、古島が末吉を殺害することは可能なのだろうか?

「ぷはっ、良い人を演じて末吉さんを油断させ、隙をみて毒を飲ませたってことですか?」
 秋山が訊いてきた。
「いや、逆だよ。大いに警戒させたのさ。校内で噂が広がってるって事は、回り回って末吉さんの耳にも入っている可能性は大、だね。そしてそれは古島さんがわざとそうなるように仕向けたから。……古島さんがコーヒーを買って来たとき、末吉さんはこう思っただろうね『自分から買いに行くって言った上に全員分オゴリだと? 気前良過ぎだろ。気持ちわりぃな……まてよ、そういえばこいつ、相当俺の事を恨んでいるみたいな事を聞いたな。まさかこのコーヒーに何か入れたんじゃないだろうな?』ってね。そうして末吉さんは、自分の一番近くにあるコーヒーではなく、一番遠く、そして最も安全そうな古島さんの近くにある缶コーヒーを取ったんだ。まんまと取らされた、と言った方が正しいかな。毒が塗られていたのはそのコーヒーだったのさ。そして、リーダー格の末吉さんが一番先に手を伸ばすであろうことも計算の内。もちろん、こう旨くいくとは限らない。末吉さんが警戒してコーヒーを飲まなければそれはそれで仕様が無い。辻さんは当然アリアリのコーヒーを取るだろうし、久米さんが毒付きを取ってしまったら、そのメーカーのコーヒーがどうしても飲みたいと言って換えてもらう。自分に毒付きが回ってきたら飲まなければ良いだけの話」
「バカヤロウ! そんなのただの想像だろ!」
「ええ、あなたが末吉さんを狙ったという事は立証できません。が、毒を使用して、その結果人が亡くなったという事実は立証できます。」
「だから! なんで俺なんだよ! コンビニの客を狙った愉快犯の無差別殺人かもしれねぇじゃねえか!」
「確かにその可能性はゼロではないです。しかし、青酸カリという毒は飲み口に塗って、誰かが手に取るのを待つ、という手口にはあまり適していません。長い時間空気中に放置すると潮解という現象で徐々に毒性を失っていきますから。その愉快犯がよっぽど勉強不足でない限り、混入という手口を選ぶでしょう」
「…………」
「青酸カリを保存するには大気に触れないよう密閉できる容器が必要です。あなたはコーヒーを買いに行って三十分程で戻って来た。遠くまで行って容器を処分する暇は無かったはず。探せばきっと見付かります。あなたの指紋付きの容器がね」
「……ああそうかい! 好きにしろよ! 探せばいい! どうせ見付かりっこ無い、そんな容器は初めから存在しないんだからな!」
「……さては、偶然通りかかったトラックの荷台にでも放り込みましたね?」
「!」
 古島は思わず顔色を変えてしまった。
「あら、当たりました? それなら、ここにいる秋山君の上司がこの辺りをテリトリーにする全ての運送会社に協力を要請し、ドライバーに荷台を調べろと連絡して貰えばすぐにカタはつきますよ?」
「…………!」
「古島……」
 いつの間にか戸口に久米と辻が立っていた。
「……古島さん……ここで粘れば粘るほど、後々不利になりますよ……?」
「……ちくしょう……あいつが悪いんだよ……! エリ子の前で恥をかかせるから……あれからエリ子とはギクシャクしっぱなしさ……分かるんだよ! チラチラ見てんだよ!」
 血を吐くような声が室内に響いた。全員が顔を背ける。そして、春日の眼にも熱いものが込み上げてきた。
「古島さん……大好きな人の前で恥をかかされた悔しさ……心中お察しします……。でもね、それって本当に相手を殺すことでしかそそげない恥だったでしょうか? なにも殺す必要は無かったんですよ! その恥が霞むくらい何かカッコイイことやってやろうとか。訴訟を起こし法廷で争うとか。熱意を持って謀略を張り巡らせ、相手をノイローゼになるまで追い詰めるとか! 他にやりようはあったはずなんですよ! あなた、恥をそそぐどころか、恥の上塗りしちゃってるじゃないですか!」
「…………」
 古島はゴミを踏み散らかしてよろめくと壁に手を付いた。
「古島……」
 久米と辻が憐れむような眼差しを向けた。そして古島も視線を返す。
「……二人とも……巻き込んですまなかった……。これ……」
 古島は頭の黒くてフサフサしたものを掴むと、それを脱いだ。
「やるよ……俺にはもう必要ない物だ……」
「い、いや、でも……」
「いいから。とっとけ」
「古島ぁ……」
 久米はそれを固く握りしめ、顔をクシャクシャにして泣いた。その後ろで辻も声を殺して泣いていた。
「……俺の心はいつの間にか、この部屋と同じように汚れきってしまっていたんだな」
 古島は自嘲気味に笑った。
「……さあ行こうか。刑事さん」
 秋山は古島の眼を正面に見据え、深く頷いた。
 そして春日は、部屋を出て行くいろいろな意味で裸になった古島の後ろ姿を、まぶしそうに見送った。
 
 
 
   第八話 白銀の丘殺人事件

 季節は冬。天気は雪。その日、春日と秋山は山で遭難していた。
 
 事の発端はバスに揺られつつスキー場へ向かおうとする道中だった。心地良くまどろんでいた春日は、若い団体客が降りてゆくのを見て、慌てて同じく舟を漕いでいた秋山を揺り起こし、バスを飛び降りた。
 わいわいと楽しそうに騒ぎながら進む若者達。その後に続く春日と秋山。そして若者達は、そのまま最寄りのレストランへと入ってゆくのであった。春日は一瞬キョトンとした後、ハッとなって慌てて引き返すも勿論バスのバの字も無い。道行く人に訊ねたところ、目的地の一つ手前のバス停だと判明した。
「巧妙な罠だ」
 春日が舌を打った。
「先輩……」
 秋山がジト目で春日を見る。
「で……でもまあ! どうせバス停一つ分の距離だし、歩いて行こうじゃないか」
「こういうところの一区間って超長いと思うんですけど……もう、仕様が無いなあ」
 途中、秋山の提案で近道しようと山道に入ったのが間違いだった。
 二人は声高に責任をなすり付け合いながら進む。積もった雪で道の場所が分からず、しかも足がズブスブと沈み歩き難いことこのうえない。木々が邪魔して視界も悪く、おまけに先程から雪が降りだし、冷たい風が二人の鼻と耳をもぎ取ろうと強く吹き付ける。晴れて両名、迷子から遭難者へと昇格を果たした次第である。