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推理げえむ 1話~20話

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 春日はどこからか用意した双眼鏡を覗いた。今日は秋山が担当する案件ではないので、近くまで行って物色したりすることはできない。
 黒い骨組みと化したバスはタイヤが融けて傾き、その下のアスファルトには水と消火液がわだかまりを作っていた。
 トランクのハッチパネルは爆発により、かろうじて車体にぶら下がっている状態で、ハッチパネルをロックするデッドボルト(かんぬき)も爆発の衝撃でグニャグニャに変形していた。
「現場の刑事さん達の見解は?」
「それはまだなんとも……ただ、休憩中に仮眠をとっていた池谷さんがガス漏れに気付かず、静電気がスパークを起こしてガスに着火したのでは……みたいな……」
「ふむ、なるほど。確かに帯電した電荷、静電気が原因とみられている火事や爆発は今までに幾つかあるね。でもやっぱりそれ以前に、なぜガス漏れが起きたのかって話になるじゃない。ガスボンベの開閉ハンドルやその安全弁に腐食とかは見られた?」
「いえ。二本とも爆発の衝撃が原因とみられる変形は見られましたが、腐食はありませんでした」
「ふむ、薬品を使ってわざと腐食させるって手もあったんだけど、それでもないか……」
「…………」
「ああ、ごめん。……でもね、僕はこの爆発が意図的なものに思えてならないんだ」
 春日は写真の束を秋山に渡した。
「撮影した順番に並べてある。てか君、本当に島尻さんしか撮ってないし……いいけど。それのサービスエリア前後あたりの写真を見比べてみて」
 一行を乗せたバスは山へ向かう途中、高速道路のサービスエリアに寄っていた。
 秋山は順序良く写真を観察していった。どの写真にも優しく微笑む島尻が写っている。
「サービスエリアに入ったとき、島尻さんが先に降りて、バスを誘導して、そのまま三十分程トイレ休憩があったよね」
「はい。トイレ休憩に三十分はちょっと長いかなーとか思いましたけど、ツアー参加者には女性も年配の方もいたんで、まあ、そんなもんかと……」
「そうだね。そのとき、日差しがきついから、って島尻さんが車内のカーテンを閉めてくれて、彼女はその後三十分バスを離れていた」
「その三十分間に……何かがあったと……?」
「うん……写真をどんどん見ていくと、バスの出入り口が開いている写真があるだろう? それが、サービスエリアにいるときに撮られたものだよ。その後からだよ、島尻さんが怪我してるのは……」
 秋山は悲しげな目で次々と写真を捲っていった。確かに島尻は、サービスエリアを境に足に傷を負っているようだった。そして次の一枚を見ると、上着の前を大胆にはだけ、透けるような白い肌とピンクの突起が露わになり、うるんだ瞳ではにかんだ笑顔を向ける、中年男が写っていた。
「何撮ってんですかあんた! 誰ですかこれ!」
「今回現像を引き受けてくれた、フ○カラー○○店の岩松店長だよ」
 双眼鏡から眼を離さず春日は言った。
「店先で何やってんだよ! 撮らせる店長も店長だよ! なんで無駄に色白!?」
「いやあ、フィルムが数枚残ってたから、もったいなかったもんで。後、こう見えても岩松店長、絵とか書かせたらめっちゃ上手いからね」
「知らねえよ! 写真っていう『真実を写す』品物を扱ってるんだから絵のスキルとか全然要らないでしょ!」
「いやでもホントに上手いんだって、○ーラー○ーンとかプ○○ュアとか」
「そっちかい! この人絶対元カメラ小僧とかだよ。趣味が高じてこの仕事やってるよ。とにかく! 不快です! 島尻さんの笑顔と太ももの後にこの写真は不快です!」
 春日は双眼鏡から眼を離し、ひた、と秋山の眼を見詰めた。
「秋山君。確かに島尻さんは魅力的だよ。君が好意を持つのも分かる。でもね、真実を追究するのにその感情は余計なもの。きっぱり切り離して考えないと……それになにより、君には交通課の静香ちゃんという心に決めた人がいるじゃないか」
「静香ちゃん……」
「そうだよ! 脈が無いなんてヘコんでたけど、君の情熱はいつか伝わるって。静香ちゃんのことを僕に話すときの君のあの顔。あの、キラキラした笑顔と白い歯がとってもウザいよ」
「それって褒めてないですよね……」
「ヘイユー! 告ッチャイナヨ!」
「何をいきなり! そんなの無理ですよ!」
「無理じゃない! 大丈夫だって! これマジ。マジだから」
「ええっ、ほ、本当ですか……? ……いけますかね……?」
「いける。夏までにはいける」
「本当に本当ですか? ……じゃあ……その……が、頑張ってみようかな……」
「その意気だよ秋山君! 自分を信じて!」
「は、はい! わかりました! 頑張ります! いきます!」
「そうだそうだ! いけいけ!」
 そして散ってこい。
「あ、あれ? 先輩? 何か眼鏡の奥が笑って無いんですけど……」
「気のせい。では話が上手くまとまったところで、捜査を続けよう。頼りにしてるよ秋山君!」
「わっかりました! 不肖私、真実の解明に尽力する所存であります!」
 秋山は背筋を伸ばして敬礼した。
「うむ! では事件を解く手掛かりは何処にある!?」
「見当もつきません!」
「うむ! では解散! ……じゃなくて、何か考えたこととか無いの?」
「そう言われましても……あ、そういえば、一人の救急隊員が島尻さんの太ももの傷を目ざとく見付け、治療を勧めています。しかし島尻さんはこれも固辞しています。何かその隊員も先輩と同じようなこと言ってましたよ。火傷に見えない、と。雪山で遭難した人が似たような潰瘍をこしらえることがあるらしいんですが」
「ふむう……」
「しかし、池谷さんは気の毒ですが、あれほどの爆発で他に被害者が出なかったのは奇跡ですね。通常なら、駐車場内はもっと混み合っているらしいんですが、偶然にも、今日になって予約していた三つの団体が軒並みキャンセルしたとかで」
「なるほど。道理で駐車場が空いてるわけだ。確かに、間違ったらかなりの負傷者が出ていたかもしれないな……。じゃ、本題に戻ろうか。島尻さんはサービスエリアで三十分間何をしていたのか。そして何故バスは爆発したのか……」
「先輩、くどいようですけど、本当に島尻さんは今回の件と関係してるんですか? 例えば、ボンベのハンドルの閉め方が緩かったためにガス漏れが起きてしまい、トランク内にガスが充満しているときに、池谷さんが咥え煙草でハッチパネルを開けてしまい爆発してしまったとか……。あ、違うか、池谷さんは車内で発見されてるんだっけ」
「そうそう。それにハッチパネルをロックするデッドボルトが衝撃で歪んでるわけだから、それはないよ」
「ああ、ハッチは閉まっている状態で爆発が起きたってことですね。それなら、ガスがトランクの外にどんどこどんどこ漏れ出し、車内にいた池谷さんがそれに気付かず煙草を吸おうとして引火したのでは? あ、いや、どちらにせよガスが漏れてたら警報機が知らせてくれるのか……」
「うん……」