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推理げえむ 1話~20話

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「……じゃあですよ? もし、先輩の言う通り島尻さんが怪しいとして、島尻さんがトランクを開けて、カメラを取り出すフリをしてガスボンベのバルブハンドルを開いていたとしても、しばらくしたらガス漏れを警報機が知らせて、池谷さんがボンベのバルブを閉めて、それで終わりじゃないですか。タイマーも発火装置も無いのに、そう都合良くボンベを爆発させることなんてできますか? ヘタすりゃ島尻さん自身も吹っ飛びますよ?」
「うん……だから、運転手の池谷さんに何かさせたんじゃないかと思うんだ……池谷さんが何かしたから、爆発したんじゃないかと……」
「何か、って何ですか?」
「いや……それはまだ……」
 春日は秋山が持つ写真の束から一枚抜いた。今朝一番に撮られた写真には、島尻の隣に池谷も写っていて、営業スマイルの下にきちんとネクタイを締め、手には白い手袋を嵌めていた。
「……池谷さんに何かさせる……どうにかしてガスに点火させる……? ガスボンベのバルブに何か細工を?」
 秋山がぶつぶつと呟いた。
「あ、先輩、因みにバルブの開閉ハンドルには、インクでこう、書かれてましたよ……」
 秋山は手帳を取り出すと、中に『←開 閉→』と書き込んだ。
「開と……閉……か……」
 二人はしばらくその文字に眼を落した。
「…………あ、ああっ、そうか、わ、わ、わ、わかった! もしかして!」
 先に声を上げたのは秋山だった。
「も、もしかしたらやっぱり島尻さんは、カメラを取り出すフリをしてガスボンベのバルブを開いたんじゃないでしょうか?」
「……うん……それで?」
「そ、そしてトランクのハッチを閉め、バスツアー参加者達を連れてバスから遠く離れます。ガスがトランク内に充満するとガス漏れ警報機が警報を鳴らします。そしたら当然、池谷さんはボンベのバルブがちゃんと閉まっているか確認しに行きますよね。手でこう、ハンドルを捻って、閉まっているかどうか。でも実はその開閉ハンドルに細工がされていて、ハンドルに書かれた開の文字と閉の文字が逆になっていたんじゃないでしょうか……! 池谷さんは書いてある通りにハンドルを回します。しかし閉めたつもりが逆に開いていて、結局ガス漏れは止まらなかったんですよ!池谷さんが安心して車内に戻っても当然ガス漏れ警報機はまだ鳴っています。そこで、池谷さんはガス漏れ警報機が故障してしまったと考えます。そして、電化製品は叩けば直るという神話の通り池谷さんはガス漏れ警報機をバンバン叩きます。そのショックで機械がショートし、飛んだ火花がガスに引火して、大大大爆発に繋がったのです!」
 秋山がぐっと拳を握った。
「……秋山君、面白い推理だけど……それ違う」
「へ?」
「ガスボンベは二本あったんだろう? ハンドルが一方は時計回り、もう一方が反時計回りだったら不自然だし、たとえ両方ともハンドルに細工してあったとしても、あの手のガスは着臭してあるから……」
「ちゃくしゅう?」
「うん。一般的に使用されるガスってのは本来無臭なんだけど、事故防止のためにかなりの刺激臭をわざと付けてあるんだ。だから両方のバルブを全開にすれば、かなりの量のガスが流れ出る。相当に臭うから、流石に気付くよ」
「そ、そうか臭いか……それもそうですね……」
「……正解はきっと……閉めたから爆発した、だよ……」
「え? そ、それってどういうことですか!?」

※バスはどのようにして爆発したのだろうか?

「閉めたから爆発したって一体どういうことですか!?」
「うん、まず、君が島尻さんから受け取った記念撮影用のカメラは冷たかった。そして島尻さんは足に火傷ではなく凍傷を負っているふしがある……」
「と、凍傷ですか?」
「そう。短時間でも触れれば凍傷を負い、密閉された容器で保存してはならない化学薬品が在る……液化ガス……液体窒素って知っているかい?」
「え、ええまあ、名前くらいは……」
「液体窒素はおよそマイナス一九六度。専用の容器なら一カ月以上保存することも出来るけど、常温に置くとみるみる内に蒸発する。そして危険なことに、容器を密閉してガスの逃げ場を塞いでしまうと、内部に溜まったガスの圧力が容器の強度を超え、爆発してしまうんだ……島尻さんはこれを利用したんだよ」
「…………」
「下準備はサービスエリアでのトイレ休憩から。まず、わざと陽の光が入る場所にバスを誘導し、カーテンを閉めて僕らに目隠しをする。そうしておいて、サービスエリアのどこかに前もって停めておいた自分の車へ行き、用意しておいた中身が空のガスボンベを液体窒素で満たし、そのボンベをバスのトランクに積まれた二本のガスボンベの内の一本とすり替える。先に、トランクを開けて荷物を点検する、とでも池谷さんに伝えておいてからね。勿論ボンベのすり替えを誰かに見られては駄目。ツアー参加者がちらほらバスを出入りするし、他の利用客もいるから、車の陰に隠れながら慎重に移動しなければならない。しかし、満タンのボンベは女性にはかなり重い。移動の際にボンベが太ももに触れた状態になってしまい凍傷を負ったんだ。後、自分の車をサービスエリアに駐車してしまったら、帰りはタクシーでも呼んで帰らなきゃいけないけど、乗ってた車が故障したとかドライブ中に彼氏とケンカした等の理由でサービスエリアにタクシーが呼ばれるのはよくある話で、不審に思われることもない」
「な、なるほど……じゃあやっぱり、ちょっと長めのトイレ休憩はそのためだったんですか……」
「うん……そして、バスが出発して、山へ向かう間、液体窒素で満たされたボンベのバルブは少し開いておかなくてはならない。爆発しちゃうからね。そしたらトランク内には窒素が充満するわけだけど、LPガスの検知を目的として作られたガス漏れ警報機は反応しない。山へ到着し、バスを駐車させたら、バスの近くに駐車しようとしていたあの子連れ夫婦を爆発に巻き込まれないよう遠ざけ、記念撮影用のカメラを取り出すと称してトランクを開ける」
「そうか、あのカメラの冷たさは液体窒素が入ったボンベでトランク内の温度が冷やされたからだったんですね」
「うん。そして、液体窒素が入ったボンベのバルブは引き続き開いたままにしておき、LPガスが詰まったガスボンベのバルブを少しだけ開いてハッチを閉める。ツアー参加者の登山中、池谷さんはバスで休憩。やがてトランク内にガスが充満し、ガス漏れ警報機が異常を知らせる。当然池谷さんはガスボンベを調べに行くよね」
「行きますね」
「そうして、池谷さんは開閉ハンドルに書かれた文字に従ってハンドルを回したんだ。二本あるボンベのどちらからガスが漏れているかわからないから両方ともね。液体窒素の入った方のボンベはキンキンに冷えてるわけだけど、池谷さんは白い手袋をしていた。冷えた金属が皮膚に張り付くことは無く、ハンドルを回すようなごく短時間なら冷たさも感じなかっただろう。こうして遂に、液体窒素のボンベは密閉されてしまったんだ」
「そ、そうか、これで、ガス漏れも収まり、警報機が鳴り止むわけですね。そして池谷さんは安心して席に付く……」