カムイ
「すまねェな。おかげで命拾いした。利助は気の毒したが」
「ハァ〜ハァ〜、助けようと思って来たんじゃない。オオカミが味を占めてしまうと、頻繁にやって来るようになる。迷惑だから、な」
「勘蔵が、足を傷つけられた。狂犬病が気になるが、町に行く足が無くっちゃ医者には行けねェや」
勘蔵は太ももを咬まれていた。毒が回らないように、足の付け根を手拭いで縛っているだけだ。
「馬を放って、悪かったな」
「いンや、おかげで助かった。怖い思いをしたオオカミは、もう来ねェと思う。ワシは文左衛門だ」
「カムイだ」
「ま、前の名は聞くメェよ。だがお前さん、睨んだ通りの凄腕だな」
と言いながら、手に持ったままのたいまつを地面に投げ出し、死体に対して手を合わせた。カムイも並んで手を合わせてから言った。
「この男は、焼いて埋めてやるが良い。血の臭いで、また別モノが来るかもしれない」
勘蔵は、血と肉片が散らばり、内臓が引き出されてちぎれている様子を見て、反吐を吐いている。
「勘蔵・・・上野の戦は、もっとひどかったさ。大筒を撃ち込まれちゃほぼ全滅だったワナ。人間の体は弱ッチィ、無残極まった・・・戦はいつも、残酷で醜悪なもんだ。ここでは、自然を相手にした戦だな」
「いいや、自然は命であり恵みを与えてくれる神、だ。時には、人に厳しく接してくることもある、ということだ」