小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

推理げえむ 1話~20話

INDEX|13ページ/67ページ|

次のページ前のページ
 

 コンビニから三十分程で戻った古島は、大きなレジ袋を両手に下げていて、袋の中には缶コーヒーの他に菓子類、各々が愛煙する煙草まで入っていた。そして、今日飲み食いする分の代金は全て自分が持つとまで言い放ち、皆を驚かせた。
 古島は買ってきた缶コーヒーをそれぞれの前に置いてやった。卓に置かれた四本の缶コーヒーの内、三本は別々のメーカーのブラックコーヒーで、残りの一本はまた別のメーカーのミルク、砂糖入りのコーヒーだった。
「どれか好きなメーカーのがあったら、好き勝手に取り換えて飲んでくれ」
 古島はにこやかにそう言った。
 それぞれが思い思いの缶コーヒーを手に取り、開けて飲んだ。するとコーヒーを飲み下した末吉が急に苦しみ出し、もがいた後、白目を剥いて倒れた。

 久米達の通報によってすぐに救急車が駆け付けたが既に末吉は死亡していた。警察も到着し、捜査が行われたところ、死亡した末吉の口内と缶コーヒーの飲み口から青酸カリが検出された。また、遺体をくまなく調べたが、毒物反応が出たのは口内だけであった。
 そして、コーヒーの缶からは、末吉、古島、コンビニの店員の指紋が検出された。
 また、末吉と一緒に居た三人には身体検査が行われたが誰も毒物を所持していなかった。

「なるほど……状況は大体把握しました」
 プシュー……。当事者達から説明を受けた春日が頷いた。その後ろでは秋山がゴミとヤニの臭いに閉口していた。
「では、コーヒーを買って来たのは、古島さん、あなたで間違いありませんね?」
 プシュー……。
「ああ、レシートはあんたの後ろにいる刑事さんに渡したよ」
「はい、拝見しました。レシートには日付と時間も明記されてましたし、お部屋にあった品物と照合したところ、一致しました」
 プシュー……。
「当たり前だろ」
「そりゃそうですよね。ははは」
 プシュー……。
「あのさ……」
「なんでしょう?」
 プシュー……。
「会話の端々に除菌スプレー散布すんのやめてくんない? 俺達バイ菌じゃないんで」
「いえいえ、どうかお気になさらず」
 プシュー……。プシッ、プシッ、プシッ、プ……
「何一本丸々使い切ってんだよ!」
「いやー、しかし古島さん。もうちょっとお部屋は奇麗にした方がよろしいかと」
 春日は使い果たしたスプレー缶を、山盛りのゴミ箱にねじ込んだ。
「片付けてもどうせあいつらが汚すんだよ。てか、いいだろ別に。余計なお世話だ」
「いやいやー、彼女とか来たとき困るでしょう」
「それこそ余計なお世話だ。だから、いいんだよ! デートのときは車飛ばしてどっか行くし。こんな壁の薄い部屋じゃ何も出来ねえしよ」
「そんなもんですかねぇ」
 プシュー。
「何本持ってきてんだよ!」
「しかしこの部屋暑いですねぇ。ちょっと失礼してコートを……」
 春日は着ていたコートを脱ぐと、ゴミ箱に捨てた。
「もう着れねえってか!? 臭くて着れねえってか!?」
「そうですか。古島さん彼女いますか。可愛いですか?」
「ああ? …………まあな」
「ああそうですか! いやあ、羨ましい。さぞかしあなたにお似合いの、エラの張った女性でしょうねぇ」
「張ってねえよ! あやまれ、今すぐ俺とエリ子にあやまれ」
「それで? スタイルは良いですか?」
「ああっ? 何でそんなこと言わなきゃな―」
「教えて下さいよ! 良いんでしょ!? このこの!」
「……スタイルは、まあ、そこそこだよ」
「なるほど! そこそこエロい身体してますか! デートは主にどちらへ?」
「だから! 何でそんなことあんたに赤裸々告白せにゃならんのだ!」
「そうもったいつけずに、減るもんじゃなし!」
「神経がすり減るわ……! ちっ、行き付けのバーがあるんだよ。エリ子、カクテルが好きでよ」
「エラ張ってるのに?」
「張ってねえ! だいたいカクテルにエラ関係ねえだろが」
「じゃあそのエラ子さんが……」
「エリ子!」
 見かねて秋山が春日を咎めた。
「ちょっと先輩! ふざけるのも大概にして下さい! 申し訳ありません、大変失礼しましたエラ夫さん」
「だれがエラ夫じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 古島の怒号が向こう十軒に響いた。

 逆上した古島を落ち付かせた後、春日と秋山はアパートの外で個別に聞き取りを行うことにした。
 まず、末吉の右手に座っていた辻を連れ出して話を訊いてみた。
「最初に末吉君がコーヒーを選んで、その後は皆が適当に取ってましたよ。それと、いつもは僕が買い出しに行かされるのに、古島君が自分から行くって言い出して。しかもオゴってくれるって。こんなの初めてのことだったんでビックリしました」
「そうですか……末吉さんですが、いつも飲むコーヒーのメーカーは決まってたんですか?」
「いえ、全然です。ナシナシコーヒーならなんでも」
「ナシナシコーヒー?」
「あ、ミルク、砂糖無し、ブラックって意味です。だからナシナシコーヒー。っていうか、全員メーカーのこだわりなんて無いと思います。僕の場合、アリアリコーヒーならなんでも。あ、アリアリってのはミルク、砂糖入りって意味です」
 春日は辻に礼を言うと、次に末吉の正面に座っていた古島に話を訊いた。
「古島さん、今日皆さんの分はオゴリだったそうですね。何かイイ事でもありましたか?」
「別に。偶々金が有ったから、たまには気前の良いところを見せようと思っただけだよ」
「そうですか。でも、買い出しまで自分で行っちゃうなんて、良いとこ見せ過ぎじゃないですか?」
「…………まあな。つか、何なのこれ? 取り調べ? 俺達容疑者なわけ?」
「いえいえ! 所持品検査のときも説明があったと思いますが、これらはあくまで形式上のものです。言わばお約束です。家でお母さんがご飯は? と聞いてきたとき、食べた。と答えると、何食べた? と必ず聞いてくるのと同じことです」
「…………」
「はい、ではありがとうございました。次は久米さんを呼んで頂けますか」
「…………」
 憮然とした表情で部屋へと戻った古島と入れ替わりで、久米が出てきた。
「はい、では久米さん、お話をお聞きしていきたいのですが―久米さん? どうかしましたか?」
「……あ、いや……」
「久米さん、何かありましたら、どんな些細なことでも構いませんので教えて頂けませんか」
「え、ええ……あの……実は……ち、ちょっとこれ、チクるみたいで嫌なんすけど……古島って……と、歳の割には、その……薄くて……、か……か……」
「か?」
「……被ってるんすよ……あの、黒くてフサフサしたもの……」
「え? ○デランス的な?」
「そ、そう……で、ガッコで末吉が悪ノリして、古島から毟り取っちゃって……しかもエリ子ちゃんの前で」
「え!? 本当ですか!?」
「ええ。エリ子ちゃんも同じガッコなんで。もうめちゃくちゃヒキましたよ。……いくらなんでもあれはやり過ぎでしたよ末吉は。それで……古島そのこと相当根に持ってて……当たり前すけど。末吉がいないときはいつも『あいつ、いつか絶対ぶっ殺してやる』って言ってました。……俺達以外の他の集まりでも言ってたらしくて、その内本当に殺るんじゃないかって校内でも噂になってたっす……」