カムイ
プロローグ
ヒュウゥゥゥ ピュルピュルピュルピュルゥゥ〜〜〜
空気を切り裂く音とともに、容赦なく叩きつけてくる地吹雪の中を、背を丸めうつむき加減となり、ひたすら歩き続けるひとりの男。
方角など分からない。周りに景色はなく上下左右白一色の世界の中、ただ足を動かしているにすぎない。
前に進んでいるのかということさえ、分からないのだ。もしかしたら空中で足を前後させているだけなのではないだろうか、という感覚にある。
時折よろめき倒れそうになるが、一度立ち止まってしまうと、再び歩き始めることはできないであろうことを知っているかのように、無意識に足を前に差し出す。
運良く出会ったあばら家には、誰もいなかった。
そこで無断拝借した外套で頭からすっぽりと覆っているが、風が外套の裾をはためかせ、寒気はそのまま着衣の内に忍び込み、体温が失われていく。
皆出払っていたその家の、火の消えた囲炉裏にかかっていた鍋の、底にこびりついて凍った粟飯をこそげ取り食してから、2日経つ。
原野に降り積もっている雪を、時々口に含むだけである。
その行為は却って、体温を奪っていった。
気力だけで、歩き続ける。いや、気力すらもう、ない。
ただ、内から発する言葉に従って・・・本能に従って、歩いているにすぎない。
――生きろ、生き続けるのだ・・・。