カムイ
ふと、加代はカムイの肩越しから遠くへ目をやり、カムイはその方を振り返って見た。
人々がひと塊となって、戻って来るところだ。
赤子がむずかり始めた。
「おおよしよし、もう少ししたら乳をやろうね・・・仕事を終えて、戻ってまいったようです。わたくしのことはどうか、お忘れくださいまし。わたくしは・・・井上源三郎の、妻でございます」
その言葉を聞き一瞬動きを止めたが、背中に担いでいた籠を下ろし、中からすべての毛皮を取り出して、戸口の内側に入れた。
「これらの毛皮をお使いなさい。少しは寒さをしのげましょう。売って米に換えてもよし。道々狩り獲った、獣たちの毛皮です」
「でも、このような貴重なものを」
「それではかわりに、野菜を少し分けていただきたい」
小屋の中に入ってざるを置き、取って返した加代が縄で縛った野菜を差し出すと、「お達者で」と言い残してカムイは野菜の束を下げ、もと来た道を足早に戻って行った。